2018年8月23日木曜日

「障碍者 働く場奪われた」 官庁が 数千人規模で水増し報告

 身体障碍者雇用促進法は、1960年に制定され、1976年には企業に身体障碍者の雇用が義務化されました。近年は、100人以上の従業員を持つ企業が定められた採用目標より1人不足するごとに、原則月5万円の納付金が課せられるなどと強化されました。
 しかしそれを定めた中央省庁で、長年にわたり障碍者雇用を水増しして報告していたことが明らかになりました。
 その数は13府省庁、殆どあらゆる省庁に及び、虚偽の採用人数は数千人で、実採用者が殆どゼロという省庁も多数ありました。
 
 国や自治体は模範となるべく、非正規従業員を含む常時雇用者の中で法定雇用率を、企業より高い25%に設定し、昨年6月1日時点で、国の33行政機関で合計約6900人の障碍者を雇用したことにしていました。しかし実際は、1976年に身体障碍者の雇用が義務化された当初から虚偽報告が恒常的に行われていたものと見られますこの不正は実質的に障碍者の職場を奪っていた訳です。
 
 この問題で、野党は21日、国会で13府省庁の担当者から合同ヒアリングを行いましたが、各省庁の担当者は「状況を精査中」を連発し、詳しい説明を避けたため憤激を呼びました
 議論を見守った障碍者団体の代表二人は、次のように述べています。
 日本障碍者協議会 藤井克徳代表:「障害者ゆえにこういう問題が起きたのだろう。障害者にとってどれだけ働く場が奪われたのか。障害者に対する背信行為だ」。
 障害者インタナショナル日本会議 佐藤聡事務局長:「障碍者用雇用促進法は国が作ったルール。そのルールを作った者が守っていない、すべての省庁、自治体を対象に調査し、公表してほしい」。
 
 東京新聞の2つの記事を紹介します。
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「障害者働く場 奪われた」 水増し数千人規模
東京新聞 2018年8月22日
 中央省庁が雇用する障害者数を水増ししていた問題で、国のガイドライン(指針)に反して昨年の雇用者に算入していた人数が各行政機関合わせて数千人規模に上ることが分かった。水増し分を除いた実際の雇用率が0%台になる省庁が複数あることも判明。財務省や経済産業省が水増ししていたことや、法務省と気象庁でも障害者手帳などを確認せずに雇用率に算入していた疑いが判明し、計七省庁に拡大した。
 複数の政府関係者が二十一日、明らかにした。厚生労働省は一部で法定雇用率達成のために意図的に不正が行われた疑いもあるとみて調べている。
 
 静岡県なども二十一日、指針違反を発表し、都道府県では計十県となった。
 厚労省は、各省庁など国の三十三行政機関で計約六千九百人の障害者を昨年雇用していたと発表したが、数千人規模の雇用を事実上、偽っていたことになる。障害者団体が「障害者の雇用の機会が奪われた」と反発するなど、制度に対する信頼が揺らいでいる。
 複数の関係者によると、指針の理解不足によるミスとみられるケースもあるが、一つの省庁だけで数百人を算入していた例も複数あった。0%台の省庁も少なくなく、各省庁の人数を積み上げると「影響人員は数千人規模になる」(政府関係者)という。
 障害者雇用促進法は一定割合の障害者雇用を義務付けている。厚労省が毎年六月の雇用状況の報告を求めている。
 
障害者雇用ガイドライン> 障害者雇用促進法は一定割合以上の雇用を義務付けており、その実現に向け、厚生労働省がガイドラインを作成している。原則として身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳を持つ人が対象。知的障害者は療育手帳か精神保健指定医などの判定書が要る。身体障害者は都道府県知事が定める医師や産業医の診断書や意見書でもよい。国や自治体の法定雇用率は2.5%、民間企業は2.2%。ともに4月に0.2ポイント引き上げられた。さらに2020年度末までに0.1ポイント上がる。達成できない従業員100人超の企業は納付金を徴収されるが、国や自治体は徴収されない。
 
 
野党ヒアリング 「精査中」連発に怒り
東京新聞 2018年8月22日
 中央省庁が障害者の雇用者数を水増しした問題で、野党は二十一日、国会で十三府省庁の担当者からヒアリングを行った。各省庁の担当者は「状況を精査中」を連発し、詳しい説明を避けた。障害者団体の代表二人も出席して、議論を見守ったが、省庁の姿勢に「障害者雇用に取り組もうという姿勢を感じない」と批判。政府には任せられないとして、障害者を入れた第三者委員会を設置して、実態解明を進めるよう迫った。
 
 野党から障害者雇用を所管する厚労省に対して、水増しの疑いをいつ認識したのか、そのきっかけは▽なぜ、公表しなかったのか▽水増しの具体例と、その対象人数は▽調査結果はいつ公表するのか-など八項目の質問が出された。厚労省の回答は、制度に対する質問を除き「調査中」だった。
 ほかの十二省庁には水増しの実態を聞いたが、いずれも「精査中」だった。
 水増し問題は、障害者雇用を率先して進める立場の省庁が、雇用者数を水増しして、雇われるはずだった障害者の雇用を奪った、と批判されている。自らも視覚障害のある日本障害者協議会の代表藤井克徳(かつのり)さん(69)と、DPI(障害者インターナショナル)日本会議の事務局長で、下半身に障害があり車いす生活を送る佐藤聡さん(51)が駆け付けたのも、早く実態を把握したいからだ。
 
 ヒアリングの途中で、藤井さんは「障害者はあてにならない前提にしているのでは。差別があるのかなという気持ちを持たざるを得ない。改めてこの国の障害者雇用のもろさを投影した」と指摘。「障害者にとってどれだけ働く場が奪われたのか。障害者への背信行為をどう省庁は認識しているのか」と問いかけた。しかし、担当者から具体的な説明はなかった。
 佐藤さんは「障害者雇用促進法という国の作ったルールを自分たちが守っていない。本来、雇われるチャンスがあった人が働く場を閉ざされたことは重大な問題だ」と指摘。省庁の担当者に「障害者を含めて第三者委員会を設置して、実態把握を進めてほしい」と迫った。省庁の担当者から発言はなかった。 (妹尾聡太、坂田奈央)