田中淳哉弁護士ご夫妻が『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」に「73年目の夏に」が載りました。
記事は、「上越市議会は今年6月、日本政府に対して核兵器禁止条約の調印を求める意見書を、全会一致で可決した。市議会が下した英断に惜しみない賞賛を送りたい」と書き出されています。市議会が「全会一致」で可決したことは本当に驚きで、政府に対する大きな圧力になる筈です。
文中には、広島の被爆者が、イスラエルとパレスチナの青年に自身の被爆体験を語った時の印象的なエピソードも紹介されています。
いつもですが、核兵器禁止条約の精神に触れることのできる記事です。
田中弁護士のブログを紹介します。
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つれづれ語り(73年目の夏に)
『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2018年8月1日付に掲載された39回目は、「73年目の夏に」。
上越市議会が全会一致で採択した意見書に触れつつ、被爆者の崇高な願いが核兵器禁止条約に結実したことについて書いています。
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73年目の夏に
1 上越市議会の英断
上越市議会は今年6月、日本政府に対して核兵器禁止条約の調印を求める意見書を、全会一致で可決した。市議会が下した英断に惜しみない賞賛を送りたい。
本コラムでもこれまでに触れたことがあるが、この条約は、核兵器の開発・実験・生産・製造・取得・保有・貯蔵・使用などを包括的に禁止する条約である。昨年7月7日に国連加盟国の約3分の2にあたる122カ国の賛成で採択された。これまでに59カ国が署名し、11カ国が批准している。今後2~3年以内に、条約の発効に必要な50カ国の批准が達成されるのではないかと言われている。
2 核兵器の非人道性
この条約は、「核兵器は絶対悪である」という価値規範によって支えられている。そして、この価値規範を確立したのは、被爆者の訴えである。
広島・長崎に投下された原爆は、爆風・熱線・放射線によって、一瞬で大量の命を奪い去った。かろうじて命をとりとめた被爆者も、出血・吐血・嘔吐・脱毛などの複合的症状を伴う急性放射線症におそわれた。爆心地から1km圏内で被爆した方の約9割が、原爆投下から1週間以内に亡くなった。
生き残った被爆者は、70年以上経った現在でも、癌・白血病・心筋梗塞・慢性肝炎・甲状腺機能低下症などの原爆症や、心的外傷後ストレス障害によって苦しめられ続けている。
核兵器は無差別に大量の命を奪い、被害者に無用な苦痛を与える。非人道的兵器とされる所以だ。
3 被爆者の崇高な願い
広島で被爆した藤森俊希氏は、イスラエルとパレスチナの青年に自身の被爆体験を語った際、「そんなひどい被害を受けたのに報復を考えなかったのか」と質問された。藤森氏は、核兵器の非人道性を語ったうえで、「世界は二度と原爆を使ってはならないことを訴え続けてきた。私たちに『報復』という言葉はない」と答えたという。
武力によって「報復」すれば、果てしない恨みの連鎖が生まれ、紛争の泥沼化を招く。被爆者は、凄絶かつ苛烈な被爆体験を語りつつ、恨みや報復を口にするのではなく、自分たちと同じ思いを他の誰にもさせたくないと訴え続けてきた。「再びヒバクシャを作らないでほしい」という崇高な願いが、政治的信条や立場の違いを超えて、幅広い感動と共感を呼び起こした。被爆者の訴えを軸にした草の根の活動によって「核兵器は絶対悪」という価値規範が形成され、核兵器禁止条約へと結実した。
4 核兵器と人類は共存できない
広島、長崎に原爆が投下されてから、73年目の夏を迎えた。
日本政府は、条約が核保有国と非保有国とを分断するものであるなどとして、署名・批准に背を向けている。
上越市議会の意見書は次のように述べる。「核兵器の非人道性を、身をもって体験した日本は、核兵器禁止条約成立へ向けて先頭に立って核兵器保有国を説得する役割を果たすべきである。それが被爆者の死に報い、人類が生き残るための唯一の道である。」。
政府と上越市議会、どちらの主張に道理があるかは自明だろう。
「核兵器と人類は共存できない」。深くて、重い被爆者の訴えを胸に刻み、行動していきたい。