2018年8月11日土曜日

安倍首相の「核の傘論」は欺瞞

 安倍晋三氏ほど唯一の戦争被曝国の首相に相応しくない人物もいません。極右思想と反核は相容れないと言ってしまえばそれまでですが、毎年、広島・長崎の原爆忌の式後に行われる被爆者代表との面談では、首相の不誠実な態度がいつも被爆者たちを憤激させています。
 
 先の核兵器禁止条約では、日本は米国の「核の傘」の下にいるのだからと、世界からの期待を裏切って参加しませんでした。
 しかし「核の傘」論こそはまさに「隠れ蓑」であって、松井市長も訴えたように「核抑止」や「核の傘」という考え方は平和にとって無意味です。
 かつて広島を訪れたオバマ大統領(当時)が「核兵器の先制不使用宣言」を行おうとしたときに、安倍首相が必死に反対して実現しませんでした。彼のいう「米国の核の傘」論は、核兵器の先制攻撃も容認するというもので、核戦争肯定論に他なりません。
 
 LITERAによれば安倍晋三氏は官房副長官時代2002年)に、「憲法上は原子爆弾だって問題ではない憲法上は。小型であれば」と語っています。針小棒大に、何でも自分に好都合に拡大解釈する安倍流の面目躍如というところで、そんな非常識なことを良く臆面もなく口にできるものです。
 それだけではなく2006年には「核兵器であっても、自衛のための必要最小限度にとどまれば、保有は必ずしも憲法の禁止するところではない」と答弁書に記しています。
 数少ない積極的核武装論者でもあるわけです。
 
 そうした核戦争肯定論・核武装論は、今回初めて長崎原爆忌に出席(広島原爆忌にはメッセージを寄せた)したアントニオ・グテレス国連総長の、理性的で人間味あふれるスピーチとはまさに対極をなすものです。
 首相は挨拶の中で「核兵器国と非核兵器国双方の協力を得ることが必要。双方の『橋渡し』に努め、国際社会の取り組みを主導していく」と述べていますが、『橋渡し』など出来もしないし、そうする気もないのに、その場しのぎの言葉を述べ立てるやり方は、もう見飽きるほど見せられてきたものです。
 
 室井佑月氏は日刊ゲンダイ連載の「嗚呼、仰ってますが」のなかで  
「ん? 核を持っている国と持っていない国の、橋渡しをしたい?
 うちらは核を持っていない国、しかも被爆国。なら、核兵器禁止条約に賛成し、そっちサイドから持っている国と話し合いをしたらいい。いい、というかそうすべき」
と批判しています。
 LITERAと日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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安倍首相の態度に被爆者団体代表が「毎年一緒で心がこもってない」と激怒
長崎でもコピペと被爆者無視
LITERA 2018年8月10日
 本サイトでは先日、広島の平和記念式典での安倍首相の冷淡で不誠実な対応、被爆者団体を利用する詐欺的姿勢を批判する記事広島原爆の日に安倍首相が卑劣な詐欺行為! 被爆者団体の要望を拒否しながら団体代表の写真と言葉を使い自己宣伝を配信したが、昨日の長崎市の平和祈念式典でもやっぱり同じ酷い対応をさらけだした。
 
 なにせ、6日の広島での式典と同様、核兵器禁止条約にはまったく触れないまま、「近年、核軍縮の進め方について、各国の考え方の違いが顕在化しております」「我が国は、非核三原則を堅持しつつ、粘り強く双方の橋渡しに努め、国際社会の取組を主導していく決意です」などと言い訳を重ねたのはもちろん、そもそも、スピーチ自体が、ほとんど広島での式典と同じ文言で、手抜きとしか言いようがないシロモノだったからだ。
 
 とくに最後の「結びに、永遠の平和が祈られ続けている、ここ長崎市において『核兵器のない世界』と恒久平和の実現に向けて力を尽くすことをお誓い申し上げるとともに、原子爆弾の犠牲となられた方々のご冥福と、ご遺族、被爆者の皆様、並びに、参列者、長崎市民の皆様のご平安を祈念いたしまして、私の挨拶といたします」と語った部分は、広島でのスピーチから「広島」を「長崎」に変えただけ。完全に“コピペ”だった。
 
 実際、安倍首相のヤル気のなさ、不誠実さは、被爆者にも完全に見抜かれていた。
 式典の後、安倍首相は長崎の被爆者5団体と面会したが、長崎原爆被災者協議会の田中重光会長は「毎年答えは一緒で心がこもっていない。唯一の戦争被爆国である日本しかできないことは、核兵器廃絶の先頭に立つことではないのか」と批判し、長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長は「核保有国と非核保有国の間を取り持つと言うが、対米追従だけで言ってることとやってることが全然違う。ゼロ回答に等しい」と述べたという(毎日新聞より)。
 
 また、最近、政権に批判的な話題をほとんど扱わなくなってしまった『報道ステーション』(テレビ朝日)だが、昨日の放送では、安倍首相が被爆者団体側の最低限の要望を踏みにじっていた事実を報道した。
 今年、被爆者団体側から安倍首相に手渡した要望書には、急遽、手書きで「総理大臣は、あいさつの中で核兵器禁止条約に一言もふれていませんが、その真意をまとめの発言で述べていただけないでしょうか」と書き加えられた。しかし、安倍首相はそれでも、最後まで核禁止条約に触れない理由を一切答えなかったのだという。
 
 田中会長は『報道ステーション』の取材に「被爆地域に来て、そして被爆者が一番多いところで、被爆者の願いは核兵器をなくすこと、そのことに触れないというのは、どんなつもりで来ているのか、どんな気持ちで来ているのか」「唯一の被爆国と言うのだったら先頭に立つべき、そうじゃなかったら言いなさんな、唯一の被爆国なんて」と語り、15歳で被爆した中島正徳さんは「ようするに適当に答えとけと。はっきりいえば毎年、基本的に似たようなことを言っている。まったく前進させようという気がない」と述べ、安倍首相の誠意のなさを指摘していた。
 
 安倍首相は、集団的自衛権行使容認を閣議決定した2014年にも、8月9日の被爆者団体との面会で、川野議長が戦後日本の平和を脅かす懸念から「集団的自衛権については納得していませんから」と語ったのに対し、「見解の相違ですね」と一蹴。昨年には、川野議長が要望書を手渡す際に「あなたはどこの国の総理ですか」「ようやく核禁止条約ができた。私たちは心から喜んでいます。私たちをあなたは見捨てるのですか」と質したが、安倍首相は事実上無視を決め込んでいた。
 
国連トップのグテレス事務総長とはあまりに対照的な安倍の態度
 まるで被爆者を敵視しているとしか思えないほどの振る舞いだが、その一方で、長崎の式典には、初めて国連のトップが出席。アントニオ・グテレス国連総長はスピーチのなかで、安倍首相とは対照的に、はっきりと核禁止条約に言及。昨年には、冷戦終結以降で、もっとも巨額の金額が核兵器の近代化に注ぎ込まれた一方、核軍縮が失速しているとしたうえで、「多くの国が、昨年、核兵器禁止条約を採択したことで、これに対する不満を示しました」と述べ、「私たちみんなで、この長崎を核兵器による惨害で苦しんだ地球最後の場所にするよう決意しましょう」と訴えたのだ。グテレス事務総長は、前日の8日にも被爆者団体代表らと面会し、「同じ悲劇が二度と起きてはいけない。私も皆さんと一緒に世界に声を大にして伝えていきたい」と語っていた。
 被爆者に寄り添い、核軍縮に向けて具体的なリーダーシップを発揮する国連トップと、唯一の戦争被爆国の首相のあまりに対照的な態度。なぜ、ここまで安倍首相は核兵器を禁止する国際条約を認めようとしないのか。それは、たんに日本が米軍の核の傘に入り、現政権がその米国にべったりだから、というだけではない。
 
 本サイトでは何度かお伝えしてきたことだが、実は安倍首相は、官房副長官時代の2002年、早稲田大学で開かれた田原総一朗氏との対話のなかで「憲法上は原子爆弾だって問題ではないですからね、憲法上は。小型であればですね」と語っている(「サンデー毎日」02年6月2日号/毎日新聞出版)。また、2006年には「核兵器であっても、自衛のための必要最小限度にとどまれば、保有は必ずしも憲法の禁止するところではない」と答弁書に記すなど、もとより積極的な核武装論者なのだ。
 
 第二次政権以降はその核保有への欲望をむき出しにすることは控えるようになったが、それでも本質は少しも変わっていない。事実、今年2月にトランプ米政権が小型核の開発を含む新たな核政策指針を発表したことに対し、安倍政権は「高く評価する」との外務大臣談話を出している。
 一方、昨年には核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)がノーベル平和賞を受賞したが、安倍首相はいまだにICANとの面会やお祝いの電話すら入れていない。
 もはや騙される人はほとんどいないだろうが、安倍首相に国際社会の核軍縮を進める気など一切なく、むしろ、核兵器を所有したい、米国にももっと核兵器開発をしてもらいたい、というのが本音なのだ。
 
「唯一の戦争被爆国として『核兵器のない世界』の実現に向けて、粘り強く努力を重ねていくこと。それは我が国の使命です」
 安倍首相は長崎でそう嘯いたが、ならば、そんな使命感などつゆほどもない総理大臣には一刻も早く退場してもらわなければならないだろう。(編集部)
 
 
  室井佑月の「嗚呼、仰ってますが。」  
安倍首相が橋渡し?  だったら核兵器禁止条約に賛成すべき
日刊ゲンダイ 2018年8月10日
「唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向けて、粘り強く努力を重ねていく」(内閣総理大臣・安倍晋三)
 これは6日、広島での平和記念式典での安倍さんの挨拶の一文。
 よく言うよ。てか、ただ用意された文を読んでるだけってか。
 
 だって、昨年の7月に国連で議題に上った、核兵器の開発や使用を全面的に禁じる「核兵器禁止条約」の参加、この国は後ろ向きだった。
 核兵器禁止条約に賛成している多くの国々から、日本が参加し、リーダーとなってくれることを期待されていたのに。
 
 安倍首相はこう続けた。
「被爆の悲惨な実相の正確な理解を出発点として、核兵器国と非核兵器国双方の協力を得ることが必要。~中略~ 双方の橋渡しに努め、国際社会の取り組みを主導していく」だって。
 ん? 核を持っている国と持っていない国の、橋渡しをしたい?
 うちらは核を持っていない国、しかも被爆国。なら、核兵器禁止条約に賛成し、そっちサイドから持っている国と話し合いをしたらいい。いい、というかそうすべき。
 
 でも、しない。世界一核兵器を保有する米国が、反対といっているから。米ポチとして、逆らうという選択肢はないみたい。
 それにしても安倍ちゃん、総裁選も抱えているし、たくさんの疑惑も抱えているし、今回の式典の挨拶は、彼にしては気を使ったほうなのか?
 昨年は「言葉では言い表せない」と言っていたのを、今年は「筆舌に尽くし難い」と言い換えるなど、細かいところでちょいちょい言葉を変えてきたって。
 
 笑かす。そんなところをイジッたって、仕方ないのに。
 以前、前年とほぼ同じ演説をして、しかも長崎でも同じ演説をして、叩かれたことあるじゃんか。
 なぜ叩かれたのか? それは心がないと判断されたからなんだけど、そういう小学生でも分かりそうな他者の気持ちが、この人は分からない。 
 
 室井佑月 作家
1970年、青森県生まれ。銀座ホステス、モデル、レースクイーンなどを経て97年に作家デビュー。TBS系「ひるおび!」木曜レギュラーほか各局の情報番組に出演中。著書に「ママの神様」(講談社)、「ラブ ファイアー」(集英社文庫)など。