2018年8月20日月曜日

20- 慰安婦問題 国連で日本政府が仰天の虚偽反論

 2011年にソウル日本大使館前に設置された「少女像」は、2015年12月28日の「慰安婦問題 日韓合意」を経たのちも、設置はむしろ急増し、2017年8月の段階で設置数は70体(「台湾春秋」)に及び、さらに同年中に10体の建設が決まっているというありさまです。
 安倍政権の下ではこの問題は悪化こそすれ、収まることはないということの証明です。
 
 1617日、スイス・ジュネーブでの国連人種差別撤廃委員会で4年ぶりとなる対日審査が行われ各委員から在日コリアンやアイヌら国内のマイノリティへの差別問題、ヘイトスピーチをめぐる法整備など、複数の項目について鋭く追及されました。
 そのなかで慰安婦問題について質問に対する日本政府代表回答は驚くべきものでした。
 安倍首相はこの問題に関しては、一貫して「政府が保管している記録文書中には、軍が慰安婦を強制連行したことを示すものはなく、この問題が注目されるようになったのは、吉田清治が捏造した体験談が新聞報道で広がったからだ」と主張していますが、17日の同委員会で大鷹正人・国連担当大使が行った回答はまさにそれとそっくりのものでした。
 日本政府や軍部は、敗戦し降伏するに当たり必死に戦時中の書類を焼却したので、政府側には当然証拠書類は残っていませんが、各種の民間資料には従軍慰安婦・慰安所に関する証拠の資料は色々と残っています。
 
 それにそもそも吉田清治の告白は別に重要なものなどではなく、慰安婦問題に関する国連のクマラスワミ報告でも、本題に入る前の「歴史的背景」という項目で先行調査のひとつとして数行紹介されているだけです。
 報告書の根幹は、あくまで「朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査」であり、元慰安婦や元兵士らからの聞き取りに拠っているので吉田証言が虚偽であってもクマラスワミ報告書の真実性とは何の関係もありません。
 それを、そうした事情にあまり詳しくないかも知れない外国委員の前で、ことさらに言い立てるのはまさに偽りの反論で糊塗しようとするものです。
 
 慰安婦問題については、安倍政権の受け止めと、外国での共通認識である女性の人権問題としても受け止めとでは実に大きな差異があります。今回もまた日本政府は的外れな認識を示し醜態を晒す結果となりました。
 LITERAの記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
国連で慰安婦問題をつめられた日本政府が安倍首相の意向に沿って仰天のデマ反論!“吉田証言と朝日の捏造のせい”
LITERA 2018年8月19日.
 16、17日、スイス・ジュネーブでの国連人種差別撤廃委員会で4年ぶりとなる対日審査が行われた。(中 略)
 今回の同委員会での対日審査で、日本は、各委員から在日コリアンやアイヌら国内のマイノリティへの差別問題、ヘイトスピーチをめぐる法整備など、複数の項目について鋭く追及された。しかし、そのなかでも耳を疑ったのが、慰安婦問題について質問を受けた日本政府代表の回答だ。
 
 まず、16日の委員会では、日本政府の慰安婦問題への取り組みについて、多くの委員から厳しい意見が飛び出した。たとえばベルギーのマーク・ボシュィ委員は、2015年の日韓合意について「沈黙を押し付けている」との声があがっていることに言及し、アメリカのガイ・マクドゥーガル委員は「なぜ慰安婦被害者が満足する形で日本政府が謝罪と補償ができないのか理解できない」(共同通信より)と批判、韓国のチョン・ジンソン委員も「あらためて日本政府に強調しておきたいのですが、慰安婦問題を否定するいかなる企みをも日本政府はハッキリと非難するよう勧告されていることです。残念ながらここでもそうした否定の動きが見られます」と釘をさした。
 
 ところがこれを受けた日本側は、翌17日の委員会でトンデモとしか言いようがない釈明を展開したのである。
 日本政府代表として回答した外務省の大鷹正人・国連担当大使は中 略)
中 略)とくに1983年に『私の戦争犯罪』という本があって、故人になられた吉田清治という方が、そのなかで『日本軍の命令で韓国の済州島において大勢の女性狩りをした』といったような、虚偽の事実を捏造して発表して、当時、日本の大手の新聞社によって、それが事実であるかのように大きく報道されて、そのことがこの慰安婦の問題の注目を高めることになって、そしてそのイメージをつくった、大きな一翼を担ったということもあるんじゃないかと思います。
 そういう形で国際社会にどんどん情報が伝わったということなんじゃないかと。そういう意味では非常にインパクトがあったというふうに思っています。
 ただ、これはのちにですね、完全に想像の産物であったことが証明されておりますし、この大手新聞社自身も、のちに事実関係の誤りを認めて、正式にこの点について読者に謝罪しております。中 略)
 ぜひとも、この慰安婦の問題については、客観的な見方をしながら議論する、評価していくということをやっぱりやらなければいけないと思っています」
 
慰安婦問題は吉田清司証言の嘘と朝日の誤報で生み出されたわけではない
 つまり、従来の慰安婦問題の「イメージ」、すなわち日本軍による強制性は、いわゆる吉田清治証言と朝日新聞報道が「捏造」した「空想の産物」に依拠しており、日本政府の強制性はないとの言い分は「無視されている」と主張したのである。
 愕然とするほかない。人々の人権をいかに守るか、侵害された人権をいかに回復させるかについて国際社会が知恵を振り絞って議論し、コンセンサスを得ようとする国連の人種差別撤廃委員会で、あろうことか、日本政府代表は例の“従軍慰安婦は吉田清治と朝日の捏造”というネトウヨそのもののデマカセと矮小化を図ったのだ。
 もっとも、日本政府が国連の委員会で吉田証言と朝日バッシングを使って強制性を否認しにかかったのは、これが初めてのことではない。2016年2月16日の国連女性差別撤廃委員会での対日審査では、当時の杉山晋輔外務審議官(前事務次官、現駐米大使)が同様の趣旨を発言。その2日後には朝日新聞が外務省に「根拠を示さない発言」として文書で申し入れをしている。
 
 こうした日本政府代表の発言は、まるで従軍慰安婦の問題が吉田清治証言にのみ依存しているような言い振りだが、言うまでもなく、そんなわけがない。だいたい、吉田証言自体、1990年代後半にはすでに信憑がないことが確定的だったし、実際、朝日が2014年に取り消したのはその吉田証言に関することだけだった。しかし、朝日の訂正以降、安倍応援団の極右界隈とネトウヨたちは勢いづき、その枝葉末節をもって慰安婦自体がなかった、あるいは慰安所はあったが軍の関与ななかった、というような虚説を垂れ流しまくっている。
 だが、日本軍が侵略したアジアの各地に慰安所をつくったことは残された軍の記録や通達からも明らかであり、歴史学的にも議論の余地はない軍が斡旋業者を使って騙して女性を連れ出した証拠や、現地の支配者や村長に命じて女性を差し出させた証拠もいくらでもある。そして、慰安所で現地の女性や朝鮮半島から連行した女性を軍が性搾取したことは、多くの被害女性だけでなく、当時の現地関係者や元日本兵、元将校なども証言していることだ。
 
中曽根康弘が慰安所をつくったことを証明する戦時文書、産経の総帥も
 たとえば海軍出身の中曽根康弘元首相は、回想記『終りなき海軍』のなかで、当時、設営部隊の主計長として赴任したインドネシアで〈原住民の女を襲う〉部下のために〈苦心して、慰安所をつくってやった〉ことを自慢話として書いている。この中曽根証言は、防衛省のシンクタンク・防衛研究所の戦史研究センターが所蔵している当時の文書「海軍航空基地第2設営班資料」において、〈気荒くなり日本人同志けんか等起る〉ようになったところで〈主計長の取計で土人女を集め慰安所を開設気持の緩和に非常に効果ありたり〉と記されているように、歴史事実として裏付けされたものだ。
 また、陸軍出身の鹿内信隆・元産経新聞社長は、桜田武・元日経連会長との対談集『いま明かす戦後秘史』(サンケイ出版)のなかで、慰安所と慰安婦が軍主導であった事実をあけすけに語っていた
「(前略)軍隊でなけりゃありえないことだろうけど、戦地に行きますとピー屋(引用者註:慰安所のこと)が……」
「調弁する女の耐久度とか消耗度、それにどこの女がいいとか悪いとか、それからムシロをくぐってから出て来るまでの“持ち時間”が将校は何分、下士官は何分、兵は何分……といったことまで決めなければならない(笑)。料金にも等級をつける。こんなことを規定しているのが『ピー屋設置要綱』というんで、これも経理学校で教わった」
 実際、靖国偕行文庫所蔵の『初級作戦給養百題』(1941年)という陸軍主計団記事発行部が発行した、いわば経理将校のための教科書の記述にも〈慰安所ノ設置〉が業務のひとつとされており、この鹿内証言も軍の資料と完全に一致するのだ。
 
 日本政府代表は国連人種差別撤廃委員会で、吉田清治の『私の戦争犯罪』を「捏造」と持ち出したが、ちゃんちゃらおかしい。同書は1983年の出版だが、鹿内証言の『いま明かす戦後秘史』も同年刊行であるし、中曽根手記が収められている『終りなき海軍』に至っては1978年に出されたものだ。
 というか、それ以前から日本でも韓国でも慰安婦についての記述がある本はいくつも出版されてきた。たしかに、元慰安婦女性が実名でインタビューに応じ、日本でそれが報じられたのは90年代に入ってからだが、その前から「本」というかたちで慰安婦に言及したものはいくらでもあるのだ。
 それを、さも吉田清治の『私の戦争犯罪』だけが慰安婦および慰安所の「イメージ」を作り上げたとする日本政府代表の言い分は、どう考えても悪質なデマゴギーではないか。はっきり言って、吉田証言の虚偽と朝日の吉田証言関連記事取り消しのみを突破口に、「慰安婦問題」の人権侵害や加害事実を否認しようとしているとしか思えない。
 
「朝日新聞が慰安婦問題をつくりだした」という詐術は安倍がつくりだした
 いや、実際、そういうことなのだ。あらためて振り返るが、朝日の慰安婦(吉田証言関連)記事の訂正後、安倍首相はその歴史修正主義をフル稼働させた。たとえば菅義偉官房長官は2014年9月5日の記者会見で、慰安婦問題に関する国連のクマラスワミ報告について「報告書の一部が朝日新聞が取り消した(吉田証言に関する)記事の内容に影響を受けていることは間違いない」とわざわざ強調し「朝日新聞は記事を取り消したが、慰安婦問題に関して国際社会で誤解を生じている」とまで発言した。
 念のため言っておくが、クマラスワミ報告のうち吉田証言について触れられているのはたかが数行にすぎない。しかも、本題に入る前の「歴史的背景」という項目で先行調査のひとつとして紹介されているだけで、報告書の根幹ではなく、報告書が立脚しているのは、あくまで正式タイトルにある「朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査」であり、元慰安婦や元兵士らからの聞き取りである。吉田証言が虚偽であっても、クマラスワミ報告書の有効性とは何の関係もないのだ。
 
 だが、安倍政権は吉田証言の虚偽をダシに、クマラスワミ報告を攻撃し、とくに同報告が慰安婦を「性奴隷」と認定したことに猛反発。今回の国連人種差別撤廃委員会でも、日本政府側が「『性奴隷』という表現は不適切である」と繰り返し主張していたが、それも吉田証言と朝日バッシングと地続きにあるのだ。
 だいたい、安倍首相自身が朝日の記事取り消し以降、国会でも散々、吉田清治を槍玉にあげて慰安婦問題の矮小化言説をがなりたててきた。
「吉田証言自体が強制連行の大きな根拠になっていたのは事実ではないか、このように思うわけであります」(2014年10月3日、衆院予算員会)
「あるいはまた、吉田清治の証言の問題もそうですよ。こういうことを、ちゃんと裏づけ調査をしていれば防げたものを、防がなかったことで日本の名誉が傷つけられたという、これは大変な問題じゃないですか」(2014年10月31日、衆院地方創生に関する特別委員会)
「(森友学園問題をめぐる朝日報道について「哀れですね。朝日らしい惨めな言い訳。予想通りでした」とFacebookに書き込んだことを問われ)これは私が書きました。(中略)(朝日新聞が報じた)吉田清治の証言に至っては、これは日本のまさに誇りを傷つけたわけであります」(2018年2月13日、衆院予算員会)
 こうやって振り返れば自明のように、つまるところ、今回の日本政府側による“慰安婦問題のイメージは吉田証言と朝日新聞報道が「捏造」した「空想の産物」”なるトンデモ発言は、安倍首相が繰り返してきた慰安婦問題の矮小化の結晶なのである。
 
国連人種差別撤廃委員会で大鷹大使が弄したもうひとつの詭弁
 いや、それだけではない。日本政府はこの国連の委員会で、もうひとつ、信じられないような詭弁を弄していた。それは2015年12月の日韓合意に関する発言だ。大鷹大使はこのように述べた。
この合意は実は当時の潘基文・国連事務総長はじめ、国際社会も歓迎して、そして、韓国人慰安婦の方もこれを評価してくださっていると私どもは認識しております
「元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、そして心の傷の癒しを達成するためにもですね、日韓両国で約束して、国際社会と元慰安婦の方々も評価してくださっているこの合意が着実に実施されて、そしてある意味この問題を次の世代に決して引きずらせないようにすること、それが、極めて重要なんではないかというふうに考えております」
 
 日韓合意が評価された、だと? たしかに日韓合意について肯定的に受け止める元慰安婦の女性はいる。しかし、もちろん否定的な元慰安婦もおり、合意直後から韓国の元慰安婦支援団体から「外交的談合」であるとの批判があがっていた。実際、昨年には韓国の検証チームが合意交渉は当時の朴槿恵大統領と安倍晋三首相の「側近による秘密交渉」であり、元慰安婦の意見が十分反映されなかったと指摘したことを忘れてはならない。
 また、韓国世論をみても、日韓合意再交渉を公約に掲げた文在寅大統領の誕生が示しているように、深刻な人権侵害に対して“カネで口を塞ぐ”かのような日韓合意に対し強く反発している。事実、元慰安婦たちは首相による「おわびの手紙」を求めているが、安倍首相は国会答弁でも「毛頭考えていない」と全否定し、いまだに直接的な謝罪は一切していないのだから当然だ。
 日本政府がそうした事実を置き去りにして日韓合意の意義を強調したことは、少女像問題を含む韓国・文政権への牽制の意味もあるが、それ以上に、「ある意味この問題を次の世代に決して引きずらせないようにする」なる大鷹大使の言葉遣いは、慰安婦問題それ自体を“もはや終わったこと”にしたいという安倍首相の欲望がダダ漏れとなったものだろう。
 
 本サイトで何度も触れてきたように、安倍首相は若手時代、慰安婦の強制連行否定論をがなりたて、「韓国ではキーセンが日常」「元慰安婦=キーセンハウスで働く売春婦=強制性のない商業的行為(ビジネス)だから問題なし」という趣旨の発言をしていた。
実態は韓国にはキーセン・ハウスがあって、そういうことをたくさんの人たちが日常どんどんやっているわけですね。ですから、それはとんでもない行為ではなくて、かなり生活の中に溶け込んでいるのではないかとすら私は思っているんです」(『歴史教科書への疑問 若手国会議員による歴史教科書問題の総括』展転社より、自民党「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」勉強会での発言)
 
 差別を煽る民族・国籍蔑視の思想が透けて見えるが、今回の国連人種差別撤廃委員会での日本政府代表の破廉恥な発言も、こうした安倍首相のヘイトと地続きの歴史修正主義の発露に他ならないものである。にもかかわらず、マスコミはこの日本政府の回答をほとんど報じていないのが不可解だ。歴史を歪曲し、人権侵害に沈黙を強要する安倍政権のおぞましさから目を背けてはならない。(編集部)