2018年8月7日火曜日

広島原爆の日 市長が政府に「役割を果たせ」と

 広島に原爆が投下されてから6日で73年になります。
 平和公園で行われた平和記念式典には、85か国の代表を含むおよそ5万人が参列し、5,393人を新たに加えた31万4,118人の原爆死没者名簿が慰霊碑に納められました。
 そして、原爆が投下された午前8時15分に全員で黙とうをささげました。
 
 広島市長は「平和宣言」の中で、政府に対して「国際社会が核兵器のない世界の実現に向けた対話と協調を進めるよう役割を果たすことを求める」と訴えました。
 また、グテレス国連事務総長メッセージを寄せ、「世界は広島の人々のリーダーシップを引き続き必要としている」と述べました。 
 
 毎日新聞の記事と広島平和宣言(全文)を紹介します。
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都合により8日は記事の更新が出来ません。次回は9日の正午前後になります。
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広島原爆の日  市長「自国第一主義」に懸念 核廃絶世界に
毎日新聞 2018年8月6日
 広島は6日、米国による原爆投下から73回目の「原爆の日」を迎えた。平和記念公園(広島市中区)で平和記念式典があり、広島市の松井一実市長は平和宣言で「自国第一主義」の台頭、核兵器の近代化などに懸念を表明。採択1年を迎えた核兵器禁止条約の発効に向け、日本政府が役割を果たすよう求めた。一方、安倍晋三首相は、日本が参加していない禁止条約には昨年に続いて言及せず、核の保有国と非保有国の「橋渡し」に努めるとした。【高山梓】 
 
 式典には被爆者や遺族ら約5万人が集い、過去3番目に多い85カ国の駐日大使らと欧州連合(EU)代表部が参列。核保有国5大国は中国を除く米仏露英が出席し、米国からは初めてハガティ駐日大使が出席した。参列者は原爆が投下された午前8時15分に合わせて1分間黙とうした。 
 
 松井市長は平和宣言の冒頭「73年前、今日と同じ月曜日の朝。あなたや大切な家族がそこにいたらと想像してください」と呼びかけ、被爆者が減少する中、その証言に耳を傾ける重要性を強調。被爆者と連帯した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の昨年のノーベル賞受賞に触れ、「被爆者の思いが世界に広まりつつある」と指摘。今年6月の米朝首脳会談を踏まえ「朝鮮半島の緊張緩和が平和裏に進むことを希望する」とした。 
 一方で、米トランプ政権などを念頭に「世界で自国第一主義が台頭し、核兵器の近代化が進められるなど冷戦期の緊張関係が再現しかねない」と強い懸念を表明。互いの恐怖に基づく核抑止論を批判し、「理性」に基づく核廃絶を訴えた。 
 禁止条約を「核兵器のない世界への一里塚」と位置づけ、批准が14カ国・地域(50カ国・地域の批准で発効)にとどまる中で日本政府に「役割を果たしてほしい」と訴えた。署名や批准を直接求める表現はなかった。 
 
 これに対し、安倍首相はあいさつで「唯一の戦争被爆国として『核兵器のない世界』への努力は我が国の使命」とする一方、「近年、核軍縮の進め方について各国の考え方の違いが顕在化している。核兵器国と非核兵器国の双方の協力が必要」と強調。核拡散防止条約(NPT)の下で「非核三原則を堅持し、橋渡しに努める」と述べた。 
 また、グテレス国連事務総長のメッセージを中満泉・軍縮担当上級代表が読み「世界は(広島の人々の)リーダーシップを引き続き必要としている」と訴えた。 
 
 松井市長と遺族代表は式典で、この1年に死亡が確認された5393人の名前を記した原爆死没者名簿を原爆慰霊碑下の奉安箱に納めた。名簿115冊の記載人数は計31万4118人となった。全国の被爆者健康手帳所持者は今年3月末で15万4859人と過去最少で、平均年齢は82.06歳。次世代にどう被爆体験を伝えていくかが課題だ。 
 
 こども代表の広島市立牛田小6年の新開美織(しんかい・みおり)さん(12)と、同市立五日市東小6年の米広優陽(よねひろ・ゆうひ)さん(12)は「平和への誓い」を読み上げ、「73年前の事実や被爆者の思いを伝える伝承者になる」と決意を述べた。 
 
 
広島平和宣言(全文)
 
 73年前、きょうと同じ月曜日の朝。広島には真夏の太陽が照りつけ、いつも通りの一日が始まろうとしていました。皆さん、あなたや大切な家族がそこにいたらと想像しながら聞いてください。8時15分、目もくらむ一瞬の閃光。セ氏100万度を超える火の玉からの強烈な放射線と熱線、そして猛烈な爆風。立ち昇ったきのこ雲の下で何の罪もない多くの命が奪われ、街は破壊し尽くされました。「熱いよう!痛いよう!」つぶれた家の下から母親に助けを求め叫ぶ子どもの声。「水を、水を下さい!」息絶え絶えのうめき声、うなり声。人が焦げる臭気の中、赤い肉をむき出しにして亡霊のごとくさまよう人々。随所で降った黒い雨。脳裏に焼きついた地獄絵図と放射線障害は、生き延びた被爆者の心身をむしばみ続け、今なお苦悩の根源となっています。
 世界にいまだ1万4000発を超える核兵器がある中、意図的であれ偶発的であれ、核兵器がさく裂したあの日の広島の姿を再現させ、人々を苦難に陥れる可能性が高まっています。
 
 被爆者の訴えは、核兵器の恐ろしさを熟知し、それを手にしたいという誘惑を断ち切るための警鐘です。年々被爆者の数が減少する中、その声に耳を傾けることが一層重要になっています。20歳だった被爆者は「核兵器が使われたなら、生あるもの全て死滅し、美しい地球は廃虚と化すでしょう。世界の指導者は被爆地に集い、その惨状に触れ、核兵器廃絶に向かう道筋だけでもつけてもらいたい。核廃絶ができるような万物の霊長たる人間であってほしい」と訴え、命を大切にし、地球の破局を避けるため、為政者に対し「理性」と洞察力を持って核兵器廃絶に向かうよう求めています。
 
 昨年、核兵器禁止条約の成立に貢献したICANがノーベル平和賞を受賞し、被爆者の思いが世界に広まりつつあります。その一方で、今世界では自国第一主義が台頭し、核兵器の近代化が進められるなど、各国間に東西冷戦期の緊張関係が再現しかねない状況にあります。
 同じく20歳だった別の被爆者は訴えます。「あのような惨事が二度と世界に起こらないことを願う。過去の事だとして忘却や風化させてしまうことがあっては絶対にならない。人類の英知を傾けることで地球が平和に満ちた場所となることを切に願う」。人類は歴史を忘れ、あるいは直視することをやめたとき、再び重大な過ちを犯してしまいます。だからこそ私たちは「ヒロシマ」を「継続」して語り伝えなければなりません。核兵器の廃絶に向けた取り組みが、各国の為政者の「理性」に基づく行動によって「継続」するようにしなければなりません。
 
 核抑止や核の傘という考え方は、核兵器の破壊力を誇示し、相手国に恐怖を与えることによって世界の秩序を維持しようとするものであり、長期にわたる世界の安全を保障するには、極めて不安定で危険極まりないものです。為政者は、このことを心に刻んだ上で、NPT(核拡散防止条約)に義務付けられた核軍縮を誠実に履行し、さらに、核兵器禁止条約を核兵器のない世界への一里塚とするための取り組みを進めていただきたい。
 私たち市民社会は、朝鮮半島の緊張緩和が今後も対話によって平和裏に進むことを心から希望しています。為政者が勇気を持って行動するために、市民社会は多様性を尊重しながら互いに信頼関係を醸成し、核兵器の廃絶を人類共通の価値観にしていかなければなりません。世界の7600を超える都市で構成する平和首長会議は、そのための環境づくりに力を注ぎます。
 
 日本政府には、核兵器禁止条約の発効に向けた流れの中で、日本国憲法が掲げる崇高な平和主義を体現するためにも、国際社会が核兵器のない世界の実現に向けた対話と協調を進めるよう、その役割を果たしていただきたい。また、平均年齢が82歳を超えた被爆者をはじめ、放射線の影響により心身に苦しみを抱える多くの人々の苦悩に寄り添い、その支援策を充実するとともに、「黒い雨降雨地域」を拡大するよう強く求めます。
 本日、私たちは思いを新たに、原爆犠牲者のみ霊に衷心より哀悼の誠をささげ、被爆地長崎、そして世界の人々と共に、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けて力を尽くすことを誓います。
平成30年(2018年)8月6日
広島市長 松井一実