2018年8月19日日曜日

日本政府が何よりやるべきことは「日米地位協定」の見直し

 元外交官の孫崎享氏が、「日本政府が何よりやるべきことは『日米地位協定』の見直し」だと述べました。
 この「日米地位協定の抜本的見直しの政府への提言」は7月27日の全国知事大会で満場一致で採択され、8月14日、全国知事会会長の上田清司・埼玉県知事らが政府(外務、防衛両省〉と在日米大使館を訪問し、提言書を提出したものです。
 
 同じく第二次世界大戦の敗戦国であるドイツやイタリアではとっくに地位協定を(何度も)改定し、国の主権を協定に入れているのにもかかわらず、日本だけは只の1回も改定せずに、米軍占領下の力関係をそのまま明文化した日米地位協定を遵守して来ました。
 
 孫崎氏は、「もし、日本政府が真摯に戦後体制からの脱却を図るのであれば、何よりも優先して『日米地位協定』の改定を行わなければならない。それを今日まで何ら変更することなくきたのは、日本の指導者の怠慢と米国に対峙できない意志力の弱さである」と述べています。
 
 参考までに、翁長知事の下で沖縄県庁職員が現地に行くなどしてドイツ、イタリアの実態を調査した結果の概要は下表のとおりです。
 
米国との地位協定の比較 (沖縄県調査)
 
駐留米軍への国内法の適用
米軍基地への立入権
訓練演習への関与
日 本
国内法は原則適用され
日本側の施設区域内
日本側に規制権限なし。
 
 ない
への立入権の明記なし
訓練の詳細な情報通報なし
ドイツ
米軍施設の使用や訓練
ドイツ連邦、州、自
米軍訓練・演習にドイツ側
 
 ・演習に国内法適用
 治体の立入権明記
 の許可、承認など必要
イタリア
米軍の訓練行動などに
イタリア軍司令官
イタリア軍司令官への事前
 
対し手国内法順守義務
 米軍基地に自由に
通告や、イタリア側の承認
 
 
 立入可能
 など明記
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 日本外交と政治の正体  
日本政府が何よりやるべきことは「日米地位協定」の見直し
孫崎享 日刊ゲンダイ 2018年8月18日
 全国知事会が7月下旬、在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定を国に求める提言を初めて採択した。
 
 地位協定はこれまで一度も見直されていない。8日亡くなった沖縄県の翁長知事が「日本の安全保障は全国的な課題で、国民全体で考えていく必要がある」と発言したのを契機に「全国知事会米軍基地負担に関する研究会」が発足。研究を重ねてきた結果をまとめた。
 
 日本は1951年9月8日、サンフランシスコ講和条約に署名して独立し、同日、当時の吉田首相も米陸軍第6軍下士官クラブ(旧)で安保条約に署名した。この安保条約では、米国側の責任者・ダレスが「我々(米国)が望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間駐留させる権利を獲得する」との姿勢で臨み、米国はそれを勝ち取ったのである。米国側の権利を明記したものが「行政協定」であり、それが今日の「日米地位協定」に引き継がれた。
 
「日米地位協定」は、米国が「望むだけの軍隊を望む場所に、望む期間、駐留させる権利を獲得」したもので、占領体制の継続であるもし、日本政府が真摯に戦後体制からの脱却を図るのであれば、何よりも優先して「日米地位協定」の改定を行わなければならない。それを今日まで何ら変更することなくきたのは、日本の指導者の怠慢と米国に対峙できない意志力の弱さである
 
 そもそも、世界を見渡して欲しい。外国軍が駐留している独立国はほとんどない。米軍によって、イラクは独裁者サダム・フセインを排除することができたが、イラク政府はその後、米軍の撤退を求めた。私はソ連解体後のウズベキスタンに初代大使として赴任したが、彼らが最初に行ったことはロシア軍の全面撤退である。その時、「ロシア軍が撤退したら、中国が攻めてくる、イランが攻めてくる、インドが攻めてくる、パキスタンが攻めてくる、だからロシア軍にいてもらおう」という議論はなかった。外国軍はいらない。それは独立国の条件だろう。
 
 同じ敗戦国のドイツに米軍はいる。しかし、ドイツは地位協定を幾度も改定し、ドイツの主権を協定に入れることに成功している。こうした流れを考えれば、知事会が日米地位協定の改定を国に求めたのはあまりにも当然な動きだ。 
 
 孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。
 
 
主張 日本での米兵犯罪 起訴率2割未満は異常すぎる
 しんぶん赤旗 2018年8月18日(土)
 2017年の1年間に日本国内で発生した米軍関係者(米兵、軍属、それらの家族)による一般刑法犯の起訴率が約17%にとどまり、8割超が不起訴処分になっていることが、日本平和委員会が法務省への情報公開請求で入手した資料で分かりました。全国の一般刑法犯の起訴率約38%(16年)の半分以下という異常さです。米軍関係者による犯罪が後を絶たない背景となっている不当な特権的扱いは直ちにやめるべきです。
 
裁判権放棄の「密約」今も
 法務省が開示したのは「平成29年分合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」と題する統計資料です。平和委員会が今月上旬発表しました。それによると、17年の米軍関係者による一般刑法犯(刑法犯全体から自動車による過失致死傷などを除く)は、起訴15件に対して不起訴が72件にも上っています。
 
 重大なのは、「強制わいせつ」(4件)「強制性交等」(3件)「住居侵入」(8件)「暴行」(2件)「横領」(2件)「毀棄(きき)・隠匿」(5件)で全て不起訴になっていることです。「窃盗」も32件中30件が不起訴です。一般刑法犯ではない「自動車による過失致死傷」でも169件中145件が不起訴となっており、起訴率は約14%にすぎません。
 
 日本人などと比べ米軍関係者の起訴率が極めて低くなっているのは、日米地位協定17条に関する「密約」があるからです。
 地位協定は、日米安保条約に基づく在日米軍の法的地位などを定めています。17条は刑事裁判権について規定し、米兵や軍属の「公務外」での犯罪は日本側に第1次裁判権があるとしています。ところが、日本政府は同規定に関し「日本国にとって実質的に重要であると考えられる事件以外」については米兵、軍属、家族に対し「第1次の権利を行使する意図を通常有しない」と米政府に秘密裏に約束していました(1953年)。日本側の第1次裁判権の大部分を放棄する「密約」に他なりません。
 
 日米両政府は2011年、この「密約」文書をようやく公表します。その際、文書に記録されているのは日本側の「一方的な政策的発言」であり、日米間の合意ではなかったと、「密約」だったことを否定しました。その上で、現在の犯罪については米軍関係者とそれ以外の場合で起訴・不起訴の判断に差はないと主張しています。
 しかし、米軍関係者による犯罪の極めて低い起訴率は、裁判権放棄の「密約」が今も効力を持っていることを明瞭に示しています。ごまかしは通用しません。
 
 日米地位協定17条をめぐっては、「公務中」の米兵や軍属が起こした犯罪の場合は、そもそも第1次裁判権は日本側になく、米側にあるという問題もあります。平和委員会が入手した統計資料によると、「自動車による過失致死傷」で日本に第1次裁判権のあった169件とは別に、「公務中」に起きたものが46件あり、全て不起訴になっています。
 
地位協定の抜本的改定を
 米軍関係者に対する特権的な扱いは、性犯罪をはじめとする重大犯罪が繰り返される要因になっています。「密約」を廃棄し、米軍関係者もその他の被疑者と同じ扱いをすべきなのは当然です。同時に、米軍に「治外法権」とも言うべき特権を保証している日米地位協定の抜本的な改定が不可欠です。