トルコのリラが暴落し世界に衝撃を与えています。これはアメリカに反旗を翻した(=イラン、中国、ロシアに近づいた)トルコにアメリカが経済戦争を仕掛けたためです。アメリカの判断基準は実に単純で、アメリカに「屈服するのか・そうでないのか」の二律背反です。
そしてアメリカは、またまたロシアに対する「経済制裁」を宣言しました。イギリス在住の元GRUメンバーとその娘を、ロシアがノビチョク(毒ガス)で攻撃したことへの報復というのが口実です。
今年3月4日、公園でその父娘が倒れた時に、間髪を入れずに「ロシアの諜報機関によりノビチョクを噴霧されたため」と宣言したのはテレサ・メイ英首相でした。普通こうしたケースでは しかるべき機関が調査して証拠を添えて発表するものなのに、国のトップが何の証拠も示さずにいきなり断言したのは如何にも胡散臭く、政治的意図が透けて見えるものでした。
果たして、VXガスの10倍の威力があって僅か1ミリグラムを浴びれば死に至る筈なのに、娘は1ヶ月後に無事に退院し、その後父も退院しました。そんな風にして、ロシア仕業説は既に大幅に風化しているというのに、性懲りもなく「ロシア犯人説」を理由に制裁を発動しても人々を納得させることは出来ません。
しかしアメリカは第二次大戦後70年あまり一貫して好き勝手に振る舞って来たので、他国が納得するかどうかに関心はありません。他国とは隔絶した国力と軍事力がそれを支えてきましたが、ここにきてアメリカの財力は衰えを見せ、肝心の軍事力でも、シリアでの内戦?にロシアが参戦すると瞬く間にアメリカが後ろ盾になっていたIS勢力が掃討された例でも分かるように、むしろロシアの方が優っていると見られるようになりました。
櫻井ジャーナルは、これらアメリカが仕掛ける経済戦争は、アメリカの苦境を反映したものに他ならないと見ています。
またアメリカは自国に屈服しないイラン政権を経済的に孤立させようとして、イランから原油を購入している関係各国に対し取引を止めるように強制しました。しかしこれにも何一つ合理的な理由はないので、ロシア・中国・インドがアメリカの要求に従う筈はないし、欧州連合の外務・安全保障政策上級代表も、イギリス・フランス・ドイツの外務大臣も署名した声明で“イランと正当な事業を行っているヨーロッパ企業を我々は断固保護する”と述べています。これではアメリカの意図は砕かれ、逆に孤立を深めるのはアメリカであるとFinian CUNNINGHAMは述べています(マスコミに載らない海外記事)。
安倍首相はいまも「トランプ至上主義」なのでしょうが、世界の趨勢はこのように大いに変化しつつあります。リーダーを目指したいのなら少しは勉強すべきでしょう。
櫻井ジャーナル、マスコミに載らない海外記事の記事を紹介します。
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中国、ロシア、イラン、トルコなどに経済戦争を仕掛けるアメリカの苦境
櫻井ジャーナル 2018年8月12日
アメリカ政府はロシアに対する「経済制裁」を宣言、これに対してロシア政府は「経済戦争の布告」だと批判、報復する意思を示した。今年(2018年)3月4日に元GRU(ロシア軍の情報機関)大佐のセルゲイ・スクリパリとその娘のユリアがロシアの政府機関にノビチョク(初心者)という化学兵器で攻撃された報復だとしている。
この話を最初に主張したのはイギリスのテレサ・メイ政権だが、主張を裏付ける証拠は示されていない。つまり説得力がない。日本にはアメリカ支配層の流す情報を全て「事実」だとして垂れ流す人もいるが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領でさえ、当初は攻撃とロシアを結びつける証拠が欲しいと発言、同大統領のスポークスパーソンは「おとぎ話的な政治」は行わないとメイ首相の言動を批判していた。
イギリス議会では労働党のジェレミー・コービン党首がメイ首相に対し、主張を裏付ける証拠を示すように求めたが、保守党だけでなく労働党の議員から罵倒されていた。それがイギリスの現状だ。
化学兵器について研究しているイギリスの機関、DSTL(国防科学技術研究所)のチーフ・イグゼクティブであるゲイリー・エイケンヘッドは、スクリパリ親子のケースで使われた神経ガスがロシアで製造されたものだとは特定できなかったと語っている。元ウズベキスタン駐在イギリス大使のクレイグ・マリーも同じ話をDSTLの情報源から聞いたと早い段階から語っていた。
ノビチョクは1971年から93年にかけてソ連/ロシアで開発されていた神経物質の総称で、ロシアで使われることはなかったと言われている。それをメイ政権が口にしたのは「ロシア」を強調したかったからだと見られている。
この化学兵器の毒性はVXガスの10倍だと言われている。VXガスの致死量は体重70キログラムの男性で10ミリグラムだとさているので、単純に考えるとノビチョクは1ミリグラム。ユリアの場合、さらに少ない量ということになるが、4月9日に退院、彼女の映像をロイターが配信した。
その後、父親も退院したとされているが、状況は不明。ユリアへの取材も厳しく制限されている。この親子は保護されているのではなく、拉致され、軟禁状態にあるのではないかと推測する人もいるほどだ。
スクリパリの話が荒唐無稽であることは、当然、アメリカ政府も知っている。嘘がばれていることも認識しているはずだ。が、そうしたことはドナルド・トランプ政権にとってはどうでもいいこと。ロシアに経済戦争を仕掛けることが重要なのである。
すでにアメリカは中国に対する経済戦争を開始、イランやトルコも経済的に攻撃されている。アメリカの権力層が世界を支配するシステムに楯突く国々との戦争を始めているとも言える。
すでにアメリカはジョージアを使った南オセチアへの奇襲攻撃でロシア軍に惨敗、シリアではバシャール・アル・アサド体制を倒すために送り込んだジハード傭兵がロシア軍によって駆逐されてしまった。その間、ロシア軍が保有する兵器がアメリカの兵器を上回る性能を持っていることが判明している。
そして始まったのが経済戦争。アメリカはこれまで軍事力とドル体制で世界に君臨してきたが、軍事力の優位は揺らいでいる。基軸通貨として認められているドルを発行する特権が残された支配の仕組み。ドル体制を受け入れている国なら通貨戦争を仕掛けて潰すことは難しくないのだが、すでにドル離れは始まっている。アメリカに破壊されたイラクやリビアはそうした国だった。
このドル体制を守る重要な仕組みのひとつがペトロダラー。サウジアラビアをはじめとする産油国に石油取引の決済をドルに限定させ、そうした国々に集まったドルをアメリカへ財務省証券や高額兵器の購入といった形で還流させるというもの。トランプ政権がサウジアラビアを重視する理由はそこにあり、イランを敵視する政策につながる。
また、現在、ドル離れの震源地は中国とロシアである。ロシアは世界有数の産油国であり、この国を完全に制圧してエネルギー資源を支配できれば、中東をさほど気にする必要がなくなる。歴史的にロシアを支配できれば世界を支配できるという考え方がアングロ・サクソンにはあり、そうしたこともロシア攻撃に影響しているだろう。
イラン、中国、ロシア、そしてこの3カ国に近づいたトルコにアメリカ政府が経済戦争を仕掛けたのは必然なのだが、中国の対米輸出の相当部分はアメリカ系企業によるもの。そうした企業にアメリカへ戻れと言っているのかもしれないが、ネオコンによって社会基盤を破壊されたアメリカへ企業が戻っても機能しそうにない。
イランを孤立化させるというトランプ発言は、むしろアメリカの世界的孤立化
マスコミに載らない海外記事 2018年8月12日
Finian CUNNINGHAM 2018年8月8日
Strategic Culture Foundation
今週、トランプ政権がイランに対し厳しい経済制裁を再度課したが、この動きは、世界の目から見れば、テヘランではなく、ワシントンが、更に孤立化する危険がある。
ドナルド・トランプ大統領は、ワシントンが再度課した徹底的な経済制裁に伴う声明を発した。“イラン政権は選択しなければならない”彼は言った。“威嚇的な不安定化の振る舞いを改め、グローバル経済に復帰するか、経済的孤立化の道を継続するか。”
皮肉にも、トランプが発した言葉そのものは、アメリカ合州国に、よりぴったり当てはまる。
益々錯乱したこのアメリカ政権は“威嚇的な不安定化の振る舞い”を撤回し、他の国々のように、多国間規則の尊重を始める必要がある。さもないと、アメリカとその一方的ないじめは、“経済的孤立化の道を継続する”ことになる。
トランプは今週“誰であれイランと事業を行っているものは、アメリカとは事業ができなくなる”とも警告した。ドナルド、願い事には気をつけろ! イランを巡るその警告そのものが、自国にとってずっと悪い結果になりかねない。
アメリカ大統領は、無謀に、強く出すぎている恐れがある。イランを経済的に孤立化させるアメリカの取り組みに、世界の他の国々にも加われという彼の攻撃的な要求は、ひどく裏目に出る可能性が高い。
特にトランプは、準備通貨としてのアメリカ・ドル依存から、国際貿易関係を離れさせようとして、ロシアや中国や他の国々が進行中の歴史的方向を強化しつつあるのだ。準備通貨としてのこの特権的立場が無ければ、アメリカ・ドルは暴落するはずで、終わりのない責任を負わないドル札印刷に依拠しているアメリカ経済も丸ごとそうなるはずなのだ。
ロシアと中国とインドは、イランとの事業上のつながりを切れというワシントンの高圧的要求に従うつもりはないことが知られている。
イラン石油産業にとって、最大の輸出市場である中国もインドも、トランプ経済制裁に従うつもりはないと言っている。
アメリカの絶対的命令への抵抗は、必然的に、他の国々に、貿易をする際の新たな資金調達の仕組み考え出させることになる。これが更に、アメリカ・ドルの国際的地位の崩壊を促進する。
今週、国際核合意を破棄し、不当にイランに敵対するトランプ政策に、欧州連合ですら反撃した。
欧州連合外務・安全保障政策上級代表フェデリカ・モゲリーニは、イギリス、フランスとドイツの外務大臣も署名した声明で“イランと正当な事業を行っているヨーロッパ企業を我々は断固保護する”と述べた。
28カ国が加盟するEUは、テヘランとの事業を継続している国々に対する攻撃で、トランプ政権が計画しているいわゆる“二次的経済制裁”から、イランとの商業的つながりを法的に保護することを可能にする障壁規則を導入しつつある。
今週、ワシントンにより再度課された経済制裁は、アメリカ・ドル支払いを使用した国際貿易をするイランの能力を断ち切るのが狙いだ。だが、もし他の国々がイランの経済的なつながりに断固とした態度をとれば、彼らは必然的に、ユーロ、人民元、ルピーやルーブルによる二国間通貨取引を使って、アメリカの制限を回避するだろう。
これは、ロシア-中国の二国間関係の戦略的重要性の増大、中国の世界的経済構想である一帯一路構想、ユーラシア経済統合、多極世界を形成する上での、BRICS (ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の重要性の増大を含むいくつか重なる要因のおかげで、既に進行中の移行なのだ。
BRICSは世界経済の約40パーセントを占めており、グループには、トルコやイランなどの新たな参加国が入りつつある。
これは必然的に、かつて国際貿易を支配していたアメリカ・ドルの強力な優位が、衰えつつあることを意味している。ドルの余命はいくばくもないのだ。一方的に経済制裁を行使することによるイランや他の国々に対するトランプのいじめは、世界準備通貨としてのアメリカ・ドルを放棄する世界的な方向を促進するに過ぎない。
一国の通貨は、他の国々からの尊敬、あるいは信頼を受ける能力が全てだ。トランプの下で、ワシントンは急速に、こうした価値を浪費しつつある。
トランプ大統領の対イラン政策には正当な基盤がない。
(中 略)
国連監視員たちは、ほぼ何十もの報告で、イランが核兵器開発を制限する合意の条件を完全に遵守しているのを確認している。合意の自分の義務を遵守していることから、イランは、核合意が定めている経済制裁緩和を受ける資格が十分ある。
アメリカによる(イランとの)合意拒絶は、もっぱら、イランの“悪意ある行動”だとする根拠の無い侮辱的主張に基づいている。これは、ロシアを“選挙干渉”で、中国を“軍事拡張主義”で非難するのと同じアメリカのゆがんだ宣伝的精神構造だ。
(中 略)
核合意の他の調印国全員と、優秀な国連の専門監視員たちが、イランが過去三年間完全に遵守していることを確認している。
トランプのイランに対する明らかな不誠実さとウソと、国際社会に対し、主権国の事業の行い方についての法外な命令で、ワシントンが、ならずもの国家として、国際的規範や外交の常識を外れたものと見なされ、更に孤立するのは確実だ。アメリカの世界的な地位は歯止めなく落下しつつあるが、ドルの地位も、まもなくそれに続くだろう。
トランプ政権がイランに対して強気な態度をとっているのは、ボールを手にした駄々っ子が、足を踏み鳴らし、他の連中に、帰るからなと脅しているようなものだ。アメリカの場合、他の連中はこう言っている。“行きな、せいせいするよ。”