2017年8月13日日曜日

安倍政権「人づくり革命」は人間をマシンにするもの(浜矩子教授)

 安倍首相が”ニッポン1億総活躍プラン” で同一労働・同一賃金の実現に踏み込む」と述べたのは昨年の1月(施政方針演説)でした。それは正規・非正規間の賃金や待遇格差を是正するという意味になりますが、それから1年半以上が経過してもそんな気配は見られません。

 「同一労働・同一賃金」は提唱されてから約100年、ILO(国際労働機関)憲章に謳われてからも70年に及ぶ「不朽のテーマ」で、それが実現されればそのリーダーは歴史に永く名を留めます。しかしそれ実現するためには社会の在り方」の認識に一大変化を起こさせなくてはならず、真っ先に経済界が大反対する筈です。
 それなのに安倍首相にはそんな認識はなく(当然彼らを説得する自信もなく)、労働行政を所管する厚労省に事前の相談をしていなかったと言われています。要するに何の見識も持たず、何の覚悟もなく、あたかもあの空疎な「(新)三本の矢」のようなノリで「同一労働・同一賃金」を口にしたということのようです。

 絶えず国民の目先を変えることで政権の延命を図ることしか余念のない安倍首相が、「同一労働同一賃金と長時間労働の是正」を主要なとする「改革実行計画」を出したのは今年3月でしたが、「高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ制度)」で既に馬脚を現しているのはご存じの通りです。
 アベノミクスを「アホノミクスト」と酷評した浜矩子同志社大教授が、新内閣の目玉政策「人づくり革命」は、人間をマシンにするものと批判しています。
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人間をマシンに…安倍政権「人づくり革命」の露骨な魂胆
 浜矩子同志社大教授 日刊ゲンダイ  2017年8月12日
 新内閣の目玉政策「人づくり革命」。革命的に人を改造するということですから、人を人と思っていない安倍政権の思想が露骨に表れています。

 今年3月に出された働き方改革実行計画は、「同一労働同一賃金と長時間労働の是正」「柔軟で多様な働き方」が2つの大きな柱ですが、いずれも非常に問題がある。「同一労働同一賃金と長時間労働の是正」については、労働生産性の向上のためにやると、実行計画に明確に書かれています。労働者の当然の権利としての同一労働同一賃金ではなく、過労死を避けるための長時間労働の是正ではない。「労働者」という名前の機械の生産効率を高めるためにやると明示されています。

「柔軟で多様な働き方」も労働法制によって保護された状態の労働者の数を減らすことが狙い。働きたい時に働きたい場所でやりたい仕事ができると、フリーランスや個人事業主になることを勧めていますが、被雇用者でなくなれば企業はその労働者の健康や働く環境に一切責任を持たなくていい。これを先取りしたのが、問題になっている高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ)で、専門性や時間を切り売りすることにつながっていくでしょう。実はこのことは、はやりの「シェアリングエコノミー」と表裏一体の関係にある。人間を人権が守られている状態から追い出し、“労働マシン”としてこき使うための政策なのです。

■アベノミクスの失敗を挽回するため
 一連の働き方改革に安倍政権が執着する背景には、アベノミクスがうまくいっていない焦りがある。首相本人も最近はアベノミクスという言葉を使わなくなっていて、「三本の矢」についても国民の記憶からデリート(消去)したいと思っているのではないか。失敗を挽回するため、強い経済づくりの別のテーマが必要。革命的に突破したいという必死さがにじみ出ています。

「高プロ制度」をめぐり連合が混乱しましたが、先日、講演会で一緒になった神津里季生会長は、「決して容認したわけではなく、メディアに流れをつくられてしまった」と釈明していました。神津会長はきちんとした人なので、実際そういう感触があることは理解します。ただ、働き方改革実行計画は、次の国会で「高プロ制度」を必ず実現すると宣言しているのです。働き方改革実現会議に労働側の代表として参加しながら、ブレーキをかけられなかったのは事実です。
 とはいえ、最終的に連合が高プロ制度を認めない態度を明確にしたのはよかった。どうも野党も労働側も、「同一労働同一賃金」や「長時間労働の是正」を安倍政権に言われた段階で、自分たちのお株を奪われたような喪失感に陥ってしまい、このテーマから逃避している感じがあるのです。しかし実行計画をよく読めば、その思想は全く異質なものだと分かるはず。本来、ILO(国際労働機関)が示す「同一労働同一賃金」は、同一価値を生み出した労働には同一賃金が支払われるというものですが、働き方改革では、同一賃金の基準は「成果と貢献度」だとしていて、ILOの考え方とは違う
 今からでも遅くありません。野党と労働側は“敵情視察”を徹底し、政府の意図を見抜いて暴走を止めて欲しい。

 浜矩子  同志社大学教授
 1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。
 安倍首相が”ニッポン1億総活躍プラン” で同一労働・同一賃金の実現に踏み込む」と述べたのは昨年の1月(施政方針演説)でした。それは正規・非正規間の賃金や待遇格差を是正するという意味になりますが、それから1年半以上が経過してもそんな気配は見られません。

 「同一労働・同一賃金」は提唱されてから約100年、ILO(国際労働機関)憲章に謳われてからも70年に及ぶ「不朽のテーマ」で、それが実現されればそのリーダーは歴史に永く名を留めます。しかしそれ実現するためには社会の在り方」の認識に一大変化を起こさせなくてはならず、真っ先に経済界が大反対する筈です。
 それなのに安倍首相にはそんな認識はなく(当然彼らを説得する自信もなく)、労働行政を所管する厚労省に事前の相談をしていなかったと言われています。要するに何の見識も持たず、何の覚悟もなく、あたかもあの空疎な「(新)三本の矢」のようなノリで「同一労働・同一賃金」を口にしたということのようです。

 絶えず国民の目先を変えることで政権の延命を図ることに余念のない安倍首相が、「同一労働同一賃金と長時間労働の是正」を主要なとする「改革実行計画」を出したのは今年3月でしたが、「高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ制度)」で既に馬脚を現しているのはご存じの通りです。
 アベノミクスを「アホノミクスト」と酷評した浜矩子同志社大教授が、新内閣の目玉政策「人づくり革命」は、人間をマシンにするものと批判しています。
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人間をマシンに…安倍政権「人づくり革命」の露骨な魂胆
 浜矩子同志社大教授 日刊ゲンダイ  2017年8月12日
 新内閣の目玉政策「人づくり革命」。革命的に人を改造するということですから、人を人と思っていない安倍政権の思想が露骨に表れています。

 今年3月に出された働き方改革実行計画は、「同一労働同一賃金と長時間労働の是正」「柔軟で多様な働き方」が2つの大きな柱ですが、いずれも非常に問題がある。「同一労働同一賃金と長時間労働の是正」については、労働生産性の向上のためにやると、実行計画に明確に書かれています。労働者の当然の権利としての同一労働同一賃金ではなく、過労死を避けるための長時間労働の是正ではない。「労働者」という名前の機械の生産効率を高めるためにやると明示されています。

「柔軟で多様な働き方」も労働法制によって保護された状態の労働者の数を減らすことが狙い。働きたい時に働きたい場所でやりたい仕事ができると、フリーランスや個人事業主になることを勧めていますが、被雇用者でなくなれば企業はその労働者の健康や働く環境に一切責任を持たなくていい。これを先取りしたのが、問題になっている高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ)で、専門性や時間を切り売りすることにつながっていくでしょう。実はこのことは、はやりの「シェアリングエコノミー」と表裏一体の関係にある。人間を人権が守られている状態から追い出し、“労働マシン”としてこき使うための政策なのです。

■アベノミクスの失敗を挽回するため
 一連の働き方改革に安倍政権が執着する背景には、アベノミクスがうまくいっていない焦りがある。首相本人も最近はアベノミクスという言葉を使わなくなっていて、「三本の矢」についても国民の記憶からデリート(消去)したいと思っているのではないか。失敗を挽回するため、強い経済づくりの別のテーマが必要。革命的に突破したいという必死さがにじみ出ています。

「高プロ制度」をめぐり連合が混乱しましたが、先日、講演会で一緒になった神津里季生会長は、「決して容認したわけではなく、メディアに流れをつくられてしまった」と釈明していました。神津会長はきちんとした人なので、実際そういう感触があることは理解します。ただ、働き方改革実行計画は、次の国会で「高プロ制度」を必ず実現すると宣言しているのです。働き方改革実現会議に労働側の代表として参加しながら、ブレーキをかけられなかったのは事実です。
 とはいえ、最終的に連合が高プロ制度を認めない態度を明確にしたのはよかった。どうも野党も労働側も、「同一労働同一賃金」や「長時間労働の是正」を安倍政権に言われた段階で、自分たちのお株を奪われたような喪失感に陥ってしまい、このテーマから逃避している感じがあるのです。しかし実行計画をよく読めば、その思想は全く異質なものだと分かるはず。本来、ILO(国際労働機関)が示す「同一労働同一賃金」は、同一価値を生み出した労働には同一賃金が支払われるというものですが、働き方改革では、同一賃金の基準は「成果と貢献度」だとしていて、ILOの考え方とは違う
 今からでも遅くありません。野党と労働側は“敵情視察”を徹底し、政府の意図を見抜いて暴走を止めて欲しい。

 浜矩子  同志社大学教授
 1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。