2017年8月16日水曜日

存立危機事態なのは平和主義

 日刊ゲンダイが日本の現状を「存立危機事態なのは平和主義・・・」と的確にまとめる記事を出しました。
 主要国の首脳たちがアメリカに自制を求め、米朝間の緊張関係を話し合いで解決するように求めているのに対して、安倍首相だけはかなり早いタイミングでもはや話し合いの段階は過ぎたと宣言しました。また小野寺防衛相はグアムの近辺にミサイルが撃ち込まれれば、「日本の存立危機にあたる可能性がないと言えない」と審査会で答弁し、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に当たるという認識を示しました。
 また元外務官僚で政権のアドバイザー的な役割を果たしたことのある岡本行夫氏に至っては、13日のサンデーモーニング(テレビ朝日)米国に発射された北朝鮮のミサイルを日本が黙って見送れば日米安保は終わりだ」と発言しました。
 こうした恐るべきハイテンションは一体何なのでしょうか。斎藤文男・九大名誉教授は、
 「グアムの沖合にミサイルが落ちることが、日本にとって国民生活が破壊されるような存立危機にあたるかと言われれば、まったくそんなことはないでしょう。むしろ、ミサイルを撃ち落とせば、北朝鮮に対する宣戦布告と受け取られ、全面戦争に突入して、かえって国土と国民を危険にさらす事態になる可能性が高い」と述べています。
 現有のPAC3は射程が短いためミサイルに届かないし、仮に届くタイプにグレードアップしても撃ち落とせる精度はとても持っていないと思われますが迎撃できなくても領空よりもはるかに高い空間を飛翔するミサイルを攻撃すれば宣戦布告と受け取られるでしょう。
 安倍首相は北朝鮮だけを一方的に悪者に仕立てていますが、本当にそうなのでしょうか。
 過激な言葉で北朝鮮への攻撃を示唆しているのはむしろトランプ大統領の方で、21日から始まる米韓合同軍事演習にはかつては「斬首作戦」の名が冠されていました。
 世界の主要国は既に採っていた北朝鮮に対する経済封鎖をICBMの発射実験を契機にさらに強化しました。
 米国は今年に入ってから2月、4月、5月と既に3回ICBM「ミニットマン3」の発射実験を行っていますが、8月2日には北朝鮮を意識してカリフォルニア州の空軍基地から6700km離れた西太平洋マーシャル諸島環礁に向けて発射実験を行いました。
 とても北朝鮮が一方的に悪いなどと言えるものではありません。
 それよりもグアム沖にミサイルが発射されれば「存立危機事態」だなどと言い立てて、すぐに集団的自衛権を行使して参戦したがる安倍政権の方が余程問題です。そうしたいがために憲法違反の「集団的自衛権の行使」を可能とする新安保法制(戦争法)を強行成立させたのだと言ってしまえばそれまでですが、「風が吹けば桶屋が儲かる」の論理で無理やり「存立危機事態」にこじつけることは絶対に許せません。
 日米安保条約を守るために、日本を危険にさらす。そんな倒錯政権に国民は黙って従うのか。防衛相が 存立危機事態 と言えば、唯々諾々と受け入れるのか」、「米国追従しか頭にない安倍政権は、トランプ大統領をいさめるどころか一緒になって危機をあおる。米国の言いなりで国を危機にさらす首相など今すぐ引きずり降ろさなくてはいけない(天木直人氏)」・・・ そういう問題なのだと日刊ゲンダイは述べています。
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巻頭特集
存立危機事態なのは平和主義 安倍政権で暗黒の終戦記念日
日刊ゲンダイ 2017年8月15日
 不穏なムードの中で迎える終戦記念日となった。
  今朝(15日)、安倍首相と米国のトランプ大統領が電話会談。北朝鮮が米国領のグアム島周辺に弾道ミサイルを発射すると威嚇していることを受け、対応策を協議したとみられる。
  日本国内でもミサイル危機への緊張感が高まっている。グアムに向かう弾道ミサイルが上空を通過するとして、地上配備型迎撃ミサイル「PAC3」が配備された島根、広島、愛媛、高知の4県の知事はきのう(14日)、首相官邸で安倍と面会し、警戒態勢の強化を求めた。さながら“戦争前夜”の物々しさだ。
  実際、武力行使の瞬間は刻一刻と近づいているように見える。10日の衆院安全保障委では、小野寺防衛相が、グアムが攻撃されれば「日本の存立の危機にあたる可能性がないとも言えない」と答弁。集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」にあたるという認識を示した。「わが国に対する存立危機事態になって、(武力行使の)新3要件に合致することになれば対応できる」とも言った。つまり、弾道ミサイルがグアムに届く前に、日本が迎撃するケースを想定しているのである。
 北の脅威や国防を言われると、国民の多くは「迎撃は当然」と考えるかもしれない。集団的自衛権の行使やむなし、と。だが、北朝鮮からグアムに向けてミサイルが発射されることが、本当に日本の存立危機にあたるのか。なぜ、集団的自衛権の行使が可能なのか。原点に立ち返って、冷静に考える必要がある。
■曖昧な概念は恣意的に運用される
 武力行使の「新3要件」は、安保法制定の審議過程で出てきた概念だ。そのひとつが「存立危機事態」であり、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義された。ほかの2要件は「国民を守るために他に適当な手段がない」「必要最小限度の実力行使にとどまること」とされている。
  九大名誉教授の斎藤文男氏(憲法)が言う。
グアムの沖合にミサイルが落ちることが、日本にとって国民生活が破壊されるような存立危機にあたるかと言われれば、まったくそんなことはないでしょう。むしろ、ミサイルを撃ち落とせば、北朝鮮に対する宣戦布告と受け取られ、全面戦争に突入して、かえって国土と国民を危険にさらす事態になる可能性が高い。安保法の議論の時も、ホルムズ海峡の機雷掃海が盛んに言われましたが、今回のグアムのような想定はありませんでした。『存立危機』は非常に曖昧な概念だから、恣意的に使うことができるということが、これでハッキリしたわけです。どんどん拡大解釈され、安易に集団的自衛権を行使することになりかねません」
  安保法の審議で、政府は「集団的自衛権が際限なく行使されることはない」と説明してきた。「フルスペックではなく限定的」という表現もあった。もちろん、このウソツキ政権が言うことを信じたわけではないが、「発動要件の適用は厳格に行う」という国民との約束がほごにされるのを黙って見過ごすわけにはいかないのだ。
日米同盟を守るために国土と国民を危険にさらす倒錯
  日本の存立が脅かされるような客観的危険がなくても、米国への攻撃があればミサイルを迎撃できるというのなら、それは、フルスペックの集団的自衛権行使そのものだ。グアム沖にミサイルが発射されたら存立危機という論法でいけば、米国がいさかいを起こせば、いつでもどこでも日本が集団的自衛権を行使することが可能になる。世界中のどこへでも、米国の戦争に付き合うことになってしまう。
 「それこそが安保法の狙いなのでしょう。日米軍事同盟を最優先し、米国の戦争に付き合うことができるように憲法解釈を変えて、安保法を成立させた。そういう実態を存立危機などという用語で隠し、法的なウソで国民をだましたのです。存立危機と言えば、『国を守るため』『国民のため』という名目で、世界中に自衛隊を派遣して戦争ができる。そういう国になったということを国民は直視すべきです。安倍政権に安保法や共謀罪を与えたことで、戦後民主主義も平和主義も過去の遺物になろうとしているのです」(斎藤文男氏=前出)
 防衛省の日報隠蔽問題の本質もここにある。戦闘地帯に自衛隊を派遣し、危険な任務を付与できるようにするため、不都合な事実は国民から隠そうとする。日米安保条約を守るために、日本を危険にさらす。そんな倒錯政権に国民は黙って従うのか。防衛相が「存立危機事態」と言えば、唯々諾々と受け入れるのか
 「米朝の挑発合戦を危惧し、主要国の首脳はこぞって米国に自制を求めているのに、米国追従しか頭にない安倍政権は、トランプ大統領をいさめるどころか、一緒になって危機をあおっている。唯一の被爆国であり、平和憲法を持つ日本の首相だからこそ『何があっても武力行使はダメだ』と言う資格があるのに、米国の言いなりです。それだけで首相失格ですが、国を危機にさらす首相など今すぐ引きずり降ろさなくてはいけない。戦争国家の戦争ごっこに加担するような真似をしている防衛相や安倍首相を批判しないメディアもどうかしています。野党も情けない。北朝鮮問題や日米安保を議論するための国会を開けとなぜ要求しないのか。17日に予定されている日米外務・防衛担当閣僚の2プラス2では、北朝鮮に対する軍事行動が具体的に話し合われる可能性がある。米国と一緒になって戦争をやる態勢は着々と整えられています。のっぴきならない状況にあるという現実に対し、政治家も世論もあまりに鈍感です」(元外交官の天木直人氏)
ポピュリズムは戦争に行きつく
  狂気の金正恩、トランプ、安倍――。本当に何が起きてもおかしくない。戦後の平和はいつしか終わり、今の我々は戦前を生きているという覚悟が必要なのかもしれない。
  数学者の藤原正彦氏が14日付の読売新聞で、母親の藤原てい氏が満州からの引き揚げ体験を記した「流れる星は生きている」について語っていた。もし母が存命だったら、今の状況を見て激怒するだろうというのだ。
 <戦争が非常に近くなっていることをかぎつけ、いらだつと思いますね。この世界は、一体何回戦争をやったら分かるんだとね>
  なぜ、こんな危うい世の中になってしまったのか。藤原氏はこう指摘していた。
 <戦争の制動力となるのは「教養」だ。しかしそれが今、危機にある>
 <民主主義が機能する大前提も、主権を持つ国民が、決める能力つまり教養を持っていることだ。ポピュリズムで未来が決まる世界では、戦争の抑止は難しい>
 安倍もトランプも政権運営が行き詰まり、国民の関心を国外に向けたいという思惑があるのだろう。それで、北のカリアゲ独裁者を挑発する。自国の危機をあおる。それに国民が乗せられてしまうポピュリズム政治では、戦争は不可避になる。
 「毎年、終戦記念日にはメディアで戦争と平和を考える特集が組まれますが、ただノスタルジーにひたるのではなく、きっちり現状を検証すべきです。戦後、憲法によって守られてきた平和がなぜ脅かされているのか。日本を取り巻く状況が変わったのは、安倍政権の強硬姿勢が原因ではないのか。北朝鮮の危機だけでなく、今こそ政治の責任を追及すべきなのです」(天木直人氏=前出)
  チキンレースや挑発合戦は、いつしか取り返しのつかない惨禍を招く。戦争の始まりは、得てして偶発的なものだからだ。終戦の日に二度と過ちを繰り返さないと誓うのなら、「国民の命と安全を守る」と言って危機にさらそうとする錯乱政権を総辞職に追い込むしかない。存立危機にあるのは、この国の平和と民主主義なのである。