2017年8月6日日曜日

獣医学の重鎮が加計問題で安倍首相を一刀両断!

 LITERAが、7月7日に「獣医学小史」を発表し、安倍政権による加計学園の獣医学部新設を厳しく批判した岡本嘉六鹿児島大学名誉教授の発言を取り上げました。

 この件は8月2日の「加計問題は文科省と既設獣医学部のレベルアップの努力を無にするもの  https://yuzawaheiwa.blogspot.jp/2017/08/blog-post_2.html で既に紹介しましたが、問題の「獣医学小史」がインターネットで閲覧できることが分かりましたのでその紹介を兼ねてもう一度取り上げます。

 「獣医学小史 PDF ファイルA4判 18ページ)
   (副題)明治以前の家畜、西洋獣医学の導入、6年制、再編・統合、共同教育課程、経済特区
                        ・・・・鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六
は下記のURLにアクセスすると読めます。

 同書は、日本における獣医学(教育)の歩み=小史 を述べたもので、加計問題については最後の「経済特区」の項で3ページ余りを割いて書かれています。
 今治市が2015年6月4日に「国際水準の獣医学教育特区」を申請した際の「国家戦略特区等提案書1ページに過ぎず、実施内容として①国際水準の大学獣医学部の新設と②水産物・食品の輸出ワンストップ支援センターの設置の2項目が謳われているものの、1項は越境感染症や人獣共通感染症、国際的食の安全、バイオテロ等への危機管理で新規性は全くなく、第2項は食品の輸出ワンストップ支援センターを設置するとしているもののそれは農学部のある大学ではどこでもやっていることであるとして、新規性もなければ高レベル性もないと断じています。

 さらに加計学園の獣医学部獣医学科入学定員160人(収容定員960人)獣医保健看護学科入学定員60人(収容定員240人)と定員は超特大であるものの、対する教員の陣容は僅かに70人で、既存のどの獣医学科よりも劣悪で、これでは獣医師国家試験に合格できない学生が輩出する可能性が高いとしています。

 何よりこれまで文科省、農水省、厚労省の関係部局が国際基準を満たした獣医学部設置を「共同獣医学部」という苦肉の策で実現しようと努力している矢先に、貧弱な陣容の新たな学部を認可すれば、これまでの努力が頓挫してしまう可能性があるとしています

 安倍政権が岩盤規制をドリルで穴あけしたと豪語したことの実態は、実はようやく始まりつつあった関係省庁による獣医学部のレベルアップの努力を根底から崩すものであったわけです。
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     横田一「ニッポン抑圧と腐敗の現場」19
獣医学の重鎮が加計問題で安倍首相を一刀両断!
過剰な獣医師養成は税金の無駄遣い、地域振興のために獣医学レベル低下
LITERA 2017年8月5日
 加計学園「岡山理科大学」獣医学部新設に邁進する安倍首相に対して、獣医学の専門家からも厳しい批判が出ていた。岡本嘉六・鹿児島大学名誉教授7月7日、ネット上に掲載した論考「獣医学小史」で、「要請があれば2つでも3つでも獣医学部を承認する」(6月24日の神戸講演)という首相発言を「何の根拠もない戯言」と一刀両断したのだ。
 と同時に岡本氏は、安倍首相を「裸の王様」とも断言した。側近たちからは“岩盤規制改革派”と称賛されて本人も信じ込んでいるが、専門家の目には、獣医学部レベル低下を招く税金の無駄遣いをする無知なトップに見えるというのだ。

「それぞれの教育分野について大学基準協会が最少基準を定めており、それを知らないトップは裸の王様である。6年制専門教育の医師、歯科医師、薬剤師とともに獣医師の養成には多額の税金が使われている。過剰な人数を養成することは税金の無駄遣いであるのみならず、専門職に就けない者を生み出してしまう。その他の職業と同様に、『市場の原理で安い労働力を得るためにはある程度の失業者を抱える必要がある』という乱暴な見解もあるが、命を預かる専門家の質の低下と引き換えになる」(前出「獣医学小史」より)

 素朴な疑問が浮き上がってくる。安倍首相は“岩盤規制改革派”を標榜しながら腹心の友に利益供与、「日本の獣医学部のレベル低下」という国益を損ねる愚行に邁進する“国賊”に等しいのではないか。
 安倍首相がいかに獣医学部の実態を知らない「裸の王様」なのか。鹿児島大学で30年以上教鞭をふるってきた岡本氏に聞いてみた(注・経歴:1980年に鹿児島大学農学部獣医公衆衛生学の講師、1984年に助教授、1999年に教授、2013年に定年退職して名誉教授となった)。

――今でも安倍首相は「岩盤規制にドリルで穴を開ける」と、加計獣医学部新設を進めようとしています。
岡本名誉教授 加計問題で不思議なのは、日本の獣医学部が国際的レベルに達していないことと、文科省が共同獣医学部の構想をここ最近進めていることが報道されていないことです。まず知っておくべきは「日本には国際的な獣医学部が一つもない」ということ。欧米に比べてレベルが低く、国際機関の基準を満たしていないことが問題になっていたのです。一昔前までは大学独自で再編整備を進めてきましたが、国会議員から「地元から(獣医学部が)出て行ったらダメ」と文句が出たりして進まなかった。そうなると、今度は文科省の責任になるから、6年くらい前から「共同獣医学部」という構想を提案したのです。北海道大学と帯広畜産大学、鹿児島大学と山口大学というように二つの大学の獣医学科を一大学の体裁にしてレベルアップをはかるものです。ようやく文科省は予算と人をつけ始め、いま進行している最中なのです

岡本名誉教授が指摘する加計学園獣医学部新設の“おかしさ”

岡本名誉教授 そういうところに昔ながらの獣医学部を作るというのが、加計学園新獣医学部新設です。規模は大きいが、昔と同じように学生数に対して教員が少ない。獣医学科160名で獣医保健看護科60名で合計220名の学生に対して、70名の教員だから、3対1。これまでは学生と教員がほぼ1対1だから、国内でも最低レベル。レベルが下がるのは当り前。実習さえまともにできず、国家試験に合格しない学生が続出するのではないか。とても国際的なレベルの獣医学部とは言いがたい。文科省の設置認可を通るかが問題だが、その審査メンバーも獣医学の素人ばかりだから、きちんとチェックができるのかを心配している。

――文科省が獣医学部のレベルアップのために大学再編による「共同獣医学部」を進めようとしている時に、「国家戦略特区で獣医学部新設をする」という横槍が入ったと。
岡本名誉教授 安倍首相主導で官邸が進めたわけです。だから文科省が怒った。前川喜平・前事務次官が怒りの告発をしたのです。総理大臣は「国際的なレベルの獣医学部を作りましょう」と言うのが重要なのに、逆行することを進めたのです。

――安倍首相は「行政の獣医師不足」を獣医学部新設の理由にしていますが、先生の論文で「獣医学部新設ではなく、行政の獣医師の待遇改善が最も有効だ」と指摘しています。
岡本名誉教授 鹿児島大学では獣医学部に入る地元出身者が数人程度なので、鹿児島県の獣医師の募集定員を満たせなかった。そこで数年前に給与をアップしたところ、充足できました。獣医学部をつくる資金があるなら獣医師の待遇改善に回せばいい。すぐに解決できます。獣医師の需給データを持っている農水省は『獣医師は足りている』という見解を出した。それに文句を言っているのが、何も事情がわからない素人の内閣府の役人たちです。内閣府が集めた諮問委員会のメンバーもみんな素人で、獣医学に詳しい専門家は入っていない。『国がやるべき課題は獣医学部のレベルアップ』という基本すら知らない。

「獣医学部があれば口蹄疫や鳥インフルエンザ対策になる」は素人の戯言
――安倍首相や加戸守行・前愛媛県知事は「口蹄疫や鳥インフルエンザ対策で四国に獣医学部が必要だ」と言っています。
岡本名誉教授 ピントはずれの主張です。獣医学部があれば、口蹄疫や鳥インフルエンザ対策になるというのは素人の戯言です。獣医学部が水際対策の先頭に立つわけではない。宮崎大学に獣医学科があっても、口蹄疫や鳥インフルエンザの感染拡大を防げたわけではない。家畜伝染病の拡大阻止は、国や地方自治体が主体です。行政獣医師の待遇改善をするなどで十分な人員を確保、感染拡大を防ぐ体制作りをいかに進めるのかが重要です。その地域に獣医学部があるのかないのかはほとんど関係がないのです。
   だから地域振興のために大学教育を利用してはダメなのです。「国として獣医学部のレベルアップをどうするのか」という話をしないといけない時に、地域振興の話を先行させている。「日本は国際レベルの獣医学部を作ることはしませんよ」と言っているのと同じです。獣医学のことが何も分からない素人連中がゴッコ遊びをやっているようなもので、日本のために何らプラスにならないのです。

 今でも“岩盤規制改革派”と思い込んでいるようにみえる安倍首相だが、獣医学の専門家である岡本名誉教授の話に耳を傾け、自らが裸の王様であったことに気がつくのだろうか。それとも、正確な情報を伝えない忖度役人や素人専門家集団に頼り切り、国益を損ねる“国賊”紛いの指導者に無自覚なままなのであろうか。(横田 一)