極右と呼ばれ徹底した排外主義と保護貿易を主張し、北朝鮮攻撃には断固反対していたバノン前首席戦略官が罷免されたことに、日本のメディアは「トランプ政権 安定選択」などと報じています。
バノン氏は確かに「問題児」だったようですが、彼は海外への軍事展開は無意味だという発想で、アフガン、イラク、シリアなどの軍事行動は米国の安全とは密接に関連せず、むしろ多大な経済負担が強いられているという「アメリカ・ファーストの底流をなす」合理的な考え方を持っていました。
しかし、それは海外での軍事活動で利益を得ようとするアメリカの軍産複合体と真っ向から対立するものであったために、結局彼らによってバノン氏は政権の座を追われました。
実際バノン氏が去った後は、ケリー首席補佐官(退役海兵隊大将)を頂点に、外交・安全保障ではマクマスター大統領補佐官(現役の陸軍中将・国家安全保障問題担当)、マティス国防長官(退役海兵隊大将)の「軍人トリオ」(+ティラーソン国務長官=元大物実業家)がトランプ政権の政策立案を担うことになり、トランプ政権登場前の保守本流のアメリカ=戦争国家に戻ることになりました。
果たしてトランプ大統領はバノン氏が去るや直ちに「アフガンへの増兵」を発表しました。
折角「アメリカ・ファースト」で、「ブッシュの戦争」から決別した筈のアメリカは、シリアを攻撃し、ISと戦い、今度はタリバンと戦うことになったわけです。アフガンとの戦いは結局ISを生き返らせることになります。要するに「対テロ戦争」で喰っていくという軍産複合体の意図が成就したわけです。
トランプ大統領は「アフガン建国には関与しない。テロを殺すだけだ」 と言ったということですが、対テロ戦争の本質を知っている発言とは思えません。
天木直人氏は 「テロを殺すだけなら、テロとの戦い永遠に勝てない。それによってISは息を吹き返す」、「トランプ大統領のアフガン増兵という迷走は、トランプ大統領の命取りになるだろう」、そして 「今度こそ、テロとの戦いに自衛隊の協力を要請される。その結果日本がテロの標的になる」 と述べました。
新安保法制(戦争法)審議の中で、「自衛隊が地球の裏側まで行くことはない」とあれだけ明言した安倍首相は、アメリカからの要求をチャンと断れるのでしょうか。
アメリカに言われるがままに高額な兵器を押売りされるのに加えて、今度は自衛隊員の命を差し出すのであれば国を売る者です。直ちに退場すべきでしょう。
天木直人氏のブログ:「トランプ大統領の命取りになるアフガン増兵」を紹介します。
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トランプ大統領の命取りになるアフガン増兵
天木直人のブログ 2017-08-23
反戦を主張していたバノンの更迭が決まった途端、トランプ大統領はアフガン増兵を発表した。
画にかいたような、ケリーら軍側近主導によるトランプ政権の戦略転換だ。
トランプの米国第一主義にメリットがあったとすればブッシュの戦争から決別することだった。
しかし、シリアを攻撃し、ISと戦い、今度はタリバンとの戦いだ。
問題は、トランプとその側近軍人らに戦略がまるでないことだ。
トランプはアフガン建国には関与しない。テロを殺すだけだと言った。これほど愚かな演説はない。
関与しないのではない、関与してアフガンの国づくりなど米国にはしょせん出来ないのだ。
そのことはイラクで実証済みである。そしてテロを殺すだけなら、テロとの戦い永遠に勝てない。
タリバンは早速声明を出した。
「アフガンは米国の墓場になる。米兵が一人でもいる限り、我々の聖戦は続く」と。もちろんISはタリバンと米国の戦いに刺激され、息を吹き返す。
一方のイラクでは、「独立」に勢いづくクルドが周辺国を不安定化させつつある。
さらに驚くべきはテロとの戦いにインドとパキスタンに協力を求めた事だ。戦場は南西アジアに及び、印・パ対立の新たな火種となる。どちらも核兵器保有国だ。
北朝鮮の危機は中国・ロシアという歯止め役がいる。しかしテロとの戦いに歯止め役はいない。
トランプ大統領のアフガン増兵という迷走は、トランプ大統領の命取りになるだろう。
それだけではない。
トランプは辞めればそれで済むかもしれないが、トランプが起こした戦争は米国の命取りになるだろう。
そしてその影響は世界に及ぶ。
それにしても情けないのは日本だ。アフガン復興に巨額を投じて協力させられてきたのが日本だ。
その血税がすべて水泡に帰す事になる。
そして今度こそ、テロとの戦いに自衛隊の協力を要請される。日本がテロの標的になる。
起こりもしない北朝鮮有事に大騒ぎをする前に、アフガン増兵に踏み切ったトランプの米国との軍事同盟関係を真剣に見直す時が来たと言う事であるである(了)