トランプ大統領は29日、ウエストバージニア州の支持者集会で、金正恩委員長との関係について、「我々は行ったり来たりしていた」、「それから二人は恋に落ちた」、「私は金委員長が好きだし、彼は私の事が好きだ」と語り、会場から笑いが漏れると、「いや、本当だ。彼は私に素晴らしい書簡を書いてくれた。それで恋に落ちたんだ」と述べたということです。
それは冗談としても、彼が2回目の米朝首脳会談に前向きであるのは喜ばしいことですが、その反面ホワイトハウス内はそれと逆の雰囲気であるようなのは困ったことです。
トランプ氏がたとえ内部で孤軍奮闘しているにしても、北の核実験やミサイル発射の停止に見合うアメリカ側の対応は皆無で、経済制裁等の一部解除もないというのが現実です。
その一方でアメリカは北に対して完全なる核廃棄を要求しています。しかしそれは米朝首脳会談での合意事項にも反するものです。
北朝鮮の李容浩外相は日本時間の30日未明、国連総会で一般討論演説を行い、北は核実験やミサイル発射を停止したにもかかわらず「米国からは相応の対応がない」と批判し、「米国との信頼関係なくしては国家の安全保障に自信を持つことはできず、先に一方的に武装解除することはない」と強調しました。そして朝鮮戦争の終戦宣言を通じた体制の保証を要求し、非核化措置の先行を否定しました
アメリカがリビアやイラクに対し、約束をたがえて指導者を攻め滅ぼした例を見てきた北朝鮮が、安易にアメリカの要求を飲むことはありません。
このまま推移すればいずれ米朝間の宥和の機運は無に帰すものと思われます。
日経新聞と櫻井ジャーナルの記事を紹介します。
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北朝鮮外相「先に非核化せず」、終戦宣言など要求
日経新聞 2018/9/30
【ニューヨーク=高橋里奈】北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は29日、国連総会の一般討論演説で、核実験やミサイル発射を停止したにもかかわらず「米国からは相応の反応がない」と批判した。「米国との信頼なくしては国家の安全保障に自信を持つことはできず、先に一方的に武装解除することは断じてない」と強調。朝鮮戦争の終戦宣言を通じた体制の保証を要求し、非核化措置の先行を否定した。
李外相は約15分間演説した。金正恩(キム・ジョンウン)委員長が米朝や南北の首脳会談で「完全な非核化」を表明したことを踏まえ、朝鮮半島の平和に貢献していると主張。一方で国連安全保障理事会の制裁は「変わらず残ったままだ」として緩和を要求した。南北関係は改善したとする半面、「米国は非核化が第一だと強調して朝鮮戦争の終戦宣言にも反対している」と譲歩を迫った。
またトランプ米政権内で北朝鮮の非核化の意思を疑問視する声があることについて、6月の米朝首脳会談での共同声明が「米国内政治の犠牲となれば予期せぬ結末を迎えるのは米国だ」とも警告した。
李外相は昨年の国連総会での演説で、緊張が高まっていた米国に先制攻撃を示唆していた。李外相はニューヨーク滞在中、ポンペオ米国務長官のほか、河野太郎外相、中国の王毅国務委員兼外相らと会談した。
中露韓朝の連携で押されている米国
櫻井ジャーナル 2018年9月30日
アメリカのドナルド・トランプ大統領は朝鮮の金正恩労働党委員長と近いうちに再び会談する意向を示している。
両首脳は今年(2018年)6月12日にシンガポールで会談し、4月27日に韓国の文在寅大統領と金正恩委員長が合意した朝鮮半島の非核化を米朝首脳は再確認しているが、予想されたとおり、アメリカ大統領は朝鮮半島の非核化を朝鮮の一方的な核兵器放棄に替えてしまった。
中国は非核化を和平交渉と並行して進めるべきだと主張、ロシアは朝鮮に対する一方的な「制裁」を止めるように求めているが、アメリカは核兵器の保有や開発をまず放棄しろと要求している。また、朝鮮側はアメリカに対し、非核化は和平の実現と組み合わせて進めるべきだとしている。信頼関係が築けていない段階で朝鮮政府がアメリカ政府の要求に従う可能性は小さい。
似たような問題でアメリカ支配層は信頼できる行動をとっていない。
例えばリビアの場合、アメリカは2003年にムアンマル・アル・カダフィ政権に核兵器や化学兵器の廃棄を決めさせたが、約束に反して「制裁」を解除しない。2010年にバラク・オバマ大統領はムスリム同胞団を使った侵略計画(PSD11)を作成、「アラブの春」という形で実行に移され、リビアは侵略されてカダフィ体制は崩壊、カダフィ自身は惨殺された。破壊、殺戮、略奪で現在は暴力が支配する破綻国家だ。
ドイツの場合、アメリカ政府とソ連政府が東西ドイツの統一で合意した際、アメリカの国務長官だったジェームズ・ベイカーはソ連のエドゥアルド・シェワルナゼ外務大臣に対し、統一後もドイツはNATOにとどまるものの、東へNATOを拡大することはないと約束した。ドイツのシュピーゲル誌によると、ロシア駐在アメリカ大使だったジャック・マトロックはアメリカがそのようにロシアへ約束したと語っている。現在、NATO軍はロシアとの国境沿いにミサイルを配備、軍隊を駐留させて威嚇している。
ベトナム戦争でアメリカ軍は負けたが、1991年にソ連が消滅した3年後、アメリカはベトナムに対する「制裁」を解除する代償として新自由主義を受け入れさせた。しかもベトナム戦争中にアメリカ側が行った犯罪的な行為は不問に付され、ベトナムの庶民は低賃金労働者として西側巨大資本の金儲けに奉仕させられている。
アメリカは朝鮮に対し、リビアと同じことをしようと目論んでいるように見える。アメリカ支配層にとっての平和とはパックスアメリカーナ、つまりアメリカが支配者として君臨するもので、他の国にとっては奴隷の平和だ。それを朝鮮は拒否している。
朝鮮が強気でいられるのは背後に中国、ロシア、そして韓国が存在しているからだろう。本ブログでは繰り返し書いてきたが、この3カ国は連携し、その戦略に基づいて状況は動き始めている。例えば、韓国政府と朝鮮政府はアメリカ政府の反対を押し切って朝鮮南西部の開城に共同連絡事務所を9月14日に開設、文在寅韓国大統領と金正恩朝鮮労働党委員長は9月18日と19日に朝鮮の首都、平壌で会談し、年内に鉄道と道路を連結する工事の着工式を行うことで同意した。
中国では本土と香港を結ぶ高速鉄道が開通、9月23日に最初の列車が走っている。この路線が完成したことで北京から香港までの移動に要する時間が24時間から9時間に短縮されるという。鉄道は中国、ロシア、そして朝鮮半島を結ぶ重要なインフラであり、19世紀から中国支配を目論んできたアングロ・サクソン系のアメリカとイギリスにとっては脅威。
中国やロシアはアメリカのドル体制を揺るがす存在でもある。まだ世界の商取引はドルが支配しているが、その支配力が弱まっている。放置していると遅かれ早かれドルは基軸通貨の地位から陥落、ドル支配に基づいて世界を支配してきたアメリカ帝国は崩壊する。アメリカの支配層は必死だ。
ロシアと韓国は国境を越えたエネルギー・プロジェクトを推進し、FTA(自由貿易協定)に関する話し合いを始めようとしているが、日本はアメリカへの従属度を高めるため、事実上のFTA交渉を始めようとしている。崩れゆく帝国に従う日本のエリートは支配体制を維持するため、治安システムを強化しようとしている。