自民党の稲田朋美筆頭副幹事長は29日の衆院本会議で、首相の所信表明演説に対する代表質問を行いました。代表質問は三役らが臨むことが多く、筆頭副幹事長を当てるのは異例の抜てきです。彼女は昨年7月防衛相辞任で失脚して以降、表舞台から遠ざかっていましたが、安倍首相の意向で着々と復権に向かっています。
稲田議員は、まず自民党の正当性を述べ、「安倍首相は再チャレンジと一億総活躍社会の実現を掲げ、保守の理念を政策分野においても実行されてきた」と持ち上げたのち、唐突に「明治維新150周年」の話にスライドしました。
「五箇条の御誓文は改革の集大成」で、さらに歴史を遡れば、聖徳太子の「和を以て貴しとなす」こそ民主主義の基本であり、我が国古来の伝統であったとする珍説を発表し、「明治以降の150年は、欧米から学び、欧米と戦い、欧米と協力して自由世界を築いてきた150年であったと思います」と、ものの見事に侵略の歴史を無視してみせました。
まさに「飛鳥時代から民主主義だった」と日本を高く評価する一方で、都合の悪い事実はなかったことにするという修正主義の発露ですが、これほど幼稚で偏った史観を持つ人間が,複雑な世界の情勢を正しく認識出来る筈はないので、いくら安倍首相の外交を熱心に礼賛してもただただ空虚に響くだけです。
そしてひとしきり「9条に自衛隊を明記」するという安倍改憲論を評価したのちに、「自衛隊を、誰からも憲法違反などとは言わせない。そのためにも憲法改正は急務だと思いますが、総理のご所見を伺います」と、安倍首相と打ち合わせた通りの地点に着地したのでした。トンダ猿芝居です。
それに対して、安倍首相は一旦は「憲法改正の内容について、私が内閣総理大臣として、この場でお答えすることは差し控えたい」と言ったものの、すぐに「お尋ねですので、あえて私が自民党総裁として、一石を投じた考えの一端を申し上げたい」と、「待ってました」とばかりに、「自衛隊を合憲と言い切る憲法学者は2割にとどまり、多くの教科書に合憲性に議論があるとの記述がある」という、例の主張を始めたのでした。
まさに語るに落ちた話で、なぜ「お答えすることは差し控えたい」で終わることが出来ないのか、自らが自らを貶めていることに気が付かないあたりが、安倍氏の限界なのでしょう。
LITERAの記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
安倍の贔屓で復権した稲田朋美が“代表質問”に立ちトンデモ連発! 「民主主義は聖徳太子以来の我が国の伝統」
LITERA 2018年10月30日
ついに、あの人物が安倍首相の“喜び組”として息を吹き返した。昨日29日、衆院本会議で安倍晋三首相の所信表明演説への各党代表質問がおこなわれたが、自民党の代表質問に立ったのが、あの稲田朋美議員だったのだ。
代表質問とはその名の通り、政党や会派を代表する人物が首相の施政方針演説や所信表明演説などに対して質問をおこなうもので、今年1月と昨年1月の代表質問では二階俊博幹事長が、昨年11月の代表質問では岸田文雄政調会長が立った。一方、稲田議員は先日の内閣改造で、筆頭副幹事長兼総裁特別補佐に引き上げられたばかりだが、まさか、さっそく代表質問に立たせるとは……。
しかも、その質問の中身というのがもはや笑うしかないくらい酷いシロモノだった。
まず、稲田議員が口にしたのは「(自民党は)失敗しても、いつからでもどこからでも、何回でもやり直せる社会を目指してきました」「安倍総理は再チャレンジ、そして一億総活躍社会の実現を掲げ、保守の理念を政策分野においても実行されてきました」というセリフ。
「何回でもやり直せる社会」とか「再チャレンジできる社会」とか、一体こいつは何を言っているのか? この国でそんなことが許されているのは、防衛相としてあんな失態をさらしながら、1年ちょっとで代表質問に立つほど復権したしたアンタをはじめ、安倍首相の周りの政治家だけだろう。それとも、これは自分を見捨てず復権させてくれた安倍首相への感謝の言葉なのか。
などと思いながら聞いていたら、稲田議員のトークは唐突に「明治維新150周年」の話にスライド。そして、こんなことを言い出したのである。
「明治の精神ともいうべき五箇条の御誓文は改革の集大成」
「歴史を遡れば、聖徳太子の『和を以て貴しとなす』という多数な意見の尊重と、徹底した議論による決定という民主主義の基本は、我が国古来の伝統であり、敗戦後に連合国から教えられたものではありません」
「民主主義は我が国古来の伝統」って、一体いつから国会は歴史の珍説発表会になったのか。これだけでも呆れるが、稲田議員はさらに、
「さる10月23日、政府主催の明治150年記念式典が開催されました」と述べると、「明治以降の150年は、欧米から学び、欧米と戦い、欧米と協力して自由世界を築いてきた150年であったと思います」と発言。ものの見事に侵略の歴史を無視してみせたのである。
「飛鳥時代から民主主義だった日本スゴイ!」というトンデモ歴史観と合わせ技で繰り出される、都合の悪い事実はなかったことにする修正主義──。これが党を代表する人物のレベルであると見せつけるとは、ある意味、安倍自民党の実態がよく理解できるというものだが、ここから稲田議員は安倍首相への猛烈なヨイショをはじめたのだ。
「安倍内閣は着実に外交の成果をあげ、国際会議の場では、安倍総理と話そうとする各国首脳が列をつくる状況もみられ、この6年間で世界における日本のプレゼンスは格段に向上しました」
北朝鮮をめぐっては完全に蚊帳の外に置かれ、トランプやプーチンにはコケにされて金だけむしり取られてばかりなのに、「着実に成果をあげている」とは、果たして稲田議員はどの異世界の話をしているのだろう。
ところが、稲田議員はこの後も「総理は、これまでのところ指導者のなかで、トランプ大統領との個人的信頼関係の構築にもっとも成功されておられる」「安倍総理はプーチン大統領との個人的な信頼関係に基づいて、日露関係を力強く牽引してこられました」と、もう倒れてしまった「外交の安倍」なる看板を周回遅れで喧伝。先の日中会談を受けて、「自民党は日中関係の改善に最善を尽くしてきました」などと口にしたのである。
安倍首相の外交を礼賛し続けた稲田の支離滅裂な世界情勢認識
まったくよく言うよ、だろう。日中関係の悪化は、第一次安倍政権以降、安倍首相が無用に中国を刺激しつづけてきた結果ではないか。稲田議員自身も、防衛相だった2016年に靖國神社を参拝し、中国から猛反発を受けている。それが、いざ安倍首相が日中関係の見直しに動くと「最善を尽くしてきた」と言うのだから、開いた口が塞がらない。
しかも、これまでさんざん中国脅威論を振りまき、憎悪を煽ってきた張本人であるのに、安倍首相が日中会談に臨んだ途端、中国については口をつぐみ、その分の憎悪を北朝鮮と韓国に向け始めた。北朝鮮に対しては「核廃棄の見通しは立たず、日本海を隔てたすぐそこに我が国を射程に入れた数百発もの弾道ミサイルを、いつでもどこでも発射できる状況だ」と煽りに煽り、韓国に対しては、先の海上自衛隊の旭日旗掲揚問題や、30日、韓国の大法院で判決が言い渡される徴用工問題、さらに竹島への議員上陸問題を立てつづけにもち出し、韓国を非難したのだ。
「外交の成果」とやらを強調する一方で、外交の足を引っ張っているとしか思えない、侵略の歴史を顧みない一方的な韓国への避難……。その上稲田議員は「総理の掲げる秩序による平和と繁栄の理念は、確実に世界に拡がっているのです!」などと外交成果を誇っていたにもかかわらず、舌の根も乾かないうちに、アメリカと中国の名をあげて「我が国を取り巻く安全保障環境は急速に厳しさを増している」と言い出し、挙げ句、「いまこそ自分の国は自分で守る気概をもつべきです」と声高に叫んだのだ。
稲田議員の頭のなかの世界情勢がどうなっているのか、さっぱり意味がわからないが、ともかく、稲田議員が過去に発言した「自分の国を守るためには、血を流す覚悟をしなければならないのです!」という考えはまったく変わっていないらしい。
だが、もっとも強くツッコまずにいられなかったのは、憲法改正に話題が及んだ際の発言だろう。稲田議員は9条への自衛隊明記という安倍改憲論に対し、こんなエピソードを口にしたのだ。
「私も防衛大臣時代に南スーダンを視察しましたが、気温50℃を超える灼熱の地で黙々と道路や施設を補修する自衛隊員の姿は、現地の人びとから、世界から、称賛されていました。自衛隊の、現地の方々に寄り添った、誠実で、丁寧で、親切な活動は、まさに日本らしいものとして誇りに感じます」
南スーダンをめぐっては、自衛隊の宿営地も危険に晒されていたことが報告されていたのに、それを隠蔽し、新たに駆けつけ警護の任務に就かせたのは稲田防衛相だ。なのに、そんな事実はなかったかのように自衛隊の現地支援だけを取り出し、「日本らしい」「誇り」と美談に仕立て上げてしまうとは。恥知らずとはこのことだろう。
安倍首相が御法度の改憲論を語るための出来レース質問も
しかも、稲田議員はこの無茶苦茶なエピソードを披露したあと、「自衛隊を、誰からも憲法違反などとは言わせない。そのためにも憲法改正は急務だと思いますが、総理のご所見を伺います」と述べたのだ。
大前提として改憲案について行政府の長である総理大臣がどうこう言っていること自体がアウトなのに、その安倍首相に憲法改正について述べよ、って、三権分立の原則を稲田議員は理解していないのだろうか……。そもそも、こんなことを「総理として」訊かれたほうも困るだろう。
そう思っていたのだが、実際は違った。安倍首相は「憲法改正の内容について、私が内閣総理大臣として、この場でお答えすることは差し控えたい」と言いながら、こうつづけたのだ。
「お尋ねですので、あえて私が自民党総裁として、一石を投じた考えの一端を申し上げたい」
おいおい、結局、言うのかよ──。こうして安倍首相は「自衛隊を合憲と言い切る憲法学者は2割にとどまり、多くの教科書に合憲性に議論があるとの記述がある」という、いつもの主張をはじめたのだ。
ようするに、この質問、安倍首相に改憲論をぶたせるために、安倍と稲田の間であらかじめシナリオができあがっていたのである。いや、改憲の話題だけではない。安倍首相の答弁をみていると、前述したトンデモ歴史観や世界観にもとづく質問も、安倍首相のお墨付きや指示があったとしか思えなかった。
安倍首相の寵愛を受けて防衛相にまで駆け上がり、引責辞任しても再び“自民党の代表”としての立場を与えられた稲田議員。今回の代表質問で、あからさまな安倍首相の「ともちんラブ」ぶりを久々に見せつけられた格好だが、今後、憲法改正に向けて、こうした気持ちの悪い連携プレーが展開されていくことは間違いないようだ。(編集部)