2018年10月30日火曜日

日中首脳会談「3原則」の大ウソ 誰からも信頼されなくなる

 安倍首相は日中首脳会談で「日中関係の道しるべとなる3つの原則を確認した」として「競争から協調へ」「互いに脅威とならない」「自由で公正な貿易体制の発展」を挙げましたが、外務省は26日、「一連の会談で『3原則』との言葉でこれら諸点に言及したことはない」と否定する文書を発表しました。
 要するに3つの原則を合意した事実はないということで、外務省が即座に否定したのは勿論「事実に反する」からですが、それだけではなく、来年6月に期待される習近平主席の訪日の際にはこの3原則を基本文書化するようにと厳命されているものの、中国がそれに応じるという保証がないからということです。外務省としては、アメリカとの関係も考慮したのでしょう。
 
 天木直人氏は、安倍首相としては、過去の四つの歴史的基本文書につぐ五番目の文書をつくりたかったが間に合わなかったため、3原則の合意が出来たと改ざん発言して、今度の訪中の成果を誇大宣伝したかったのだとしています。
 
 この「事件」は、日米首脳会談で非関税貿易障壁も含めた二国間協議(FTA)を受け入れさせられたのに、それを国内向けには、農産品などの関税に限定された協議(TAG)であるとごまかした事例に似ています。アメリカはFTAで迫ると決めているので、敢えて日本政府が国内向けに独自の新用語を使っても意に介さなかったのでしょうが、今度の日中間の「3原則の合意」云々は、それと同一に考えるわけにはいきません。
 日刊ゲンダイは、2012年末に政権に返り咲いて以降一貫して海外に向けて「中国脅威論」を唱えるなどこれまで中国に対して敵意ムキ出しだった人間が、突然「3原則」を言っても中国側が信用するはずがないと述べています。
 
 米ワシントン・ポスト紙は今度の日中首脳会談を、「トランプ氏の盟友の日本の首相が中国首脳にすり寄ろうとしている」と報じたということです。
 ただ「強いものにつく」ということでは誰からも信用されません。近隣諸国との友好関係は必須だという原則に立つという気概を持つべきでしょう。
 22日から北朝鮮を訪問していた「福岡県日朝友好協会訪問団」北原守団長26日、北の外務省幹部が日朝会談の実現について、「安倍政権の姿勢では厳しい」と話したことを明らかにしました安倍首相は北朝鮮を弱小国と見くびって、あれだけ好き勝手に批判してきたのですから、おいそれと日朝首脳会談が出来る筈がありません。そうなると今度トランプ氏にとりなしを頼む(当然高いものにつきます)というのでは、相手に足許を見られるだけ、児戯に等しい行為です。
 
 日刊ゲンダイの記事と天木直人のブログを紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日中首脳会談「3原則」の大ウソ 安倍首相は米中で信頼失う
日刊ゲンダイ 2018年10月29日
「これからの日中関係の道しるべとなる3つの原則を確認した」――。安倍首相が日中首脳会談の“成果”をこう強調していることに対し、外務省が火消しに躍起になっている。安倍首相は習近平国家主席や李克強首相との会談で、今後の日中関係について「競争から協調」「互いに脅威とならない」「自由で公正な貿易体制の発展」の3原則を確認したといい、首相官邸フェイスブックで発信したり、フジテレビのインタビューでもアピールしたりしていた。
 ところが、外務省は先週26日、〈一連の会談で『3原則』との言葉でこれら諸点に言及したことはない〉と否定する文書を発表。翌27日にもわざわざ記者に「『3原則』とは言っていない」と念押ししたほどだ。
 
「首脳会談で決まった内容は条約に匹敵するほど重い。外務省が否定しているということは、日中間で合意には至っていないということ。恐らく功を焦った安倍首相がつい口を滑らしたのでしょう。仮に中国側が『そんな原則は決めていない』と発表したら、大変な問題になりますよ」(元外交官の天木直人氏)
 
 日中関係の改善は結構だが、そもそも対中関係を悪化させてきた張本人は安倍首相自身だ。2012年末に政権に返り咲いて以降、「中国脅威論」をタテに防衛費を拡大させ、尖閣上陸を念頭に自衛隊内に離島奪還専門部隊の「水陸機動団」を発足させた。中国包囲網を築くため、中国を取り囲むようにモンゴルや中央アジアなどにカネをバラまき、中国主導の現代版シルクロード構想「一帯一路」を牽制してきたのだ。今まで敵意ムキ出しだった男が突然、「3原則」を言っても中国側が信用するはずがない
 
 外務省が「3原則発言」に神経をとがらせているワケは他にもある。米国との関係だ。中国と激しい貿易戦争を繰り広げているトランプ大統領が、習近平国家主席と笑顔で握手しながら「やっぱり保護貿易はダメだ」なんて笑っている安倍首相の姿を見たらどう動くか。トランプ大統領は早速、日本が市場を開放しない場合、日本車に20%の関税をかけると警告しているが、年明けに始まる日米貿易交渉でも影響が出るだろう。
 
〈トランプ氏の盟友、日本の首相が中国首脳にすり寄ろうとしている〉。米ワシントン・ポスト紙は日中首脳会談の様子をこう報じていたが、米国が強ければ対米従属し、中国の力が強くなれば中国にも尻尾を振る。日本としての確固たる信念も何もない。米中のどちらにもいい顔をした結果、日本だけがババを引くことになりかねないだろう。一体、どこが「外交のアベ」なのか。 
 
 
読売と毎日が報じた安倍首相の訪中成果改ざん発言
天木直人のブログ 2018年10月28日
 鳴り物入りで行われた安倍訪中も終わった。
 その安倍訪中をきのう10月27日の大手紙は一斉に社説で限定的に評価した。
 前進した事は良かったがすべてはこれからだと。
 棚上げした困難な問題を克服できるかはこれからだと。
 経済協力だけで乗り切れるのか、米中対立が激しくなる中で日本は板挟みになるおそれはないかと。
 それでも最悪の関係から一歩前進した事は評価できると。
 私もそう思う。
 誰もが考える評価であり、誰もが抱く懸念だ。
 
 そんな中で、ひとり産経の社説だけが、「今度の安倍訪中は砂上の楼閣に終わる」と否定的に評価をした。
 それからわずか一日たって、やはり産経が正しかった。
 そう思わせるスクープ報道を、奇しくもきょう10月28日の読売と毎日が書いた。
 その要旨はこうだ。
 つまり、安倍首相は李克強首相、習近平主席との会談の後、自らのツイッターやフェイスブックで書き、ご丁寧にフジテレビのインタビューでも自慢した。
 今度の訪中では、今後の日中関係の道しるべとなる三原則を確認したと。
 
 その三原則とは次の三つだ。
 1.競争から協調へ
 2.日中はパートナーであり、互いに脅威とならない
 3.自由で公正な貿易体制の維持
 本当に、この三原則で合意したなら、今度の安倍訪中は歴史的な前進である。
 ところが、三原則で合意したとは、中国外務省の発表にはどこにも出て来ない。
 李克強首相も習近平主席も、三原則などという言葉を発していない。
 どうなっているのか。
 そこを同行記者団からつかれた西村康稔官房副長官は、「三原則という言い方はしていない」と釈明し、外務省幹部も、「原則は呼びかけたが三原則という言葉は使わなかった」と重ねて否定したというのだ。
 
 これは重大な食い違いである。
 なぜ、このような食い違いが起きたのか。
 それは明らかだ。
 安倍首相としては、過去の四つの歴史的基本文書につぐ五番目の文書をつくりたかったが間に合わなかった。
 そこで、口先だけでも三原則の合意が出来たと改ざん発言して、今度の訪中の成果を前のめりに誇大宣伝したかったのだ。
 その矛盾を突かれ、なぜ西村官房副長官や外務省幹部は、安倍首相の発言を否定せざるをえなかったのか。
 もちろん、それは事実に反するからである。
 しかし、それだけではない。
 来年6月に期待される習近平主席の訪日の際にはこの三原則を文書にして第五の基本文書を何としてでも作りたい。
 そう安倍首相から西村官房副長官や外務省は厳命されている。
 しかし、果たして中国がそれに応じるか保証はない。
 後退した表現に終わると日中関係が前進どころか停滞したと受け止められる恐れがあるからだ(毎日)。
 
 おまけに、はたして習近平主席は来年6月に訪日するのか。
 今回の首脳会談で安倍首相は招待したけれど、習近平主席は確約しなかった。
 きょうの読売と毎日のスクープ報道が教えてくれた事。
 それは今度の安倍訪中は、安倍首相お得意の、事実を改ざんしてまで宣伝する日中友好関係の構築外交に過ぎなかったのだ。
 「砂上の楼閣」だと書いた産経の社説が正しかったのだ。
 ところが、この改ざん発言を、産経は書かない。
 インタビューまでしているのにである。
 やはり産経はダメ新聞である(了)