2018年10月4日木曜日

改憲シフトの党人事と安倍改憲の情勢(世に倦む日々)

 安倍首相は改憲を目指すものの、来年は天皇の退位と新天皇の即位、改元を控え、他に一斉地方選と参院選があり、多忙を極めるなかでの国民投票はあり得ないことで、とても秋の臨時国会に改憲案を提出できる政治状況にはないと言われています。しかし、特定秘密保護法に始まって、安保法制、共謀罪法そして新労働法などの悪法をすべて数の力で押し切ってきた安倍首相には、そんな道理は通用せずに、「改憲を発議しないのは議員の怠慢」とばかりに、国会への上程を本気で目指しています。この機会を逸すると、以後は改憲案を発議できる可能性が減じるが、逆に今の勢力分布なら改憲を押し切れると踏んだようです。
 
 メディアが、総務会長加藤勝信、憲法改正推進本部長下村博文、選挙対策委員長甘利明)に、世上の悪評は高いものの最も信頼してる腹心や盟友を敢えて布陣したこの度の内閣改造を「憲法改正シフト」と呼んでいるのも、それで「一点突破」しようとしている安倍首相の意気込みを見越してのものです。
 
「世に倦む日々」氏が、安倍改憲の情勢を分析しました。
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改憲シフトの党人事と安倍改憲の情勢 - 煽るマスコミ、醒める公明党 
世に倦む日々 2018年10月3日
改造内閣と党人事の名簿が発表され、昨日(2日)のテレビのニュースのトップで報道された。憲法改正シフトが特徴だと各マスコミが報じている。総務会長に加藤勝信、憲法改正推進本部長に下村博文、選挙対策委員長に甘利明を据えた配置を見ると、この布陣でそのまま改憲に突っ込む意思が露骨に現れていることが窺える。組閣後の安倍晋三の記者会見でも、臨時国会で改正案の提出をめざすと言い、総裁選のときに語った改憲スケジュールを再び確認した。この秋に、安倍晋三が改憲の動きを再燃させてくることは確実で、具体的な条文改正案を固めて自民党内を纏め、公明党との調整を図って合意することを目標にしているのだろう。朝日の2面記事には、選対委員長を甘利明にしたのは、国民投票を仕切らせる思惑があるからだという観測がある。そう受け取ってよいだろう。各マスコミが報じているように、2013年の参院選で安倍晋三は大勝しすぎていて、このベースを来年参院選でも維持しないと3分の2は保全できない。そのため、衆参で3分の2を得ている今、一気に改憲に突入するべしと作戦を考えるのは自然で、そういう状況判断があることを安倍側近議員が朝日の政治記者に書かせている(2面)。 
 
二つほど論点を提示したい。第一に、安倍晋三が言っているところの、臨時国会に改憲案を提出するという意味である。これが具体的にどういう中身なのか、マスコミの記者は問い質さないといけないし、プライムニュースや報道1930(TBS)などの政治番組は、出演させている自民党議員に実行過程を明確化させる発言を求めないといけないだろう。視聴者の中には、憲法と法律(実定法)の違いを知らない者も多い。その典型的な例が、例えば安積明子という自称ジャーナリストが書いた記事の中にある。目を疑う一節を発見した。こう書いている。「(略)安倍晋三首相が次期臨時国会でぜひとも法案を上程したい憲法改正に影響を与えかねないからだ」。これは沖縄県知事選の結果について書いた記事の一部だが、無知丸出しの本人は、どうやら憲法改正案なるものは、法案として政府与党によって国会に上程されるものだと錯覚している。私はこの人物を名前でしか知らないが、最近売れっ子の右翼の論者らしい。プロの政治記者を名乗る者の文章だが、東洋経済はどういう校閲をしているのだろう。こういう初歩的な誤解がまかり通ったまま、憲法改正の論議がマスコミで進行している。
 
当然のことだが、安倍晋三の言う「改正案を国会に提出する」という意味は、衆参の憲法審査会に改正条文案を出し、その場で議論し審議するという意味である。山口那津男が何度も説明しているとおり、憲法改正の発議権は内閣にはない。国会にあり、衆参の憲法審査会の決定を経て発議に進む。したがって、安倍晋三が憲法を改定したければ、自民党の具体案を憲法審査会に出し、そこで議論して可否を決めるという手続きになる。山口那津男は、憲法を改正する以上、与党だけでなく野党の合意も取り付けて発議を行うべきだと見解を述べている。正論だし、嘗ての自民党の中山太郎の改憲路線はこうした慎重なコンセンサス路線だった。憲法は一般の法律と同じではなく、改正や制定の手続きも異なるのだから、改憲に与党案というものはないと法曹家でもある山口那津男は言ってきた。この主張はマスコミで何度も繰り返されていて、認識として定着しているはずなのだが、安積明子のような無知な暴論が飛び出すのは何故なのだろうか。とめどない劣化に呆れる。かつまた、安倍カラーの強烈な右翼のみが、どんな痴呆でも商業論壇で銭儲けできる今の現実に溜息が出る。
 
自民党の憲法改正案というのは、実は未だ具体的には決まっていない。細田博之が本部長を務めた党憲法改正推進本部の今年3月の結論では、①9条改正、②緊急事態条項、③合区解消、④教育の充実、の4項目の素案が集約されただけで、具体的な条文改正案は決議されていない。いわゆる平場の討論会であった本部全体会合では、石破茂が9条改正案に反対する論陣を張ろうとして抵抗し、細田博之ら執行部が逃げて「一任」を強引に取り付ける幕となり、多数決もできず、自民党らしい全会一致に落着する政治には至らなかった。そして、そのしこりが癒えぬまま総裁選を迎え、その総裁選でも安倍晋三は醜く逃げ、石破茂との正面からの憲法論争に応じず、結局、地方党員票で45%の批判票を浴びるという事態になっている。党で再び「安倍改憲」(=3項追加の9条改定案)の条文を正式決定しようとすれば、下村博文と石破茂のガチンコ対決となり、知識豊富な石破茂に下村博文が論破されるという場面になるだろう。さらに、今回は防衛族重鎮の中谷元が石破茂の側に付いていて、3月の推進本部のときとは情勢が変わっている。条文案の党機関での正式決定は簡単ではないだろう。
 
第二に、この論点はマスコミでもネットでもほとんど指摘されないが、衆参3分の2という数の中には公明党が含まれている。この事実は決定的に重要だろう。重要なのに顧みられることがなく、無視され、恰も自民党だけで3分の2を占めているような観念が言論空間でまかり通っている。要するに、公明党を改憲勢力と定義してよいかどうか、改憲3分の2の範疇に含めてよいかという問題だ。憲法改正の発議は衆参で3分の2以上を必要とする。公明党が賛成しなければ、「安倍改憲」は発議できない。安倍政権の6年間を振り返って、改憲にはずっと意欲を示し続け、隙あらば発議に出ようと、本人としては優先順位の第一に改憲を置いて機会を狙ってきた。最初は3分の2のハードルの改憲条項そのものに狙いを定めてきた。その次は緊急事態条項に色気を出し、「お試し改憲」の新しいアドバルーンを上げて威力偵察を続け、最終的に本丸である9条改定に標的を合わせてきた。その安倍晋三の改憲政治に対して、つかず離れず微妙な距離感を保ちつつ寄り添ってきたのが公明党だった。現在、公明党はこれまでより改憲に消極的な姿勢を示している。その理由は二つあり、一つは世論が9条改憲を支持していない状況だからだ。
 
もう一つは、安倍晋三が公明党を右寄りに引き寄せる道具であったところの、維新に勢いと活気がなく、嘗てのような連立組み替え論の脅しが全く機能しなくなったことがある。自民党が選挙に勝つには公明党票が絶対に必要で、維新の代わりになる補完勢力は現時点では見いだせない。国民民主党は立憲民主党と合併復縁することだけに目の色を変えていて、前原誠司的な改憲右翼の方向性が前面に出る気配は今のところ少ない。すなわち、連立パートナーの公明党の地位が安定した立場にあり、公明党が無理に改憲に舵を切って学会を分裂に追い込むリスクを取らなくても済む状態にある。今の議院と世論の現状で、公明党を9条改定賛成に追い込むのは至難の業だろう。3分の2を構成する一角に公明党がいるからこそ、マスコミは山口那津男を出演させ、その姿勢に変化がないか再確認するのであり、視聴者は右も左も山口那津男の発言に注目するのである。天木氏との対談(1日)でも触れたが、北朝鮮と米国が非核化で歩み寄り、終戦宣言と平和協定への道筋が確かになれば、いわゆる「厳しさを増すわが国の安全保障環境」は空気が一転し、マスコミの論調も変わって右翼化にブレーキがかかり、世論が9条改定を支持する声は小さくなる。
 
今年に入っての米朝関係の好転が、9条をめぐる世論に影響を及ぼし、沖縄県知事選の票の動向にも影響を与えたと言えるだろう。逆に言えば、今後の米中関係の悪化と対立が、この空気を一気に変えてしまう可能性もある。