沖縄で米軍絡みの事件・事故があとを絶たない原因は、在日米軍の特権的な立場を定めた日米地位協定にあると言われます。第二次世界大戦の敗戦国である日本、ドイツ、イタリアにはいまも米軍が駐留していて、それぞれが米国との間で地位協定を結び、米軍の特権的な立場を保証しています。
しかし、ドイツでは93年に改定し米軍機にもドイツの航空法が適用されるなどして大幅な改善が図られ、イタリアでも98年に新たな協定を締結し、米軍の訓練の許可制度や、訓練飛行への規制が大幅に強化されましたが、日本だけは1960年に米軍占領下時代の名残をもって締結されたまま、全く改定を行わずに現在に至っています。
そうした実態に鑑み、沖縄県の故翁長雄志前知事が今年、基地対策課の職員をイタリアとドイツに派遣し、在欧米軍基地の運用実態、特に基地の排他的管理権について調査し、その結果をもって7月末、全国知事会に日米地位協定の抜本的見直しを国に求める提案を行い、満場一致で採択されました。全国知事会の会長を務める埼玉県の上田知事は8月14日、知事会で決議された提言を政府に手渡しました。
10月に入ってからも、20年の東京オリ・パラリンピックに向け外国人旅行者を年間4000万人にするという政府の目標が、アメリカ軍が横田基地の航空管制空域を一時的に旅客機が通過することを認めないため頓挫する方向にあることで、日米地位協定の問題が改めてクローズアップされたばかりです。
政府は、具体的に全国知事会から提言を受けているにもかかわらず何の動きも見せていないようです。
京都新聞は社説で、「日米地位協定の改定は、住民の安心、安全に責任を持つ各知事として当然の要求で、9月末の沖縄県知事選挙でも、主な候補者は全員、地位協定見直しを訴えた。それは国民の生命と財産に関わる問題で、知事会の提言は国民の声とも言える。安倍政権は正面から受け止める必要がある」と述べました。
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(社説)日米地位協定 不平等な関係見直すべき
京都新聞 2018年10月21日
眼下に太平洋を見下す牧草地の一角に、大きな穴があいた。沖縄県北部の東村。昨年10月、米軍のヘリコプターが不時着、炎上した跡である。
民有地だが、米軍は事故直後、一方的に封鎖した。沖縄県警や行政関係者を一歩も近づけず、数日後に事故機を運び出した。機体の破片や燃料などを土壌ごと持ち去った。
牧草地を所有する農業西銘晃さん(65)は「牧草栽培はこれで終わったと思った。自分の土地だが手も足も出ない。警察も検証できない。本当に悔しかった」と振り返る。
西銘さんの嘆きの背景には日米地位協定が横たわっている。
米軍が事故を起こしても警察は現場に入れない。米兵が犯罪を起こしても米軍が認めないと逮捕できない。空路は米軍が優先する。あらゆる面で米軍優先を規定した協定だ。
このままでいいのか、という声が、与野党や知事らから上がり始めている。
地位協定に由来する問題は、米軍専用施設の70%超が集中する沖縄県で繰り返し起きているが、京都や滋賀も含め、全国どこでも起きうる。見直しに向けた議論を本格化させる時ではないか。
日米地位協定は、日米安保条約に基づき在日米軍の施設や兵士の法的地位を定めている。
在日米軍や兵士に日本の法律は適用されず、米軍や軍属による問題が起きても日本側に立ち入り調査をする権限はない。
沖縄では、事件事故を起こした米兵が基地内に逃げ込み、そのまま帰国することもある。近年では、基地から流出したとみられる化学物質が河川を汚染したが、行政が立ち入り検査できなかった事例がある。
昨年6月、静岡県伊豆半島沖で米軍イージス艦とコンテナ船が衝突した事故では、日本側は米側乗組員の事情聴取をできなかった。地位協定と軍艦の免責特権が立ちはだかった。
今年7月、全国知事会が日米地位協定の抜本的見直しを国に求めた。沖縄県の故翁長雄志前知事が2年前に設置を求めた研究会の成果だ。
沖縄県などの調査では、ドイツやイタリアなどは駐留米軍に国内法を適用させていることが明らかになった。
知事会の提言は、こうした事例も踏まえ、国内法令の米軍への適用や米軍機の飛行ルートの事前開示などを求めている。
住民の安心、安全に責任を持つ各知事として当然の要求だ。9月末の沖縄県知事選挙でも、主な候補者は全員、地位協定見直しを訴えた。
一方、安倍晋三政権の動きは鈍い。安倍首相は9月の自民党総裁選後、「戦後外交の総決算」を打ち出したが、地位協定は総決算の枠外に置いた。
地位協定は1960年の締結以来、改定されたことはない。不平等で主権侵害の疑いもある地位協定に触れずに、「総決算」と胸を張って言えるのだろうか。
国民の生命と財産に関わる問題である。知事会の提言は国民の声とも言える。安倍政権は正面から受け止める必要がある。