2018年10月19日金曜日

辺野古埋め立て承認撤回への対抗措置は民主主義の蹂躙

 防衛省 沖縄防衛局は17日、沖縄県が辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回したことへの対抗措置として、行政不服審査法に基づいて国土交通相に審査を請求、あわせて撤回の効力停止を申し立てました防衛省が身内である国交省に審査を請求するなどは、あまりにも見え透いていて話にもなりません。
 
 安倍首相玉城氏と会談し沖縄に在日米軍施設の7割が集中する現状を「到底是認できない。県民の気持ちに寄り添いながら、負担軽減に向け成果を出す」と述べたのはつい12のことでした。それなのに承認撤回の効力停止などを申し立てたということは、早くも一方的対話打ち切ったということです。なぜ平然と12日の会談とは何の脈絡もない行動を取れるのでしょうか。
 
 沖縄タイムスは社説で、安倍首相は「県民の声など一切聞く必要がないという態度であり、過去のどの政権もとったことのない強権的な姿勢だ」として、これまで普天間返還合意に尽力したリーダーとして橋本龍太郎(当時首相)、小渕恵三(同)、そして鳩山由紀夫同)の名前を挙げ、「安倍氏には歴史に根差した沖縄県民の苦悩に丁寧に向き合うという姿勢がまったく感じられない。菅氏もそうだ」と述べました
 
 琉球新報は社説で、「14年の知事選に続き、県内移設に反対する県民の意志が明確に示された中で、埋め立てを強行することは民主主義を踏みにじる暴挙としか言いようがない」、「そもそも、行政不服審査法は、行政庁の違法・不当な処分などに関し国民の権利利益の救済を図ることなどを目的としている。本来、行政庁である政府は、同法による救済の対象にはなり得ない」「にもかかわらず・・・政府が「私人」と強弁して乱用するのは詐欺にも等しい」と糾弾しました。
 
 東京新聞は社説で、「対立を解く責任は政府の側にある」として、ニューヨーク・タイムズが、知事選直後の社説で「日米両政府は妥協案を探るときだ」と訴えことを曳いて、「選挙を経て、ボールは政府側にある。必要なのは誠意ある姿勢と決断だ」と述べました。
 (紙面の関係で東京新聞の社説の紹介は割愛します)
 
 しんぶん赤旗は、玉城デニー知事のコメントを丁寧に紹介しました。
 沖縄タイムス、琉球新報、しんぶん赤旗の記事を紹介します。
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社説[辺野古 国が対抗措置]県民にも「尊厳」がある
沖縄タイムス 2018年10月18日
 玉城デニー知事が安倍晋三首相に会い「話し合いの場を設けてほしい」と要望してからわずか5日だ。対話による解決すら拒否する政府に嫌悪感を禁じ得ない。
 沖縄防衛局は、県が辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回したことへの対抗措置として、行政不服審査法に基づいて国土交通相に審査を請求、あわせて撤回の効力停止を申し立てた。
 玉城氏が「知事選で示された民意を踏みにじるもので、到底認められない」と反発するのは当然である。県民の声など一切聞く必要がないという態度であり、過去のどの政権もとったことのない強権的な姿勢だ。
 
 防衛省の申し立てを、同じ政府の機関である国交省が審査するというのだから、結論は見えている。
 政府は県が埋め立て承認を取り消した際も同様の対抗措置で取り消しの効力を停止したが、そもそも行政不服審査法は、強大な公権力から「国民の権利救済」を目的とした法律である。制度の乱用だと識者から批判があったことを忘れたわけではあるまい。
 安倍氏は玉城氏との会談で「県民の気持ちに寄り添いながら」と基地負担軽減を約束した。今月9日の翁長雄志前知事の県民葬で菅義偉官房長官は沖縄の基地負担の現状は「到底是認できない」と弔辞を読み上げた。
 その舌の根も乾かぬうちに、法の趣旨を歪(ゆが)め、対話の呼び掛けを無視し、対抗措置に踏み切るというのは、県民の尊厳を踏みにじるものだ。
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 普天間返還合意に尽力した当時の橋本龍太郎首相は「地元の頭越しには進めない」と、大田昌秀知事とひざ詰めで17回も会談した。
 小渕恵三首相は沖縄サミットの誘致に力を尽くし、県民の本土政府に対する不信感を和らげようと努力した。
 やり方は稚拙で実現に至らなかったが、鳩山由紀夫首相は歴代政権で初めて「最低でも県外」と声を上げ、県民の気持ちを代弁した。
 安倍氏には歴史に根差した沖縄県民の苦悩に丁寧に向き合うという姿勢がまったく感じられない。菅氏もそうだ。
 今年の慰霊の日の追悼式や県民葬といった厳粛な場で、安倍氏や菅氏に怒声が飛んだことの意味をもっと真剣に考えてほしい。見たくない現実も直視することが対話の前提である。合意形成の努力を怠るのは政治の堕落というしかない。
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 共同通信社が知事選後に実施した全国電話世論調査で、政府の辺野古移設方針を「支持しない」と答えた人が54・9%に上り、「支持する」の34・8%を大きく上回った。
 玉城知事誕生を受け、米紙ニューヨーク・タイムズは日米両政府に辺野古移設の見直しを求める社説を掲載した。
 知事選後の全国紙や地方紙の社説も対話による解決を求める声が多かった。
 戦後、これだけ基地を押し付けておきながら、なぜこれから先も沖縄だけに負担を強いるのか。今こそ本土側も県の提起を受け止め、議論を喚起してほしい
 
 
<社説> 国が撤回停止請求 民主主義蹂躙する暴挙だ
琉球新報 2018年10月18日
 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、元知事による埋め立て承認を県が撤回したことを受け、政府が対抗措置を取った。行政不服審査法に基づき国土交通相に審査を請求し、撤回の効力停止を申し立てたのである。
 
 9月30日の知事選では、辺野古移設を推進する安倍政権が全面支援した候補者を、新基地建設反対を訴えた玉城デニー知事が大差で下した。2014年の知事選に続き、県内移設に反対する県民の意志が明確に示された中で、埋め立てを強行することは民主主義を踏みにじる暴挙としか言いようがない
 そもそも、行政不服審査法は、行政庁の違法・不当な処分などに関し国民の権利利益の救済を図ることなどを目的としている。本来、行政庁である政府は、同法による救済の対象にはなり得ない
 にもかかわらず、県が埋め立て承認を取り消した15年には、沖縄防衛局長が自らを「私人」と主張して承認取り消しの執行停止を申し立てた。国交相はこれを認めている。一般国民のために作られた制度を、政府が「私人」と強弁して乱用するのは詐欺にも等しい行為だ。
 政府は、法治国家としてはあり得ない横暴な手段をまたしても取ろうとしている。国交相は、このような欺瞞(ぎまん)に満ちた出来レースにまたしても加担するのか。
 石井啓一国交相は公明党に所属している。同党沖縄県本部は普天間飛行場の県内移設に反対する立場だ。県本部からも、理不尽な申し立てを認めないよう働き掛けるべきだろう。
 
 国交相に申し立てをしたことについて岩屋毅(たけし)防衛相は「普天間飛行場の危険性除去と返還を一日も早く実現できるよう努力する」と強調した。知事選の結果について「真摯(しんし)に受け止める」と述べながらも、抑止力の維持と沖縄の負担軽減の必要性を挙げ、移設を進める方針を示した。
「抑止力」は政府の常套句(じょうとうく)だが、その根拠については合理的な説明が示されていない。海兵隊はヘリや水陸両用車の歩兵部隊を海岸から内陸部に上陸させる強襲揚陸作戦や、陸上鎮圧の特殊作戦などが主な任務だ。
 軍事面から見れば、沖縄に海兵隊を展開する理由は乏しいと多くの専門家が指摘している。沖縄には極東最大の米空軍嘉手納基地など多くの基地が存在する。普天間飛行場がなくなったからといって、何の支障もないのである。
 
「国民の皆さまは、新基地反対の圧倒的な民意が示されたにもかかわらず、民意に対する現政権の向き合い方があまりにも強権的であるという現実をあるがままに見てほしい」と玉城知事は訴えた。
 沖縄との対話の道を一方的に閉ざし、問答無用で新基地建設に突き進む。地方の民意を蹂躙(じゅうりん)する安倍政権の態度は全国民にとって脅威となり得る。沖縄だけの問題ではない。
 
 
辺野古 国が対抗措置 「法治国家にあるまじき行為」デニー知事が強く非難
しんぶん赤旗 2018年10月18日
 沖縄防衛局による不服審査請求と撤回の効力停止の申し立てについて、玉城デニー沖縄県知事は17日「知事選で示された(新基地反対の)民意を踏みにじるもの」で「非常に憤りを持つ」と述べ、国の姿勢を強く非難しました。
 
 デニー知事は県庁内の記者会見で、安倍首相や菅官房長官と12日に直接面談し、県民の強固な民意を伝えて対話による解決を求めたことを紹介。「そのわずか5日後に対抗措置を講じた国の姿勢は、到底認められない」と述べました。
 行政不服審査法は国民(私人)の権利・利益の迅速な救済を図ることが目的ですが、国が「私人」と主張して行政不服審査制度を用いたことにデニー知事は「制度の趣旨をねじ曲げた、違法で法治国家においてあるまじき行為」と断じました。
 デニー知事は、仮に国交相が本件の申し立てを認めて撤回の効力停止を決定することになれば、「内閣の内部における、自作自演の極めて不当な決定」だと強調しました。
 
 今後の県側の対抗・対応策について問われたデニー知事は、国側の主張・内容等を「精査し、さまざまな状況を勘案しながら検討する」と述べました。
 引き続き対話による解決を求めていくと表明したデニー知事は、全国民に向けて「辺野古新基地建設反対の圧倒的な民意が示されたにもかかわらず、民意に対する現在の政権の向き合い方があまりにも強権的であるという現実のあるがままを、見ていただきたい」と訴えました。
 
沖縄防衛局による辺野古埋め立て承認撤回に対する審査請求及び執行停止申し立てに関する 玉城デニー知事のコメント(要旨)
 
 私は、法的措置ではなく、対話によって解決策を求めていくことが重要と考えており、10月12日の安倍総理や菅官房長官との面談でも対話による解決を求めました。しかし、そのわずか5日後に対抗措置を講じた国の姿勢は、県知事選挙で改めて示された民意を踏みにじるものであり、到底認められません。
 
 行政不服審査法は、国民(私人)の権利利益の簡易迅速な救済を図ることが目的です。一方、公有水面埋立法の規定上、国と私人は明確に区別され、今回は国が行う埋め立てであり、私人に対する「免許」ではなく「承認」手続きがなされています。本件において、国が行政不服審査制度を用いることは、当該制度の趣旨をねじ曲げた、違法で、法治国家においてあるまじき行為と断じざるを得ません。
 2015年10月13日の埋め立て承認取り消しの際も、沖縄防衛局は、行政機関であるにもかかわらず、自らを「私人」であると主張して審査請求・執行停止申し立てを行い、国交相は約2週間で執行停止を決定しました。
 
 しかしながら、行政不服審査法第25条第4項では、「重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるとき」が執行停止の要件とされています。前回の承認取り消しに対しては、翌日には執行停止の申立てを行っていますが、今回の本年8月31日に行った承認撤回から既に1カ月以上が経過しています。
 仮に、本件において国土交通大臣により執行停止決定がなされれば、自作自演の極めて不当な決定といわざるを得ません。
 私は、安倍総理に対し、引き続き、対話を求めていきます。国民の皆さまには、沖縄県において、辺野古新基地建設反対の圧倒的な民意が示されたにもかかわらず、その民意に対する現在の政権の向き合い方があまりにも強権的であるという、この現実のあるがままを見ていただきたい。
 私は、辺野古に新基地はつくらせないという公約の実現に向けて、全身全霊で取り組んでいきます。ぶれることなく、多くの県民の負託を受けた知事として、しっかりとその思いに応えたいと思います。