8月1日に開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」において、脅迫や異常な抗議の電話、政党幹部・名古屋市長などの介入によって「表現の不自由展」の一部が展示中止になりました。
それからまもなく1ヶ月が経とうとしていますが、NHKが「そのことが、私たちに投げかけたものは何か」、憲法学者の木村草太さんに聞きました。
木村氏は、「今回の展示中止は『作品を見てもらう権利』と同時に、『作品を批判する権利』を奪っている」という視点が重要だと述べて、公職にあるものが、その立場を利用して展示の可否に言及するのは誤りで、今回の件は「『脅迫されない権利』、『業務を妨害されない権利』といった、表現の自由よりもっと手前にある重要な権利が侵害されてしまった」という問題であるとしました。
そして脅迫に対しどう対処すべきかは、「全国の知事や警察が連携して対策を研究してほしい」と述べました。
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奪われた“批判する権利”~ 憲法学者・木村草太さん
NHK NEWS WEB 2019年8月30日
愛知県の国際芸術祭で、一部の展示が中止されてからまもなく1か月。そのことが、私たちに投げかけたものは何か、憲法学者の木村草太さんに聞きました。
批判する側のルールとは
今回、事務局には、展示内容に対する批判が相次ぎました。
まず、これをどう考えるかと木村さんに問いました。
「『表現の自由』というのは公権力などによって強制的に表現することを奪われない権利です。一方で、ほかの人々から表現を非難されないという自由は含まれませんから、作品の内容や、展示の決定に対して人々が自由に批判することはまさに表現の自由です」と語りました。
ただし、木村さんは、批判をする側にも、一定のマナーがあると力説しました。
「強制力を使ってやめるさせることと、表現者に対して『こういう表現は間違っているんじゃないですか?』と伝え作者が自律的に改善するというのは全く違うものです。彫刻などの作品は鑑賞しないと立体的な評価はできず、報道などで作品内容を知ったとしても鑑賞せずに非難するというのは批判者として誠実ではありません。展示自体が行われていないということは、これまでに行った人を除けば作品を批判することすらできない状態になってしまった。つまり、今回の展示中止は『作品を見てもらう権利』と同時に、『作品を批判する権利』すら奪われているんだという視点が重要だと思います」
さらに、今回、展示をめぐり相次いだ政治家の発言については、こう、くぎを刺しました。
「公職の方々がもっている権限というのは、あくまで公共的な価値を実現するために与えられたものです。個人としての好き嫌いであるとか、芸術作品について批評を行うことは、与えられた権限の範囲を超えているということです」
表現の自由以前の問題
そして、一部の展示会が中止されたことについて、木村さんは、表現の自由を論じる以前のテロ事件だと、危機感をあらわにしました。
「『脅迫されない権利』、『業務を妨害されない権利』といった、表現の自由よりもっと手前にある重要な権利が侵害されてしまった。脅迫で、イベントをつぶすことができてしまうというもろさが露呈した。これから行われる東京オリンピックの開会式前日に脅迫状が届いたらどうするのか?大阪万博は対処できるのかという将来的な問題も浮き彫りになりました。愛知県だけの問題ではなく全国の知事や警察が連携して対策を研究してほしい」
木村さんは、今回の一連の問題が私たちに投げかけたことを、憲法学者の立場から終始、冷静に語ってくれました。
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