参院選に引き続き、埼玉知事選でも自民党は、当初トリプルスコアでリードしていた青島健太氏が、支持率低迷の国民民主党前参院議員の大野もとひろ氏にまさかの敗北を喫し、“埼玉ショック”が安倍政権を直撃しました。
自公が推薦した青島氏には菅幹事長の懐刀である選挙プランナー・三浦博史氏が張り付いて、安倍政権の常套手段である「争点隠し」と中央とのパイプの太さを強調する利益誘導型選挙に徹しましたが、埼玉県民は受け入れず、上田県政を継承する県民党候補を選びました。
当選した大野氏には、三浦氏の弟子筋で都議選圧勝の実績を持つ若手選挙プランナー・松田馨氏がついたことで雰囲気が一変し、諦めムードが一掃されたことが大きかったといわれています。
これによって最近は自民系候補ばかり応援している選挙プランナー・三浦氏に傷がつくとともに、「重要地方選挙に関わった時の勝率抜群」という“菅官房長官神話(勝利伝説)”も崩れました。
菅氏は平静を装っていますが、メディアは「知事選敗北、自民に危機感 埼玉」(朝日新聞8月27日)や「戦犯は菅長官か 埼玉県知事選で自公が想定外敗北の衝撃」(日刊ゲンダイ8月26日)などのタイトルを打って報じたほどで、今回の“埼玉ショック”は決して小さくはありません。
同じく与野党激突となった去年6月の新潟県知事選では、創価学会員がフル稼働することで自公の推薦候補が勝ちましたが、今回は参院選での選挙疲れに夏休み期間が重なったため、創価学会がほとんど動かなかったということです。公明党・創価学会は単なる自民党の集票機関に堕している「不毛」と決別すべきでしょう。
10月には大野氏辞職に伴う参院選埼玉選挙区補選がありますが、野党系候補が勝利する可能性は十分にあります。是非とも連勝して欲しいものです。
LITERAに横田 一氏のレポートが載りました。
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横田一「ニッポン抑圧と腐敗の現場」63
埼玉県知事選は菅官房長官と“御用達”選挙プランナー三浦博史氏の敗北だ! 安倍政権「勝利の方程式」が崩れた理由
LITERA 2019.09.02
「重要地方選挙に関わった時の勝率抜群」という“菅官房長官神話(勝利伝説)”が崩れ始めた。与野党激突の構図となった「埼玉県知事選(8月25日投開票)」で、菅氏が2回応援演説をして、現地には菅氏の懐刀の“官邸御用達選挙プランナー”の三浦博史氏が張り付いたのに、自公推薦候補の青島健太氏(元スポーツライター)が野党4党支援の大野もとひろ氏(国民民主党前参院議員)に破れてしまったのだ。
しかし翌26日の官房長官会見で菅氏は、自らが精力的にテコ入れをしたのに、まるで他人事であるかのような紋切型のコメントに始終した。
――(東京新聞の中根記者)昨日投開票された埼玉県知事選について伺います。選挙は立憲民主党や国民民主党など野党4党が支援した大野もとひろ氏が、自民党と公明党が推薦した青島健太氏らを破って初当選しました。今回の知事選挙は10月の参議院埼玉選挙区の前哨戦ともされましたが、選挙結果に対する受止めをお願いします。
菅官房長官 いつもの通りでありますけれども、地方自治体の選挙はその地域の住民の皆様方がその地域の課題をめぐって投票を行うものであり、政府としてコメントすることは控えたいと思います。
しかし菅氏が平静を装っても、「知事選敗北、自民に危機感 埼玉」(朝日新聞8月27日)や「戦犯は菅長官か 埼玉県知事選で自公が想定外敗北の衝撃」(日刊ゲンダイ8月26日)と報じられたように、今回の“埼玉ショック”が安倍政権を直撃したのは確実だ。
何しろ、当初は知名度の高い青島氏がトリプルスコアでリード。そして枝野幸男・立憲民主党代表(衆院埼玉5区)のお膝元での県知事選勝利で野党第一党にダメージを与えるべく、菅氏をはじめ岸田文雄政調会長や甘利明選対委員長ら自民党大物議員が続々と現地入りし、しかも黒岩祐治・神奈川県知事や森田健作・千葉県知事まで応援に駆け付ける総力戦を展開したのに、支持率低迷の国民民主党前参院議員の大野氏にまさかの敗北を喫したのだ。
一強多弱状態を謳歌してきた安倍長期政権の屋台骨(勝利の方程式)が崩れた形だが、もう一つ、埼玉県知事選の結果で注目すべきは、重要選挙での連戦連勝を演出してきた菅氏御用達の選挙プランナー・三浦博史氏が敗れたことだ。
同じく与野党激突となった去年6月の新潟県知事選では「自公推薦候補敗北の場合、『森友加計にまみれた安倍首相では選挙を戦えない』と声が党内で強まって石破茂氏支持が広がり、総裁選3選に黄信号がつく」と言われたが、三浦氏が選挙参謀として現地に張り付き、菅氏と懇意な佐藤浩・創価学会副会長を通じて創価学会員もフル稼働することで、野党統一候補を打ち破った。
危機管理能力抜群の菅氏が安倍首相が窮地に陥るのを未然に防いだ形だが、この新潟県知事選勝利に貢献したのが三浦氏だった。
菅長官の懐刀・三浦博史氏の弟子・松田馨氏が大野陣営に加わり師弟対決に勝利
日本の選挙プランナーの草分け的存在で、『洗脳選挙――選んだつもりが、選ばされていた!』の著者である三浦氏の得意技は、安倍政権の常套手段である争点隠し選挙だ。「北海道知事選(4月7日投開票)」でも現地に張り付き、官邸主導で与党系候補となった“菅(官房長官)チルドレン”こと鈴木直道知事の当選に貢献。若手イケメン芸人風の鈴木氏は国策に関わる三大争点(カジノ誘致・泊原発再稼働・JR赤字路線問題)に触れない争点隠し選挙を忠実に実践、夜間大学卒の苦労人で年収250万円の貧乏生活で夕張財政再建に尽力した若手市長のイメージを打ち出し、菅氏直系の“官邸傀儡候補”の実態を隠す「洗脳選挙」で、三大争点について語った石川知裕元衆院議員を打ち破ったのだ。
そんな三浦氏を埼玉県知事選の取材で連日目撃したので、「自公推薦候補勝利の可能性大」と筆者も思ったが、この予測は見事に外れた。大野陣営にとって大きかったのは、三浦氏の弟子にあたる選挙プランナー・松田馨氏が加わったことだった。大野氏支援の鈴木正人県議はこう振返る。
「『政治経験がなくても知名度抜群の青島氏を担げば勝利確実』と安易に考えた自民党の驕りが、大野氏の『奇跡の大逆転勝利』につながった。最近は自民系候補ばかり応援している三浦氏に対抗すべく、都議選圧勝の実績のある若手選挙プランナーの松田氏が参院選後に加わって雰囲気が一変、諦めムードが一掃されたことも大きかった」
つまり、今回の埼玉知事選は三浦氏と松田氏の選挙プランナー師弟対決でもあったのだ。そして、結果は、弟子の松田氏が師匠の三浦氏を制した。
ちなみに2012年夏の山口県知事選でも三浦氏と松田氏は師弟対決。この時は、自公推薦の元国交官僚の山本繁太郎・前知事が中国電力「上関原発」建設をめぐる政策を丸飲みする争点隠し選挙で、建設反対や再生可能エネルギー拡大を訴えた「環境エネルギー政策研究所」所長の飯田哲也所長を破り、師匠の三浦氏に軍配が上がったが、7年後の埼玉県知事選では弟子の松田氏がリベンジに成功したのだ。
自公・青島候補の公共事業推進にNOを突きつけた埼玉県民の先進性
しかし、連戦連勝の菅氏、三浦氏がこうした形で敗北した最大の原因はやはり、自民党の利益誘導型選挙への埼玉県民の意思表示だろう。
大野陣営が強調したのは「県民党 対 中央」。安倍政権とのパイプの太さをアピールしながら公共事業推進姿勢を打ち出す青島氏に対して、公共事業に抑制的な上田清司前知事の4期16年にわたる県政継承を大野氏は訴えたのだ。
「上田知事が引退表明をして以降、自民党県議団の中で県庁建替えを進める動きが活発化しました。必要な費用は400億円以上と見積もられていて上田県政では進まなかったのですが、16年ぶりの県政奪還の可能性が出て来た途端、具体化し始めたのです。県知事選の争点の一つともなりました。青島氏が『できるだけ早期に』と訴えたのに対し、大野氏は『今すぐの着工反対』という慎重姿勢で、両候補の立場の違いは明らかでした」(地元記者)
新潟県知事選でも北海道知事選でも、自公推薦候補は中央とのパイプの太さを強調、中央から補助金(税金)を引っ張ってくる利点を訴えた。同じ手法を埼玉県知事選でも繰り返したといえるが、埼玉県民は中央直結型の土建県政復活よりも、上田県政継承の県民党候補を選んだといえる。これまで有効だった常套手段が今回、「県民党 VS 中央」の構図に持ち込まれて効力を失ったようにもみえるのだ。
菅氏の勝利伝説が崩れた敗因は他にもある。懇意な佐藤浩・創価学会副会長を通じた「創価学会員フル稼働」が作動しなかったというのだ。
「今回、夏休み期間であったことから、創価学会がほとんど動かなかったようです」(創価学会事情通)
参院選から始まった安倍政権の退潮に拍車をかけた埼玉県知事選
いくつかの要因が重なったものの、埼玉県知事選での自公推薦候補敗北は、安倍政権の退潮傾向に拍車をかけるものだ。参院選では安倍首相が二回応援に入った激戦区で2勝6敗と大きく負け越し、32の一人区でも野党統一候補が10勝と善戦を許した。同じように埼玉県知事選でも、菅氏自身が二回応援演説に入り、懐刀の三浦氏が選挙参謀を務めた埼玉県知事選でもまさか逆転負けを喫したのだ。
大野氏勝利を受けて国民民主党の玉木雄一郎代表は談話を発表。「与野党激突の厳しい戦いを制したことは、次期衆院選に臨む我々にとっても大きな展望を切り開く」「より一層の野党連携を進める」と意気込んだが、10月には大野氏辞職に伴う参院選埼玉選挙区補選がある。「埼玉から安倍一強を崩していく」と大野陣営関係者は勢いづき、野党系候補が連勝する可能性は十分にあるだろう。
今回の埼玉県知事選の教訓は、野党一丸となって戦えば、自公推薦候補を打ち破れることを実証したことだ。奇跡の大逆転勝利によって、これまで話題性に乏しい地味な埼玉が、安倍政権打倒の気運を高めた先進地として全国的に注目されるのは間違いない。(横田 一)