2019年9月27日金曜日

27- 国が台風被害「初動ミス」批判封じの千葉県厚遇 特例策

 千葉県を襲った台風15号による甚大な被害に対して「初動ミス」を批判されている政府は24日、「一部損壊」家屋の修理への公的支援を特例的に拡充すると発表しました。
 今年6月の山形県沖地震(震度6強)でも政府は今回同様一部損壊家屋への支援を含む特例措置をとりました。その時は自治体が行う支援の財源のうち「半分」を国が賄うというものでしたが、今回は財源の「9割」を国が賄うという破格の厚遇ぶりです。
 被災者に対して手厚く手当てをするのは極めて望ましいことだし被災者も助かりますが、そうなると他所への冷淡な対応は何であったのかということになるし、この“手厚すぎる”特例支援は「初動の遅れ」という失態を隠すための場当たり的な対応で、カネを積んでそれを隠そうとするものと批判されています。
 
 また現実の問題として、ゴルフ練習場の鉄が倒壊し住宅の屋根や2階部分が破壊された10軒以上の民家は、事故後2週間以上も手つかず・雨ざらしの状態で、「二階には雨水がたまりカビが広がり始めているということです。
 それなのに倒れた鉄塔の撤去の費用負担も撤去スケジュールも全くの白紙状態です。
 こういう時こそ「公」が問題を整理し、しかるべき援助もすべきでしょう。
 
 日刊ゲンダイの二つの記事を紹介します。
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今さら千葉厚遇…台風被害「初動ミス」批判封じの汚い魂胆
日刊ゲンダイ 2019/09/26
 台風15号による甚大な被害に見舞われた千葉県南部の大規模停電はほぼ解消したが、住宅被害はまだまだ深刻な状況だ。災害対策の「初動が遅れた」と批判が噴出する中、安倍政権は千葉県への“手厚すぎる”特例支援を決定。場当たり的な対応の狙いは失態隠し。カネを積んで批判をそらそうというわけだ。
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 政府は24日、国の支援制度の枠を外れる「一部損壊」家屋の修理への公的支援を特例的に拡充すると発表。現行法による支援対象は被害割合が「20~40%」の「半壊」以上の住宅に限られており、「20%未満」の一部損壊は対象外だ。
 千葉県内の住宅被害は同日時点で約1万2900戸。うち9割近い1万1400戸が一部損壊だ。強風で屋根が吹き飛ばされ生活がままならない市民にとって支援拡充は、復旧の後押しになるに違いないが、ちょっと待ってほしい。今回の特例は不自然なほどの“大盤振る舞い”なのだ。
 
 今年6月、最大震度6強を観測した山形県沖地震でも、政府は今回同様、一部損壊家屋への支援を含む特例措置をとったが、当時は自治体が行う支援の財源のうち「半分」を国が賄ったに過ぎない。一方、今回は財源の「9割」を国が賄う“厚遇”ぶりだ。
 
■大阪北部地震では「特例」ナシの不公平
 最大震度6弱だった昨年6月の大阪北部地震では、住宅被害5万7348戸のうち、ほぼ全てが一部損壊。同年9月の台風21号でも大阪府を中心に住宅被害が拡大したのに、政府は今回のような特例支援は行わなかった。住宅の損壊程度にかかわらず独自支援を打ち出す摂津市では、いまだに強風で吹き飛んだ屋根瓦の代わりにブルーシートを張った住居が目立つ。千葉県と似たような被害状況なのに、「一部損壊住宅に対する国からの特例支援はない」(市建設課)という。
 あまりに恣意的な対応に、ネット上では「千葉だけだと不公平」「完全なダブルスタンダード」といった批判が続出。千葉にだけ大枚をはたくのは、今回の台風発生が組閣時期と重なり、「政府の初動対応が遅れた」との批判をはねのける狙いがあるのは明白だ。
 
 赤羽国交相は21日の閣議後会見で、「総理から家屋損壊への対応等について最大限の工夫を行い、国と自治体が協力して支援を進めるよう指示を受けた」と明かした。官邸からせっつかれたからなのか、「突然の特例対応に国交官僚は大慌てでした」(霞が関関係者)という。安倍首相の焦りは相当なものだったのだろう。
 
「自然災害は年々深刻化していますから、今回、特例支援を決めたこと自体は評価できます。しかし過去、同様の被害に遭った方たちとの対応の差は明白です。特例で対応するなら、可能な限り過去にさかのぼって支援措置を検討すべきでしょう。それができなければ、法の下の平等に反する。結局、初動の遅れへの批判をかわすための“特例中の特例”だったと受け止められても仕方ありません」(立正大名誉教授の金子勝氏=憲法)
 結局、カネを積んで批判を封じようという薄汚い魂胆。特例支援の裏のドス黒さを見逃してはいけない。 
 
 
鉄柱撤去いつ…憤る住民 天井に穴 雨水でカビ「もう住めないかも」
東京新聞 2019年9月26日
 台風15号の強風でゴルフ練習場の鉄柱が倒壊した千葉県市原市の現場は、今も鉄柱が住宅を押しつぶすように倒れたままになっている。被害から二週間以上たったが、撤去の見通しは立っておらず、避難生活を送る住民は「いつまで、このままなのか」といら立ちを募らせる。(岡本太)
 
早く撤去しないと、さらに崩れるかもしれない。なぜこんなに時間がかかるんだ…」。住民の細野実さん(62)は、自宅の二階に食い込み、ひしゃげた鉄柱を見上げた。ここに住んで十六年。「もう住めないかもしれない」とため息をついた。
 被害があったのは九日未明。練習場のネットを固定する高さ三十~四十メートルの鉄柱十数本が強風にあおられ、幅百十メートルにわたって十数軒を覆うように倒れたほとんどの住宅で屋根や二階部分などが大破した
 
 細野さん宅は鉄柱一本が二階の寝室を直撃。布団で就寝していた妻の横約一メートルに、鉄柱が突き破ってきた。一階にいた細野さんはすぐに二階に上がり、妻を救出。「天井に穴があり、真っ暗な空が見えた。なにが起きたのかしばらく理解できなかった」。二階の別室にいた長男は無事だった。
 放置された鉄柱のため、自宅前の市道もふさがれたまま、車で近づくことすらできない。「穴の開いた二階寝室には雨水がたまり、カビが広がり始めています」。一家は今、市内にある妻の実家に身を寄せている。
 複数の住民によると、練習場の経営者の女性は十一日、詰め掛けた住民に対し、鉄柱を撤去すると説明したが、その後、具体的な日程などは示されていない。経営者は二十四日、本紙の取材に「撤去をする考えはあるが、日程などについて今の段階で言えることはない」と話した。
 市原市によると、二十一日には業者による現地調査が行われた。住民によると、解体業者による住民向けの説明会が二十六日夜に開かれる予定だという。
 
◆経営者側一転「補償できない」
 被害を受けた住宅の補償は、生活再建に向けた大きな課題となる。複数の住民によると、練習場の経営者は当初、「住宅の修繕費なども補償する」と説明したが、後日、練習場運営会社の代理人弁護士が「自然災害なので補償できない」と態度を転換。住民の不安を加速させている。
 不動産トラブルに詳しい秋山直人弁護士によると、今回のケースでは、鉄柱やネットの管理に不備や過失があったかが、損害賠償責任の有無を分けるという。
 現在、国土交通省などが倒壊の原因について調査しており、その焦点の一つが施設の老朽化だ。今回の倒壊では、鉄柱とコンクリートの基礎部分を固定するボルトが複数の場所で破断しており、練習場側が適切な点検や管理を行っていたかが、問われることになる。
 
 台風15号では、市原市と隣接する千葉市中央区で観測史上一位の最大瞬間風速五七・五メートルを観測。通常の予想を超える暴風が原因で倒壊したと判断されれば、損害賠償を請求することは難しくなる。
 仮に練習場側に損害賠償責任を問えない場合、住民は火災保険で対応することになるが、補償の範囲は保険の契約内容によってさまざま。住宅に被害を受けた住民の男性は「駐車場から車を出せず、レンタカー代もかさんでいる。保険がどこまで適用されるか不安だ」と話した。