「あいちトリエンナーレ2019」の展示の一部「表現の不自由展・その後」が中止となった問題をめぐり、文化庁は26日午後、予定していた補助金約7800万円全額を交付しないと発表しました。この補助金については先月2日の菅官房長官の会見で、「審査の時点では、具体的な展示内容の記載はなかったことから、補助金の交付決定では事実関係を確認、精査して対応していきたい」とされていました。
それが大村県知事をトップとする実行委員会が、県設置の検証委員会が出した中間報告をしっかり踏まえて「条件を整えた上で展示の再開を目指したい」と表明したのを見計らったかのように「交付しない」旨を発表したのでした。
文化庁は、ことし4月には、「トリエンナーレ2019」を国の補助事業として採択し約7800万円を交付する予定でしたが、一連の事態を受けて再検討した結果、「愛知県からの申請は、少女像などの具体的な展示内容の説明がなく不十分だった」として、補助金を交付しない方針を固めということです。
しかし展示項目が一部漏れていたから補助金を交付しないというのであれば、今後も文化庁は好きなように展示会などへの補助金の交付を止めることが出来てしまいます。発表のタイミングから見ても「少女像の展示」が本当の理由と思われます。
今回の「トリエンナーレ」に対する「脅迫」や「電凸」といわれる集団的な抗議電話は、すべて「展示自体」に反対することが目的で、芸術に対する正しい態度ではありませんでした。それに本来 芸術表現の自由を守るべき文化庁までが与するというのはあり得ないことです。
岡田憲治・専修大教授は、「政権の意向に沿う形で補助金を出さなかったのであれば、これほど分かりやすい憲法違反はない。表現の自由が損なわれ、国家が正しいと判断した表現しか認めない状況がエスカレートすると非常に危うい」と述べています。
また木村草太・首都大東京教授は、「安全を害したから補助金を交付しないとなると、脅迫を受けた被害者を追加で攻撃していることになってしまう。脅迫は犯罪なので、警察や司法機関が適切に対応して解決すべき問題だ。文化庁は、寄り添うべき相手が加害者なのか被害者なのかという点を、もう一度冷静に考えるべきだ」と述べています。
東京新聞とNHKの記事を紹介します。
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トリエンナーレ補助金不交付 「愛知県の手続き不備」 文化庁方針
東京新聞 2019年9月26日
国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が中止になった問題を巡り、文化庁は二十六日、同芸術祭への補助金約七千八百万円を交付しない方針を固めた。愛知県が補助金申請した際、交付審査に必要な情報が文化庁に申告されず、手続き上の不備があったと判断した。
同庁関係者は取材に対し「展示内容の是非が不交付の理由ではない」と強調。ただ、展示などを巡り予想された「運営を脅かす事態」について、事前に伝えていなかったことを問題視した。近く正式に公表する。
愛知県の大村秀章知事は同日「まだ文化庁から何の連絡もない」とした上で、不交付が正式決定されれば、国の第三者機関「国地方係争処理委員会」に審査を申し出る意向を示した。県庁で記者団の取材に「合理的な理由があるのか係争委でお聞きすることになる」と述べた。
文化庁は四月、国が開催費などを支援する「文化資源活用推進事業」として同芸術祭を採択し、補助金を交付する予定だった。ただ交付の正式決定はしておらず、その後、元慰安婦を象徴した「平和の少女像」などの展示が物議を醸したことなどを受け、事実関係を精査していた。
◆政権意向なら憲法違反
<専修大の岡田憲治教授(政治学)の話> 政権の意向に沿う形で補助金を出さなかったのであれば、これほど分かりやすい憲法違反はない。表現の自由が損なわれ、国家が正しいと判断した表現しか認めない状況がエスカレートすると非常に危うい。「お国のため」の精神が社会に刷り込まれかねない。
<表現の不自由展・その後> 「あいちトリエンナーレ2019」の企画展の一つ。国内の公立美術館などで、抗議を恐れての自粛や行政による拒否が理由で展示できなかった作品を集めた。2015年に東京のギャラリーで開かれた「表現の不自由展」を原型に、独自の実行委員会が企画した。作品の主題は慰安婦のほか天皇制、原発事故、米軍基地、政権批判など多岐にわたる。
愛知 国際芸術祭への補助金 不交付の方針 文化庁
NHK NEWS WEB 2019年9月26日
慰安婦を象徴する少女像などの展示をめぐって脅迫めいた電話などが相次ぎ一部の展示が中止された愛知県の国際芸術祭について、文化庁は、事前の申請内容が不十分だったとして、予定していたおよそ7800万円の補助金を交付しない方針を固めたことが、関係者への取材で分かりました。
愛知県で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」のうち「表現の不自由」をテーマにした企画展は、慰安婦を象徴する少女像などをめぐって脅迫めいた電話などが相次ぎ、先月、開幕から3日で中止されました。
「あいちトリエンナーレ」について、文化庁は、ことし4月、観光資源としての文化の活用推進を目的とした国の補助事業として採択し、およそ7800万円を交付する予定でした。
しかし一連の事態を受けて改めて検討を行い、愛知県からの申請は、少女像などの具体的な展示内容の説明がなく不十分だったとして、補助金を交付しない方針を固めたことが、関係者への取材で分かりました。
この補助金について菅官房長官は先月2日の会見で「審査の時点では、具体的な展示内容の記載はなかったことから、補助金の交付決定では事実関係を確認、精査したうえで適切に対応していきたい」と述べていて、文化庁の判断が注目されていました。
「あいちトリエンナーレ」に対する補助金の取り扱いについて、文化庁は、審査の結果「申請者である愛知県は、開催にあたり、来場者を含め、展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、事実を申告することなく、文化庁から問い合わせを受けるまで事実を申告しなかった」と指摘しています。
そして「審査の視点で重要な点である、実現可能な内容になっているか、事業の継続が見込まれるかの2点で、適正な審査を行うことができなかった」としています。
そのうえで「補助事業の申請手続きにおいて不適当な行為であったと評価した」として、補助金適正化法に基づき、全額不交付とする方針を固めました。
こうした方針について、文化庁は「文化資源活用推進事業」では、申請された事業は、全体として審査するもので「あいちトリエンナーレ」は、申請金額も事業全体として不可分一体な申請がなされているとして、総合的に判断したとしています。
“表現の自由”めぐって議論
愛知県の国際芸術祭、「あいちトリエンナーレ」のうち「表現の不自由」をテーマにした企画展をめぐっては、主催者側を脅迫するファックスや脅迫めいた電話のほか、あわせて770通の脅迫メールが届きました。
また、政治家の発言が相次ぎ、憲法が保障する表現の自由をめぐって議論が起きました。
このうち名古屋市の河村市長は、先月2日、会場を訪れたあと記者団に対し「どう考えても日本国民の心を踏みにじるものだ。税金を使ってやるべきものではない」と述べ、この企画展の中止を求めました。
この発言について、愛知県の大村知事は先月5日の会見で「憲法違反の疑いが濃厚だ。公権力が『この内容はよくてこれはダメだ』と言うのは、検閲ととられても仕方ない」と批判しました。
また、河村市長の発言のほか、菅官房長官が先月2日の会見で芸術際への国の補助金について、事実関係を精査し、交付するかどうか慎重に検討する考えを示したことについて、日本ペンクラブが声明で「行政の要人によるこうした発言は政治的圧力そのものであり、憲法が禁じている『検閲』にもつながるものである」と指摘するなど議論を呼んでいます。
菅官房長官は先月5日の会見で、補助金をめぐるみずからの発言が主催者側の判断に影響を与えたと考えるか問われたのに対し「まったくない。国民の大事な税金を交付するので、事実関係を確認した上で適切に対応すると答弁しただけで、記者の質問に対して申し上げただけだ」と述べました。
そのうえで「暴力や脅迫はあってはならない。刑事事件として取り上げるべきものがあれば、捜査機関で適切に対応する」と述べました。
官房長官「補助金は文化庁で審査中」
(中 略)
憲法学者の木村草太さん「不交付は被害者を追撃したことに」
愛知県で開かれている国際芸術祭について、文化庁が補助金を交付しない方針を固めたことについて、憲法学者で、首都大学東京の木村草太教授は「安全を害したから補助金を交付しないとなると、脅迫を受けた被害者を追加で攻撃していることになってしまう。脅迫は犯罪なので、警察や司法機関が適切に対応して解決すべき問題だ。文化庁は、寄り添うべき相手が加害者なのか被害者なのかという点を、もう一度冷静に考えるべきだ」と指摘しています。
そのうえで「補助金の交付は、芸術作品としての価値を基準に判断するのが原則で、今回のような理由で交付しないとなれば、不十分な理由での補助金の運用が横行して、補助金を通じて特定の思想表現には援助しないという排除が進む危険性が高い。交付しないのであれば、極めて慎重に、また十分な理由をもって判断すべきだ」と指摘しています。