こともあろうに「旭日旗」の東京オリ・パラリンピック会場への持ち込みを許可することの不当性に関しては、これまでも関係記事を紹介して来ました。
今回、テレ朝『大下容子ワイド! スクランブル』がその流れで「旭日旗問題」を特集し、極右解説者を起用するなどして「旭日旗」を全面的に肯定する番組を流しました。
その部分の司会をしたのが、ネトウヨから一目置かれる小松靖アナウンサー※で、彼は毎日のように右派コメンテーターを呼んでは韓国バッシングを繰り返しているということです。
LITERAが同番組(13日に放映)での手口を詳細に報じましたので、紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
テレ朝『ワイド!スクランブル』が完全にネトウヨ番組に!
教科書圧力扇動の極右解説者を起用、「旭日旗」をデマで全面肯定
LITERA 2019.09.17
いい加減にしろ、と言いたくなる。テレビのワイドショーが連日繰り広げる「嫌韓キャンペーン」だが、そのレベルはもはやネット右翼と変わらない。デマや歴史修正を混ぜこぜにしてまで“韓国を叩ければなんでもアリ”の様相を呈している。
その筆頭が『大下容子ワイド!スクランブル』(テレビ朝日)だ。『ワイド!スクランブル』といえば、早河洋会長のもとどんどん安倍政権になびいていっているテレビ朝日のなかでも、とりわけ右傾化が著しい番組。ネトウヨから一目置かれる小松靖アナウンサーが司会を務め、毎日のように右派コメンテーターを呼んでは韓国バッシングを繰り返している。
そんな同番組が9月13日に「旭日旗問題」を特集。当然のように、旭日旗をまったく批判せず、逆に「韓国による言いがかり」のように放送した。たとえば冒頭VTRでは、11日に韓国政府が東京オンピック・パラリンピックの会場への旭日旗持ち込み禁止をIOC(国際オリンピック委員会)に要請したことにかんして、いきなり「韓国がまたしても反日姿勢を加速させている」なるナレーションで始まった。
いやはや、そもそも政治的主張が禁じられている五輪に旭日旗を持ち込ませないことがなんで「反日姿勢」になるのか、まったく理解ができないが、さらにVTR開けのスタジオでは、小松アナがパネルを使って旭日旗問題を「反日 次の一手!?」などと解説し始めた。
まず、小松アナは「韓国がナーバスになっている旭日旗なんですけども、そもそも何か見ていきたいと思います」と“旭日旗の歴史”を解説する。旭日旗(正確には放射する光芒を表す紅白のデザイン)は少なくとも明治時代からあるとしたうえで、大日本帝国陸海軍との関係については「軍隊にも使われてきた経緯があります」と述べるにとどめた。ヒドいのはここからだ。
小松アナは「韓国政府が旭日旗をナチスドイツのハーケンクロイツ(鉤十字)になぞらえた」ことについて「ハーケンクロイツとは全然違う」と言って、「専門家の話」として水間政憲という人物による説明をパネルで紹介。ドイツ軍が使う鉄十字の紋章を引き合いに、こう続けた。
「ハーケンクロイツとは全然違う根拠としまして、まずハーケンクロイツ(鉤十字)というのは、ナチスの党旗として、政党の旗として認知され、ナチスが崩壊していったとともに亡くなった。一方で、鉄十字はあまり馴染みがないかもしれませんが、この鉄十字というのが、むしろ日本の旭日旗に相当するものだと。(鉄十字は)中世以来ドイツの軍事的シンボル。ですから、もし韓国が(旭日旗の)引き合いに出して非難するとすれば、こちら(鉄十字)になるはずなんだけども、当然、軍が使ってきたものなので。だから、こっち(鉤十字)を持ち出してきて旭日旗と同じだと言うのはちょっと筋が違うんじゃないですか。ゆえに、ハーケンクロイツとは(旭日旗は)意味が違うんですよということを、水間さんはおっしゃっている」
おいおい、ちょっと待ってくれ。この「旭日旗は軍旗だから、ドイツ軍が現在でも使っている鉄十字と同じ。鉤十字とは由緒が異なっているから問題ない」という話は、ネトウヨがしょっちゅう口にするロジックだが、いや、だから何だと言うのか。
本サイトでは何度も説明しているが。戦前、旭日旗は陸軍では「天皇の分身」として神格化された。「連隊の魂」として礼式や取り扱い等が厳格に規定され、第二次世界大戦末期には爆薬によって旗手が軍旗もろとも自爆したとすら記録されている。ようするに、旭日旗は単なる軍の標識ではなく、大日本帝国の侵略を正当化する神国・軍国主義イデオロギーそのものだ。
旭日旗を肯定した解説者の正体 歴史教科書問題で学校に卑劣圧力をかけた極右
海軍でも旭日旗には単なる「軍艦の旗」以上の意味付けがなされた。たとえば1902年に海軍少佐・奥田貞吉の名前で著された「帝國國旗及軍艦旗」には、〈軍艦旗ハ海軍ニ於ケル主權ノ表章ニシテ戦時平時ヲ問ハス軍艦及海軍所用の船艇ニ掲揚セラルヽモノトス〉とあり、その意匠には〈我帝國ノ武勇ヲ世界ニ輝カセ〉とか〈帝國ノ國權ヲ地球ノ上ニ發揚セヨ〉との意味があるとされている。つまり、旭日旗には国威発揚や帝国主義の正当化を図る示威行為の意図があったのだ。
こうした歴史的な経緯をネグって「旭日旗は伝統的なデザイン」などと強弁したところで、何の説得力もないのだ。まして、「旭日旗をなぞらえるべきはハーケンクロイツではなく鉄十字」というのは屁理屈未満だ。だったら聞くが、ハーケンクロイツはナチスドイツの国旗になった一方、大日本帝国では日の丸(日章旗)が「国旗」として扱われた。ところが、「旭日旗は鉤十字とは違う!」とわめくネトウヨたちが、日章旗をナチの国旗になぞらえることは決してない。結局のところ、旭日旗を正当化するため、揚げ足取りをしているに過ぎないのである。
ところが、番組は、水間氏による旭日旗正当化の屁理屈を全面的に肯定するかたちで垂れ流してしまった。だが、そもそも水間氏の正体は、慰安婦問題や南京虐殺を否定する論陣を張って、日本会議の集会などで講師も務める自称「歴史研究家兼ジャーナリスト」だ。その著書は、百田尚樹氏らネトウヨ系文化人の“元ネタ”にもなってきた。
しかもこの水間氏、2年前には、中学校の歴史教科書採択にOB・OGを名乗って圧力をかけるというむちゃくちゃなキャンペーンを扇動したこともわかっている(参考記事 https://lite-ra.com/2017/09/post-3440.html)。そんな人物を「専門家」として紹介し、その言い分を垂れ流す『ワイド!スクランブル』は、いったいどういう了見をしているのか。
いや、『ワイド!スクランブル』のトンデモぶりはその後も続いた。小松アナは「では、韓国はいつからこの旭日旗を問題視するようになったのか」と言って、元駐韓大使である武藤正敏氏のコメントを紹介。武藤氏といえば、同番組をはじめ、連日のようにワイドショーに出てきては韓国バッシングを発信している御仁だが、ともあれ、『ワイド!スクランブル』では小松アナがこう説明した。
元駐韓大使・武藤正敏「韓国が旭日旗を問題視し始めたのは2011年から」はフェイク解説
「2011年のサッカー・アジアカップに遡ります。日本対韓国の試合で、日本人に対する侮蔑を意図したとされる“猿まねのパフォーマンス”を行なった韓国代表の奇誠庸選手。日本人への人種差別にあたるという批判に対して、こういうことを理由として述べたんですね。『観客席の旭日旗を見て涙がでました。私も選手の前に大韓民国の国民です』とこういうことを言った。スタジアムに旭日旗があった、昔のアジアで、彼らの言葉を借りれば、辛い思いをさせられたということを思い出した、だから私もいわば仕返しというか、報復したいという気持ちでこれをやったと説明しました」
「当時をよく知る当時の駐韓大使、番組でもおなじみ武藤さんは、その影響が『これがきっかけだった。韓国マスコミが旭日旗そのものに問題があって、国際社会から追放すべきと報じた。それにより、一夜にして韓国で旭日旗排除が主流になっていった』と話しています」
はいはい。これも完全にネトウヨがよく言う俗論だ。ようは「2010年の奇誠庸の差別パフォーマスを正当化するため、韓国が旭日旗を問題視し始めた」と言いたいようだが、まったくの事実無根である。
だいたい、ちょっと過去の報道を調べればわかることだが、旭日旗が問題視されたのは2011年のアジアカップよりもはるかに前からのことだ。
たとえば、2000年以降、日本の歴史教科書からアジアへの侵略や加害性を薄める動きが相次いだが、これに対して韓国では、市民デモのなかで旭日旗を“日本による侵略・軍国主義の象徴”として燃やすというような抗議が行われていた。韓国のバンドがフジロックで「歴史教科書問題への抗議」として旭日旗を破るパフォーマンスを行ったのも2001年のことだ。2006年にも、小泉純一郎首相による靖国参拝に対するソウルの抗議集会で旭日旗が引き裂かれている。
ちなみに、旭日旗を破るようなパフォーマンスについては、韓国内から「やりすぎではないか」という声もあがったことは付け足しておきたいが、ようするに “旭日旗=帝国主義・軍国主義”という構図は常識なのである。
加えれば、こうした旭日旗を巡る反感を、日本政府もかつては承知してきた。たとえば、2008年の北京五輪では、北京の日本大使館が日本人観戦客向けに発表した「安全の手引き」のなかで、〈観戦時に政治・民族・宗教的な旗や横断幕を広げることは禁じられており、日本大使館は「旭日旗」など過去の歴史を想起させる旗もトラブルを引き起こす可能性があるとして自重を求め〉ている(毎日新聞2008年8月1日)。つまり、少なくとも旭日旗が「政治的な旗」にあたることを日本政府も認めていたのだ。
旭日旗正当化は安倍政権と極右陣営の大日本帝国肯定・歴史修正主義の象徴
ところが、安倍政権になってからというのもの、スポーツの試合などで旭日旗が議論になるたびに、政府は「日本国内で広く使用されている」などと強弁、正当化するようになった。今月12日には、橋本聖子・五輪担当大臣が五輪会場への旭日旗の持ち込みについて「旭日旗が政治的な宣伝になるかということに関しては、決してそういうものではない」と語り、容認する認識さえ示している。この豹変は逆に、安倍首相のような極右陣営にとって、旭日旗がいかに“理想とする戦前回帰的イデオロギーの象徴”であるかを物語っている。
もうひとつ、いい機会なので言っておくが、旭日旗を日本の帝国主義・軍国主義のシンボルと感じているのは、別に韓国だけに限った話ではない。中国、香港、台湾あるいは日本が侵略したアジアの国々はもちろんのこと、アメリカでも、旭日旗の意匠は報道や小説などの創作物のなかでたびたび「戦中の大日本帝国」の意味で使われている。たとえば米国の対日貿易摩擦では、米国右派など一部から日本批判の流れで旭日旗が出てきたことがあった。言うまでもなく、日本製品による経済的な“侵略”ととらえる文脈だ。
いずれにしても、『ワイド!スクランブル』が無批判に紹介した「奇誠庸の猿まねパフォーマンスをフォローするために騒ぎ出した」というような話はデマであり、問題のスリカエ、旭日旗問題の矮小化以外のなにものでもない。
なお、番組ではこの後もスタジオで、『「反日モンスター」はこうして作られた 狂暴化する韓国人の心の中の怪物〈ケムル〉』(講談社)、『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館)などの著書を持つ著述家の崔碩栄氏が “旭日旗に似ているデザインは韓国のあちこちにもあって、批判したりしなかったりするのはダブルスタンダード”という趣旨の発言をしていた。
例の「東京パラリンピックのメダルのデザインが旭日旗を連想させる」という主張もそうだが、日本のマスコミの間では「韓国側があれもこれも『旭日旗』だとクレームをつけている!」として蔑むような報道が多くみられる。たしかに「それは違うだろ」と思わざるを得ないものもなかにはあるかもしれない。しかし、間違えてはならないのは「旭日旗に似ているか似ていないか」というのは副次的な話に過ぎないということだ。「それだけ韓国内では旭日旗に対する拒絶感がある」という事実を、まずは真摯に受け取とめるべきだろう。
ヘイトデモではさらに大量の旭日旗が! 差別扇動を後押しするメディアの責任
こうしたことは、ほとんどネトウヨ番組と化している『ワイド!スクランブル』だけの問題ではない。いま、マスコミや文化人は揃いも揃って、日本による侵略の史実や戦争犯罪の数々や、在特会などによるヘイトデモで旭日旗が無数に掲げられている事実に見て見ぬ振りを決め込んで、旭日旗問題を逆に「嫌韓キャンペーン」の“格好のネタ”として利用している。結果として、朝鮮半島の人々や在日コリアンに対する差別を扇動しているとさえ言える。極めて危険な状況だ。
繰り返すが、旭日旗問題は決して「韓国の言いがかり」ではない。戦中日本の帝国主義・軍国主義の象徴であることは、歴史的にも動かせない事実である。そして、政治権力が曲がりなりにも“平和の祭典”であるオリンピック・パラリンピックにまで旭日旗を持ち込ませようとしている事実は、明らかに、国民から戦前回帰的価値観への拒絶感を取り除こうとの思惑が透けて見える。
本来、メディアがなすべきは、そうした政権のどす黒い欲望を見抜き、徹底して批判することのはずだ。だが現実には、『ワイド!スクランブル』のように安倍政権に丸乗りし、あまつさえネトウヨデマまで垂れ流して、旭日旗問題を「嫌韓キャンペーン」にすり替えるマスコミがほとんどだ。
旭日旗に対するこうした政権のお墨付きやメディアの追認は、現実に差別扇動を後押ししている。実際、15日に錦糸町で行われたヘイトデモでは、これまで以上に大量の旭日旗が掲げられていた。政権とメディアの後押しを得て、明らかに極右ヘイト勢力が勢いづいている。
このままでは、本当に五輪会場で旭日旗が掲げられてしまうだろう。それが原因で衝突が起き、死傷者が出たらどうするつもりなのか。「嫌韓キャンペーン」を煽ってきた日本政府やマスコミは、責任が取れるのか。もはや腐りきっている。メディアが戦争を煽った暗黒時代は、過去の話ではないのである。 (編集部)