2019年9月25日水曜日

日米貿易協定が署名できなくなった裏を読み解く(天木直人氏)

 当初の政府の説明では日米貿易協定は、26日(日本時間)のトランプ・安倍会談で署名にすることになっていましたが、今回は見送られることになりました。
 
 NHKの報道(24日12:18)では、「日米の新たな貿易協定をめぐり、茂木外務大臣は、ライトハイザー通商代表との閣僚協議を行い、終了後、茂木大臣は『きょうで交渉がすべて終わった。合意した内容は、首脳会談で確認したあと、速やかに発表したい』と述べた」、「協定への署名について『膨大な作業を進めているところであり、今月末に協定への署名を目指すという目標からそんなに遅れていない』と述べた」と、何気ない報道になっています。
 
 元外交官の天木直人氏はこれについて、
 茂木大臣とライトハィザー米通商代表との間で玉虫色の合意でごまかしてトランプ大統領と安倍首相に署名させようとしたが、トランプ大統領は自分の支持者にわかりやすい成果を強調しなければならないことから(『こんな表現はダメだ』となって)、日米貿易協定案の書き直しを命じたからだ(要旨)」
と推測しています。多分その通りなのでしょう。
 
 安倍首相がトランプ大統領と一対一で会談したときには、首相はトランプ氏の要求にかなり具体的に応じる話し方をしていると思われます。それを茂木大臣がライトハイザー通商代表との交渉でかなりあいまいな形でまとめたことを、安倍氏は深く「多として」、先般の改造で外相に就けたと言われています。
 そうであれば一体どういう形の協定書にまとまるのか注目されます。いずれにせよ諸悪の根源は、トランプ氏にひたすら迎合しようとする安倍氏にあることは明白です。
 
 天木直人氏のブログとNHKの記事を紹介します。
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日米貿易協定が署名できなくなった裏を読み解く
天木直人のブログ 2019-09-24
 NHKの早朝ニュースがスクープした通り、一夜明けてきょうの各紙が一斉に報じた。
 25日のトランプ・安倍会談で署名にする運びになっていた日米貿易協定が、今回は見送られることになったと。
 もちろん、それをごまかすための何らかの文書が作成され、署名されることになるらしい。しかし、それは日米貿易協定ではない。日米貿易協定の交渉はこれからもさらに続けられるのだ。
 
 いったん発表していきながら署名できなかったことは、前代未聞の異常な事態だ。
 政府は事前に日本のメディアに流し、メディアはそれを信じて報じた。今度の国連総会で日米貿易協定は署名されることになると。
 それが突如として、よりによって安倍首相訪米直前に覆ったのだ。日本にとって想定外のハプニングだったに違いない。
 なぜこんな異例なことが起きたのか。その原因は、ズバリ、なんでもありのトランプ大統領の一言にあったに違いない。
 
 いったいトランプ大統領はどう注文をつけたのか。これまでの報道を振り返って、私が今度のドタバタ劇の裏を読み解くとこうだ。
 そもそもなぜトランプが日本との二国間貿易協定を安倍首相に迫ったのか。それは、ズバリ、米国抜きのTPPが発効すれば米国がTPP加盟国との間で不利な扱いを受けるからだだったらTPPに加入しろという話だが、トランプにはそれは通用しない。
 その一方で、日本としては、TPPの加盟国との手前があるのでTPP以上の譲歩を米国と二国間でするわけにはいかない。そんなことをすればTPP加盟国が怒り出すからだ。
 メディアが頻繁に報じてきた、「日本が米国に譲れる最大限の水準はTPPで合意した水準だ」というのは、一方において農業などの国内産業向けの合言葉だが、他方においてTPP加盟国向けのメッセージでもあるのだ。
 
 しかし、この二つの要求、つまり米国第一のトランプの要求と、最大限でもTPP水準の譲歩しかできないという日本の立場を両立させるのは、至難の業だ。
 そこで茂木大臣とライトハィザー米通商代表との間で玉虫色の合意でごまかしてトランプ大統領と安倍首相に署名させようとした
 日米貿易協定自体は肝心なところを曖昧にし、本当の約束は政府間取り決めなどの密約で書き込もうとしたのだ。
 安倍首相は、そのようなシナリオを茂木大臣や官僚から聞いても驚かない。いつも使う手だからだ
 ところがトランプ大統領はそんな面倒なやり方は通じない。自分の支持者にわかりやすい成果を強調しなければいけない。
 そこで、ライトハイザーから聞かされた日米貿易協定案の書き直しを命じたのだ。
 いくらなんでも、署名直前にそんなことを言われても、茂木大臣もライトハイザー代表も、すぐには修正案はつくれない。ましてや合意までたどり着けない。
 だから今度の首脳会談では貿易協定案の署名は見送り、だからといって何も署名せずに物別れに終わったなら首脳会談は失敗になるから、これまで合意した内容の確認と今後の交渉の論点を整理した文書など、何らかの文書を急きょ作って、それに署名する格好をつけるのだ。
 その文書は、誰が見ても当たり前のような合意を書いた公表部分と、決して公表されない密約の部分が存在する。
 
 はたしてこの私の推論があたっているかどうか。私は25日の日米首脳会談後の記者会見に注目する。
 隠そうとする安倍首相と、なんでもしゃべってしまうトランプ大統領が、日米首脳会談の後の記者会見でどのような発言を一緒に、あるいは個別に、行うのか、けだし見ものである。メディアがどう質問し、どう解説するのか、けだし見ものである(了)
 
 
日米貿易協定閣僚協議 交渉すべて終了 首脳会談で確認へ
NHK NEWS WEB 2019年9月24日
日米の新たな貿易協定をめぐり、茂木外務大臣は、26日行われる首脳会談を前に、ライトハイザー通商代表との閣僚協議に臨みました。終了後、茂木大臣は、「きょうで交渉がすべて終わった。合意した内容は、首脳会談で確認したあと、速やかに発表したい」と述べました。
 
先月、事実上の大枠合意に達した日米の貿易交渉をめぐり、茂木外務大臣は、日本時間の26日行われる首脳会談を前に、日本時間の午前10時ごろから、訪問先のニューヨーク市内のホテルでライトハイザー通商代表との閣僚協議に臨み、協議は午前11時20分ごろに終了しました。
終了後、茂木大臣は記者団に対し、「きょうで交渉がすべて終わった。あさって、日米首脳会談でよいセレモニーができると思っている。合意した内容は、首脳会談で確認したあと、速やかに発表したい」と述べました。
そのうえで、茂木大臣は、協定への署名について、「膨大な作業を進めているところであり、今月末に協定への署名を目指すという目標からそんなに遅れていない。最終的には署名をして、それぞれが国内プロセスを経て早期に発効させることが大切であり、そういったプロセスから見れば極めて順調だ」と述べました。
 
新たな貿易協定で、日本政府は、アメリカが求める農産品の市場開放にTPP=環太平洋パートナーシップ協定の水準を超えない範囲で応じる方針で、牛肉は、現在38.5%の関税が最終的に9%に引き下げられるほか、主食用のコメは、TPPの交渉時に日本がアメリカに設定した年間7万トンの無関税の輸入枠を大幅に縮小し、撤廃することも含めて最終調整が行われました。
一方、工業品をめぐっては、日本が撤廃を求めている自動車の関税の扱いが継続協議となる見通しで、日本政府は、アメリカが日本車に追加関税や数量規制を発動しないことを文書で確認したい考えです。
茂木大臣は、自動車の関税の扱いについて、「心配するような内容にはならない」と述べました。
 
両政府は、26日の首脳会談で協定に署名することを目指してきましたが、作業が間に合わないため、両首脳が交渉の最終的な合意を書面で確認する方向です。
 
江藤農相「泊まり込む覚悟で交渉を把握」
      (後 略)