2019年9月22日日曜日

22- 政治を足元から変える「未来のための公共」の2年半

 政治や社会に対して草の根から議論し、声をあげる場を作ろうと2017年3月に結成された「未来のための公共」(未来公共)は、メンバーの進学や就職などを理由に今年の815日をもって活動に区切りをつけました。
 多分、多くの人たちには聞きなれない名前であると思いますが、その発想は「上から押し付けられる『公』ではなく、私たちの足もとから立ち上がる公共を」というもので、「私たちの『未来』を決定する政治のうえに、私たちから立ち上がる『公共』があっても良いのでは」という思いからといわれています。
 
 ごく普通のメンバーが集まってできた組織のようですが、末尾の活動記録で明らかなようにこの間、極めて旺盛な活動を行ってきました。
 それが「SEALDS」と同じような理由で解散になるのは残念ですが、学業と社会活動を両立させるのはやはり極めて困難なことと思われます。
 今後も、それぞれのタイミングと動機で、次々に新たな組織が生まれることを期待したいと思います。
 しんぶん赤旗が3回シリーズで取り上げました。その足跡は「輝ける金字塔」です。
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政治を足元から変える 未来公共の2年半(上)
声をあげるハードル下げる
 しんぶん赤旗 2019年9月19日
 政治や社会に対して草の根から議論し、声をあげる場をつくろうと2017年の3月に結成された「未来のための公共」(未来公共)は、メンバーの進学や就職などを理由に、今年の8月15日をもって活動に区切りをつけました。結成の経緯や、これまでの活動を振り返ります。(前田智也)
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 結成のきっかけは、2017年2月です。南スーダンに国連平和維持活動(PKO)で派遣された陸上自衛隊が、首都ジュバで大規模な「戦闘」が発生したと日報に書きました。しかし防衛省は、その日報を保管していたにもかかわらず「破棄」したと隠ぺい。国会でも、政府が「戦闘」を「衝突」とごまかしていたことが大きな問題になっていました。
 稲田朋美防衛相(当時)の辞任などを求めて、都内に住む会社員の日下部将之さんが2月から国会正門前で毎週金曜日に緊急抗議を呼びかけました。この抗議に参加していた10代から20代の若者、子育て世代などさまざまな人たちで結成されたのが、未来公共です。メンバーは、2015年の安保法制(戦争法)の運動に参加していた人も、そうではない人もいました。
 この名前には、「私たちの『未来』を決定する政治のうえに、私たちから立ち上がる『公共』があっても良いのでは」という思いを込めたといいます。
 最初に取り組んだ国会前抗議(2017年3月17日)では、中心メンバーの大学生、馬場ゆきのさんがスピーチしました。
 
「次は私の番」
 安倍政権によって安保法制が強行可決されたとき、「怒りと同時に、同世代をはじめ多くの人が主権者として各地で行動していたのに、私は何もすることができなかった。自分への後悔、さらに行動した人への尊敬の気持ちが生まれました」と訴え、「次は私の番です」と語りました。
 
 それから、「共謀罪」法案、「森友学園」問題などをテーマに国会前で抗議を継続。「若者憲法集会実行委員会」や「AEQUITAS」(エキタス)などとも協力して、東京の新宿や渋谷でデモや街宣も取り組みました。入管法の改正や、沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設などに反対する市民有志の緊急行動にもかかわりました。
 18年の4月14日には、「総がかり行動実行委員会」「未来のための公共」「Stand For Truth」の3団体で国会正門前抗議を呼びかけ、5万人が参加しました。
 「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)にも協力しながら、選挙にも積極的にかかわりました。先の参院選挙に向けても、野党統一候補勝利のために各地へ足を運びました。
 
 「政党には市民の要望を聞いてもらい、手をつなげるところはつないでほしい」(2月10日、福島・二本松市の集会で。馬場ゆきのさん)
 「安倍さんの政治を終わらせて、政治を私たちに取り戻しましょう」(6月16日、山梨・甲府駅前での街宣で。奈良みゆきさん)
 未来公共は、終戦記念日の8月15日に活動に区切りをつけるステートメントを発表しました。自由や平等、平和、民主主義の結晶である日本国憲法の支え手であることを決して諦めないとのべ、次のように結びました。
 
歩み止めない
 政治とは、大仰な言葉や勇ましいメッセージなどではなく、「あなたが隣に立っている、わたしたち自身の日々の身振りや生活のあり方、名前もない物語から始まります。未来のための公共は、本日をもって活動を終了しますが、言うまでもなく、その歩み自体を止めるわけではありません。これからも、上から押し付けられる『公』ではなく、私たちの足もとから立ち上がる公共を」。
 
言葉を壊すな 中山美幸さん
 まさか自分がデモを呼びかける側になるとは考えもしませんでした。安倍政権への怒りと危機感からいてもたってもいられなかった、というところが率直な動機です。あえていうなら、自分が行動することで、政治や社会に対して声をあげることのハードルを少しでも下げられたらいいなと思いました。
 デモや抗議では、よくコールを担当しました。「言葉を壊すな」というコールをしていたのですが、このフレーズには特別の思いを込めました。たとえば安倍政権は、南スーダンでの「戦闘」を「衝突」と言い換えました。言葉が壊れると、平和も壊れてしまう
 大学で、教員免許を取ろうと勉強しています。科目は国語です。教育実習へも行き、実際に授業をするなかで、言葉の大切さを感じています。「民主主義」についての授業もしたのですが、伝えるのはなかなか難しいですね。
 ネットで頻繁に、誹謗(ひぼう)中傷の言葉を投げつけられました。なかには「日本人ではない」などの言葉も。傷つきましたが、私はそうしたことを見過ごさずに立ち向かいました。普段の生活でも、ヘイトスピーチをする人がいればその場で指摘します。
 最近は、日韓問題に関心があります。将来は韓国で日本語教育に携わりたいとも考えているので、私自身も、しっかり歴史を学ばないといけないと思っています。嫌韓をあおる安倍政権を存続させていることに責任も感じます。一日も早く政権を変えたい。
 「応援しているよ」と声をかけられることが何度もありました。「あなたもやってよ」と言いたくなる時もありましたが、うれしかった。
 政治や社会におかしいと感じている人がいるなら、ぜひ行動してほしいです。
 
 
政治を足元から変える 未来公共の2年半(中)
しんぶん赤旗 2019年9月20日
 8月15日をもって活動に一区切りをつけた未来のための公共(未来公共)。メンバーの浅野恵実里さんと谷虹陽さんの2人に、これまで行動してきた思いを聞きました。
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声が未来をよりよく 浅野恵実里さん
 未来公共のデモに参加するまで、デモって年上の人ばかりが参加していて近寄りがたい印象でした。同年代が声をあげているなんて思いもしなかったので、大学1年生の時に国会前へ行ったらびっくりしました。
 少ししてから、メンバーとして活動するようになったのですが、最初は知識があるわけでもなかったし、参加するならまだしもデモを呼びかけるなんか絶対にできないと思っていました。
 でも、意外とできたんですよ。自分も含めて、行動するといろんな人が集まってくるので、みんなで力をあわせれば大丈夫です。私は、主にスピーチをしたり、サウンドカーやステージの飾り付けをしたりしていました。
 声をあげることを、難しく考えないことが大切だと思います。もし行動しようと考えている人がいるならば、できることをやればいいんだよって伝えたいです。
 いま就職活動で大忙しなのですが、ジャーナリズムに関心があるので、報道に携われないかと頑張っています。政治や社会問題はもちろん、多彩なテーマに関われる仕事ができたらなと思っています。
 今の日本は、堅苦しい社会だなと感じています。学生から社会人になるまでに、一つでもうまくいかないことがあればもうダメ、みたいな。おかしいですよね。誰もが好きなことをして、自分らしく生きたい。
 声をあげることは、よりよい未来をつくるために私たちができる大切な手段だと思います。これからも、私はできることだけをやっていきます。
 
デモが政治動かした 谷虹陽さん
 初めて参加したデモが未来公共の呼びかけた国会前抗議(2017年3月)でした。同世代の人がコールやスピーチをしている姿を見て、自分も何かしなければと感じて、何度か参加した後にメンバーになりました。
 当初は、今の政治に対して「何もしないよりかはましだ」という気持ちでした。行動するなかで、デモや抗議は思っていた以上に効果があると実感しました。ある問題を可視化することでメディアなどに取り上げられ、多くの人がその問題を知るきっかけになり、世論を受けて政治が動く。デモは大切です。
 慶応大学に通っていますが、慶応生が起こした性犯罪をきっかけに、大学側に対策を求める署名活動やシンポジウムを学内で開催しています。他大学の学生とも協力しながら、この問題には今後も取り組んでいきます。
 安倍政権が続くなかで、社会に閉塞(へいそく)感が広がっていると感じています。とりわけ女性、マイノリティー、特定の民族の人たちにそのしわ寄せがいっている。社会のさまざまな場面でこうした問題が起きていると思うので、そうした偏見や差別をなくしていきたいです。
 将来は研究者の道に進みたいと考えていて、これからは学問に専念しようと思っています。しばらくはデモに参加する頻度は減ってしまうかもしれませんが、政治や社会についてかかわらなくなるわけでは決してありません。
 大変なこともあったけれど、貴重な経験ができました。いつでも、誰でも始められるし、疲れたら休むこともできます。さまざまな人が、ぜひ声をあげてほしいです。
 
 
政治を足元から変える 未来公共の2年半(下)
しんぶん赤旗 2019年9月21日
 8月15日をもって活動に区切りをつけた未来のための公共(未来公共)。メンバーの奈良みゆきさんのインタビューと、およそ2年半の活動で取り組んできたデモや抗議を紹介します。
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同世代の訴えに刺激 奈良みゆきさん
 大学進学で、山梨から東京へ来た2015年、霞が関付近で道に迷ってしまい、気づいたら国会正門前の近くにいました。すると、ドラムの音とコールが聞こえてきたんです。SEALDs(シールズ)が呼びかけていた、安保法制(戦争法)に反対する抗議が行われていたと思います。
 同世代が政治について自分の言葉で語っていることに刺激を受けました。私自身も、法律や憲法について調べるようになり、そうした学習会やイベントに参加しているうちに、未来公共で活動するようになりました。
 選挙や集会などの活動で各地を回ることもあり、地元の山梨へ行く機会もありました。街頭宣伝やデモに参加し、先の参院選では野党統一候補の応援スピーチをすることができました。
 大学を卒業して、デイサービスの仕事をしています。毎日が忙しくて、世の中の動きを追い切れません。労働問題についても関心を持っていたのですが、実際に働くようになってこんなにも大変なのかと実感しています。
 政治や社会について、一度関心を持ったらずっと持ち続けられると思います。私の場合は本当に偶然だったのですが、みんなが社会について考えるきっかけを持てればと思います。
 安倍政権にいいたいことはきりがありません。あえていうならば、外国人労働者の問題です。私が働く介護職でも受け入れが始まりましたが、日本で安心して働ける環境が整えられているとはとても思えません。私たちの働き方の改善はもちろん、しっかりと外国人の権利を守ってほしい。これからも声をあげていきたいです。 (連載おわり)
 
「未来公共」のあゆみ
 
【2017年】 
3月17日 「森友・加計」学園問題などの徹底追及などを求める毎週金曜日の国会前抗議をスタート(6月15日まで継続)。
5月21日 東京・新宿。「若者憲法集会実行委員会」と協力した改憲反対などをテーマにしたデモ。
6月11日 東京・渋谷ハチ公前。「共謀罪」法案の廃案を求める緊急街頭宣伝。
  13日 国会正門前。「共謀罪」法案の廃案を求める緊急抗議。
  14日 国会正門前。「共謀罪」法案の廃案を求める緊急抗議。
7月9日 全国各地。安倍政権の退陣を求めるいっせい行動が取り組まれ、東京・新宿で行われたデモに梯団(ていだん)をつくり参加。
9月1日 弁護士団体、環境NGOなど14団体でつくる「共謀罪廃止のための連絡会」に参加。
 15日 東京・日比谷野音。「共謀罪廃止のための連絡会」が「共謀罪」法の廃止を求める集会。
 
【2018年】 
3月14日 首相官邸前。「安倍政権NO!実行委員会」と協力して、「森友疑惑」の真相究明を求める抗議。
  16日 首相官邸前。市民有志が呼びかけた「森友疑惑」の真相究明を求める抗議。
  25日 東京・新宿。Stand For Truthと協力して安倍内閣の総辞職を求める大街頭宣伝。
4月7日 東京・新宿。「共謀罪廃止のための連絡会」が呼びかけたデモに梯団をつくり参加。
 14日 国会正門前。総がかり行動実行委員会、Stand For Truthと共同して、内閣総辞職などを求める包囲行動を呼びかけ。
6月3日 東京・新宿。「若者憲法集会実行委員会」と協力した改憲反対などをテーマにしたデモ。
12月6日 国会正門前。市民有志が呼びかけた、臨時国会で安倍政権が行った日程ありきの拙速な審議や強行採決に対する緊急抗議に協力。
  7日 国会正門前。市民有志が呼びかけた、臨時国会で安倍政権が行った日程ありきの拙速な審議や強行採決に対する緊急抗議に協力。
 
【2019年】 
3月1日 首相官邸前。市民有志が呼びかけた、沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設の賛否を問う県民投票で示された民意を無視する安倍政権に対する抗議に協力。
5月3日 憲法記念日にあたってのステートメント(声明)を発表。メンバーの進学や就職などを理由に、参院選をもってSNS以外の活動に区切りをつけると表明。
6月9日 東京・原宿。「若者憲法集会実行委員会」と協力した改憲反対などをテーマにしたデモ。
 27日 東京・新宿。参院選へ向けて「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)がつくった選挙ガイドブックを配る緊急行動を呼びかけ。
8月15日 終戦記念日にあたってのステートメントを発表。この日をもって、活動に区切り。
 ※この他にも、市民連合をはじめさまざまな団体が主催する全国各地の街頭宣伝やイベントに、メンバーが参加しました。