2019年9月13日金曜日

際立つ“安倍政権という病理” 内閣改造は「断韓宣言」(日刊ゲンダイ)

 安倍政権は今度の内閣改造で何を目指すのでしょうか。「安定と挑戦の強力な布陣」などという空疎な言葉はおくとして、従来であれば一応は聞こえた「デフレ脱却」などという「空言」が消えたのは、もはや経済面でも完全に自信を失ったからなのでしょう。
 安倍首相が唯一 口にしたのは、国民からは全く聞こえてこない「改憲」でした。また口にはしなかったものの「断韓」の意志も明らかでそうした布陣になっています。
 そんな首相に対して与党内から全く批判が出ず、メディアからも出ません。ひたすら迎合するというあり方はまさに異常です。
 
 政治評論家・森田実氏は「狂気の内閣改造」と呼びました。
 日刊ゲンダイは「安倍政権という病理」と呼びました。
 いまやそうしたレベルに達しているといえます。
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際立つ“安倍政権という病理” 内閣改造は「断韓宣言」
日刊ゲンダイ 2019/09/11
「安定と挑戦の強力な布陣」――だという。
 第4次安倍再改造内閣の顔ぶれが固まった。11日午後に皇居での閣僚の認証式を経て、改造内閣が発足。安倍首相は今夕、記者会見して人事の狙いを説明する。
 それにしても、薄気味悪い布陣だ。2012年12月の第2次安倍内閣発足当時から続投する麻生副総理兼財務相と菅官房長官が留任し、それ以外は17閣僚すべてが交代。初入閣は13人で、総務相と厚労相には経験者が再任された。
 
 中でも注目すべきは、閣内の横滑りとなった外相と防衛相の人事だろう。
「駐日韓国大使に『無礼だ』と怒鳴りつけるなど、外務大臣として厳しい姿勢を取ってきた河野太郎氏を防衛相に起用したことは、この政権の体質を象徴しています。隣国に対する非礼が評価され、日韓関係をこじらせた張本人の河野氏が閣内に居座って、防衛相に横滑りする。もし防衛大臣が『無礼だ!』とやったら、軍事問題に発展しかねません。韓国にケンカを売って対立をつくり出し、ナショナリズムをあおって支持を集めるのが安倍首相の手法ですが、それに忠実に従う人々が閣僚の座を射止める。筆頭格が河野防衛相で、韓国を叩き潰してやると世界に向かって宣言するような狂気の内閣改造です」(政治評論家・森田実氏)
 安倍シンパや入閣待望組がこぞって韓国叩きで親分にアピールし、それに「愛いヤツ」とばかりに人事で応える病的な構造が背景にある。
 
 今回の改造では、首相補佐官や官房副長官として「右向け右」で安倍に仕えた側近も数多く入閣した。安倍カラー一色に染まった断韓内閣だ。8日のテレビ番組に出演した菅も、悪化する日韓関係は「すべて韓国に責任があると思っている」と踏み込んだ発言をしていた。
 驚くのは、党内ハト派で鳴らしてきた宏池会を率いる岸田政調会長までもが、韓国叩きに舵を切ったことだ。7日に宮崎市で行った講演で「国と国との約束、国際法、条約は守らなければならない。この基本だけは絶対に譲ってはならない」と韓国批判を展開した。 
 
韓国に対する「挑戦」で政権が「安定」 
 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「そうやって、安倍首相の価値観に合わせて、おもねることが自民党内の処世術になってしまっている。信念をねじ曲げても、外交関係をこじらせてでも、首相に気に入られることが重要なのでしょう。いい例が、当選4回で大臣に抜擢された小泉進次郎氏です。政権批判も辞さない姿勢で人気を集めていた姿はナリを潜め、結婚報告で首相に媚を売って軍門に下った。ゴマをスッて尻尾を振れば報われるということを示しました。独裁者の顔色をうかがい、進んで同調する異様な空気が自民党内に蔓延している。だから、猫も杓子も韓国叩きに走っている。安倍首相は外交失策をゴマカすためにも、今まで以上に嫌韓ムードをあおろうとするでしょう。河野氏を防衛相に就けるのも、韓国に挑戦状を叩きつけたようなものです。政権の安定のために側近を使って韓国への強硬姿勢を維持し、世論を挑発する。そういう意味での『安定と挑戦』なのでしょう」
 危ういのは、独裁者の機嫌をうかがう忖度の毒が、自民党だけでなくメディアにも回っていることだ。テレビは国内の問題そっちのけで韓国叩きに精を出し、それに乗っかる世論もまた嫌韓ムードに染まっていく。
 冷静な目で見れば、安倍政権では外交失策が続き、強気に出られるのは対韓国しかないというだけの話なのだ。政権の目くらましに国を挙げて協力している現状は、滑稽ですらある。
 
 安倍が「最優先課題」と言い続けるだけの拉致問題は、解決の糸口も見えない。北朝鮮は10日も、日韓対立をせせら笑うかのように「飛翔体」を2発ブッ放した。
 北方領土問題も安倍政権ですっかり後退してしまった。5日にロシアのウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」で、安倍はプーチン大統領と27回目の首脳会談に臨み、「ウラジーミル、君と僕は、同じ未来を見ている。ゴールまで、2人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けよう」と安っぽい“ポエム演説”を披露したが、プーチンの失笑を買っただけで、てんで相手にされなかった。
 米国のトランプ大統領には余剰トウモロコシ250万トンを押し付けられ、言われるがままに国益を差し出した茂木経済再生相が、「タフネゴシエーター」などと持ち上げられて、論功行賞で念願の外相に就任する倒錯。おぞましい価値観に染まった改造内閣の暴走は、もう止まりそうにない。
 
「愛国主義は不埒なやつらの最後の隠れ家」 
 こんな世相で、政権批判をしようものなら、韓国の回し者扱いされて、「反日だ!」と袋叩きにされてしまう。安倍政権=日本なのか? いつから、安倍サマが日本国そのものになったのだ。国を愛すればこそ、政府がおかしなことをしていれば批判する。そんな当然のことさえはばかられる世の中になったことに、病理を感じずにはいられない
「愛国主義は不埒なやつらの最後の隠れ家」と言ったのは、18世紀英国の大文学者であるサミュエル・ジョンソンだが、他国を非難し、自国政府に従順であることが愛国ではないはずだ。
 今回の改造では、政権のデタラメに対し、折につけて物申してきた石破派からの入閣はゼロだった。安倍シンパから見れば、石破元幹事長も「反日」なのだろう。
 韓国との「断交論」や「放置論」が台頭していることについて、元外務審議官の田中均氏は「暴論でしかない」と、発売中の「世界」(10月号)でこう指摘している。
<隣国であり、民主主義という価値観を共有する韓国とのパートナーシップは重要です。韓国を切り捨てて、日本がアジア地域で安定を得られるということは考えられません
<BBCやCNNなどの報道を見ていても、今回の問題で日韓とも国際的な信頼を大きく下げてしまっています。二国間の問題を当事者で解決できない。特に大国である日本が問題解決を主導しなければならないのに、その力をもてていない、といった見方がされています>
<安倍一強体制の中で、外務省が、どれだけ現在の外交政策に参画できているのかはわかりませんが、表面的には、きちんとした外交判断がなされている節が見られません。「韓国にどう対抗するか」といったナショナリスティックな姿勢ばかりが目につきます。そうした姿勢で外交を進めていくのはきわめて危険です>
 
 前出の森田実氏もこう言う。
「トランプファーストで米国に追従する安倍首相、そして安倍ファーストで韓国叩きをアピールする新閣僚たち。歯止めのないオール安倍化内閣で改憲に踏み出し、戦後の平和主義をかなぐり捨てようとしているようにしか見えません」
“断韓改造”の先には何があるのか。国際社会も愛想を尽かす軽佻浮薄な韓国叩きに、国ごと流されている場合ではない。