2019年9月27日金曜日

米農産物7800億円に日本市場開放 日本車関税は当面現行通り

 安倍首相は26日未明(日本時間)の日米首脳会談後の会見で、「ウイン ウイン」の関係でまとまったかのように述べましたが、その実態は約7800億円分の米国産農産物に対する関税を撤廃・削減し、日本の市場を開放するというものでした。
 TPP11で結ばれた牛肉の緊急輸入制限(セーフガード)の発動基準60万トンに、新に米国分の最大29万トンが加算されることになりました。発動基準が一挙に5割アップしたわけで日本の畜産農家にとっては大打撃です。
 トランプ氏「米国の農家と牧場にとって大きな勝利だ」と強調したとおりです。
 
 日本車への追加関税等は声明に「協定が誠実に履行されている間は協定や声明の精神に反する行動を取らない」と明記されたので大丈夫という説明ですが、それは逆で「誠実に履行されていない」と米国が判断すればいつでもご破算になります。日本車の輸出に数量規制を課さないとの言質をライトハイザー米通商代表から得たから安心、いう説明の信憑性も似たようなものです。
 
 さらに17年9月の日米首脳会談で、合意されたのは「TAG(物品貿易協定)でありFTA(貿易協定)ではない」と、政府はさかんに強調していましたが、やはり大嘘であったことも明らかになりました、声明には貿易協定が発効してから4カ月以内に今後の貿易交渉で扱うテーマを決めることも盛り込まれました。これではいずれ米韓FTAの悲劇の二の舞を演じることになります。
 
 東京新聞と日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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米農産物7800億円に市場開放 日米署名 日本車関税残る
東京新聞 2019年9月26日
【ニューヨーク=新開浩、白石亘】安倍晋三首相は二十五日午後(日本時間二十六日未明)、トランプ米大統領とニューヨークで会談し、日米貿易交渉の最終合意を確認し、共同声明に署名した。米通商代表部(USTR)によると、日本は約七十二億ドル(約七千八百億円)分の米国産農産物に対する関税を撤廃・削減し、市場を開放する。米国産コメの無関税枠は設けない。米国に輸出する日本車と部品への関税は撤廃対象から外した。両国は来年一月の協定発効を目指し、国内手続きに入る。
 
 首相は署名式で「両国の国民に利益をもたらす合意になった」と語った。トランプ氏は「米国の農家と牧場にとって大きな勝利だ」と強調した。
 日本は米国の農産品に対し、牛肉や豚肉、乳製品の一部、ワインなどで、環太平洋連携協定(TPP)と同じ水準まで関税の削減や撤廃に応じる。関税引き下げの時期は先行して関税削減が進むTPPに合わせる。米国産コメの輸入についてはTPPで設けた七万トンの無関税枠をなくし、国内農家の保護を強める。
 日本政府は、TPPで撤廃を決めていた日本の自動車と同部品の輸出関税について「さらなる交渉による関税撤廃」を目指す方針だが、具体的な時期には言及していない
 共同声明は、米国による日本車への追加関税を念頭に「協定が誠実に履行されている間は協定や声明の精神に反する行動を取らない」と明記した。首相は会談後の記者会見で、トランプ氏から日本車に追加関税を課さないことを口頭で確認したと明らかにした。茂木敏充外相はライトハイザー米通商代表から日本車の輸出に数量規制を課さないとの言質を得たと述べた。
 
 両政府は近く正式な協定文書をまとめる。日本政府は十月四日召集の臨時国会に協定案を提出し、承認を得る方針。ライトハイザー氏は協定は来年一月に発効するとの見通しを示した。
 声明には貿易協定が発効してから四カ月以内に今後の貿易交渉で扱うテーマを決めることも盛り込んだ。日本は自動車関税の撤廃を取り上げる方針。米産業界には「包括的な貿易協定」を求める声がある。
 
 
日米貿易協定 トランプ流の圧力に譲歩
東京新聞 2019年9月26日
<解説> 日米貿易協定は、米国離脱前のTPPで合意していた日本車や自動車部品の関税撤廃を見送り、米国の主要な農産物の関税をただちにTPP並みに下げる片務的な内容になった。日本の基幹産業である自動車へ25%の追加関税をかけるという米側の脅しが効果的に働いた結果となり、自由貿易体制に与える悪影響も大きい。
 
 米側が持ち出す追加関税は、「他国からの自動車の輸入が増えれば米企業が弱体化し、安全保障上の脅威となる」という理屈に基づく。議会の承認が不要で大統領権限で発動できる。
 今年一月発効の米韓新自由貿易協定(FTA)の交渉の際にも、米国は同じ理屈で鉄鋼・アルミ製品に追加関税をかけると脅し、有利に妥結させた。米国の貿易赤字の解消を第一に掲げ、保護主義的傾向を強めるトランプ米大統領の「得意技」で、日本は同じ手法に防戦を余儀なくされた。
 米国から実際に鉄鋼・アルミに追加関税をかけられた欧州連合(EU)やカナダ、中国などがそろって世界貿易機関(WTO)へ提訴したように、米国のこのやり方は自由貿易の基本ルールに反する疑いが濃い。
 
 日本側は追加関税を課さない確約を米側から得たことを「成果」とするが、実態は逆である。全体の利益を重視する多国間交渉ならば通用しない理屈を、政治力が物を言う二国間交渉に持ち込んで交渉カードにする。そうしたトランプ流外交が有効であることを、「自由貿易の旗手」(安倍晋三首相)を自任する日本が示してしまった格好だ。
 トランプ氏は「包括的な合意に向けて交渉を続ける」と意欲を見せる。自由貿易軽視の姿勢を隠さないトランプ氏とどう向き合うか、日本の対応を国際社会が注視している。 (皆川剛)
 
 
日米貿易協定「TPP枠内」「自動車追加関税回避」の大ウソ
日刊ゲンダイ 2019/09/26
 日米両政府は日本時間26日未明、首脳間で最終合意した貿易協定の内容を発表した。安倍首相はトランプ大統領と並んだ記者会見で、「日米双方にメリットのあるウィンウィンの協定だ」とドヤ顔だったが、実際は日本にとって不利益が大きい内容だ。
 
 NHKは安倍首相がニューヨークで開いた内外記者会見を朝から生中継し、「日本の消費者にメリットが大きい」と解説したが、日本にとってはデメリットも大きい
 米国の離脱後に11カ国が署名したTPPでは牛肉の緊急輸入制限(セーフガード)の発動基準は現在60万1800トンで、これは米国からの輸入分も含めた量だ。しかし、今回の協定ではこれとは別に、米国だけで初年度24万2000トンの事実上の低関税輸入枠を設定。将来的には29万3000トンまで拡大する。それだけ低い関税で輸入される牛肉が多くなり、日本の畜産農家にとっては大打撃だ。
 また、NHKは「米国の自動車関税(2・5%)の撤廃はできなかったものの、日本車への追加関税は避けられた」と伝えた。しかし、合意文書には「協定が誠実に履行されている間は、追加関税を課さない」とあり、米側の意向次第で追加関税が課せられる余地を残している。
 安倍首相はまたもトランプに、大きな貢ぎ物を差し出したのだ。