東京弁護士会(会長)が8月29日、「『表現の不自由展・その後』展示中止を受け、表現の自由に対する攻撃に抗議し、表現の自由の価値を確認する声明」を出しました。
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「表現の不自由展・その後」展示中止を受け、表現の自由に対する攻撃に抗議し、表現の自由の価値を確認する会長声明
2019年08月29日
東京弁護士会 会長 篠塚 力
1 本年8月1日から10月14日までの予定で愛知県で開催されている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が、開始からわずか2日後の8月3日に中止された。
この企画展は、従軍慰安婦を象徴する「平和の少女像」や昭和天皇の写真を含む肖像群が燃える映像作品など、過去に展示を拒否されたり公開中止になったりした作品を展示したものであった。
これらの作品は、観る人によって、好悪さまざまな感情を抱くものであろう。人それぞれの受け止め方があることは当然のことながら、異論反論その他主張したいことがあれば、合法的な表現行為によって対抗するのが法治国家であり民主主義社会である。
2 ところが、実行委員会会長である大村秀章愛知県知事の会見等における説明によると、実行委員会事務局や県庁に対して、「ガソリン携行缶を持ってお邪魔します」「県庁等にサリンとガソリンをまき散らす」「県内の小中学校、高校、保育園、幼稚園にガソリンを散布し着火する」「県庁職員らを射殺する」などのテロ予告と言える電話やFAX、メールが殺到したとのことである。
このようにテロを予告して展示中止を求める行為は、脅迫罪や威力業務妨害罪などに該当する犯罪である。自己の思想信条と相容れない表現活動を、正当な言論によらず、犯罪行為をもって抑え込もうとすることは、決して許されることではない。
大村知事は展示中止の理由として、「芸術祭全体の円滑な運営、安心安全」を挙げた。卑劣な犯罪予告に対しては、警察の力を借りて毅然とした対応をとるべきという理想論はあるものの、芸術祭及び県政の責任者として、来場者や職員の生命身体の安全に配慮する責任がある立場から、大村知事が展示中止の選択をせざるを得なかった事情は十分に理解する。
とはいえ、表現行為が脅迫に屈するという悪しき前例が模倣犯を生まないよう、警察による徹底した捜査がなされることを要望し、警備体制を見直した上で展示が再開されることを期待する。
3 一方、河村たかし名古屋市長は、展示中止発表前日の8月2日、「日本国民の心を踏みにじる行為」などと述べて、大村知事に対し、展示中止を含む適切な対応を求める抗議文を提出した。しかし、公権力が、表現内容に異議を述べてその中止を求めることは、表現活動に多大な萎縮効果をもたらすものであり、到底許されるものではない。
この点、補助金を支出していることから、公権力が介入することを肯定する意見がある。しかし、補助金の支出が特定の団体に有利になされるようなことがあれば格別、予め設定された基準や要件を満たしたとして支出された以上、個々の展示内容の選択については、専門家から成る実行委員会で決めるべきことであり、展示内容に対して、補助金の支出を根拠として公権力が中止を要求することは、まさに不当な政治介入と言うべきである。
4 憲法21条で保障される表現の自由は、自己の人格を形成・発展させる自己実現の価値を有するとともに、国民が政治的意思決定に関与する自己統治の価値をも有する、極めて重要な基本的人権である。政治的表現が芸術という形をとって行われることも多く、芸術を含む多種多様な表現活動の自由が保障されることは、民主主義社会にとって必要不可欠である。
我々は、思想信条のいかんを問わず、表現の自由が保障される社会を守っていくことが重要であるという価値観を共有したい。
よって、当会は、正当な言論等によらずに展示中止を求める不当な行為や、公権力が表現内容に異議を述べてその中止を求めることに対して、強く抗議するとともに、多種多様な表現活動の自由が保障され、ひいては民主主義社会が維持・発展するよう努力する決意を表明する。