24日付の下記記事の続報です。
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新版『資本論』刊行記念講演会
今なぜ新版『資本論』を学ぶのか 萩原伸次郎 横浜国立大学名誉教授
新しい条件生かした新版の魅力 山口富男 日本共産党社会科学研究所副所長
しんぶん赤旗 2019年9月24日
20日、東京都内で開かれた新版『資本論』刊行記念講演会で萩原伸次郎・横浜国立大学名誉教授と山口富男・日本共産党社会科学研究所副所長が述べた話を紹介します。
今なぜ新版『資本論』を学ぶのか
萩原伸次郎 横浜国立大学名誉教授
萩原氏は、現代経済史、米国の経済政策を専門としてきたことを踏まえ、「21世紀の今、なぜ新版『資本論』を学ぶのか」と問いかけ、「21世紀の世界の経済を理解するには『資本論』を学ばないと、本質と動きを的確に把握することができない」と述べました。
「『資本論』はもう古い」と言われ、ソ連崩壊以後は「現実に通用しない」というキャンペーンが行われました。「けれども現実の経済をながめると『資本論』を再度、新たな観点で学ばなければならないことを教える30年間だった」と指摘しました。
第2次世界大戦後の資本主義システムが本家の米国から崩れる動きが出てきました。21世紀にかけて米国を基軸に新自由主義が展開され、多国籍企業の支配が世界を覆うようになりました。萩原氏は、リーマン・ショックを利用して金融業者が国民から膨大な金を奪う姿も『資本論』の叙述そのもので、「金融危機の本質は『資本論』を読まないとわからない」と強調しました。
「なぜ新版でなければならないか」については恐慌論と未来社会論を挙げました。
恐慌に関しては「商人資本の介在」というエンゲルスが見落とした点が新版に盛り込まれました。マルクスの研究過程がわかるように編集され、恐慌研究のマルクスの苦闘をリアルに感じることができると言います。
未来社会については、かつて横浜国立大学の故佐藤金三郎教授から「社会主義・共産主義のキーワードは自由な時間だ」と言われたことを紹介しました。新版ではエンゲルスの編集を組み替え、マルクスが未来社会の基本とした「自由な時間」の叙述を本来のものに戻しました。萩原氏は「画期的な事業をした」とし、新版の意義を強調しました。
新しい条件生かした新版の魅力
山口富男 日本共産党社会科学研究所副所長
山口氏は「新版『資本論』の特徴と魅力」について話しました。
新版にはこの30年間に発展した新しい研究条件が生かされていると山口氏は語りました。一つは、新しい『マルクス・エンゲルス全集』(『新メガ』)の刊行が進み、『資本論』の全草稿が読めるようになったこと。もう一つは『資本論』に引用された公的報告書などがインターネットやマイクロフィルムで直接読めるようになったことです。
訳文は新書版に続き平易で明快なものをめざしました。マルクスが引用した文献もできる限り原典に当たり直し、訳文や数字を改訂しました。新しい訳注では著作構成の変化、恐慌論、再生産表式論、未来社会論などでマルクス自身の研究の発展と到達点を重視しました。エンゲルスの編集上の問題点を検討し、訳注を充実させ、必要な場合、マルクスの草稿を訳出しました。
その上で山口氏は各部の改訂の特徴を挙げました。第一部ではマルクスによる改訂を重視し、価値形態論の書き直しの経過は訳注で説明しました。マルクスの原注が初版以降、第4版までどの版で付けられたかもわかるようにし、自著に磨きをかけたマルクスの足跡がつかみやすくなりました。
第二部では、エンゲルスが草稿に付け加えた文章や注、誤読について訳注で詳しく指摘しました。マルクスが残した八つの草稿とそれが第2部でどう利用されたかについては、最近の研究による情報を示し、恐慌論では関連するマルクスの草稿を訳出しました。
第三部では、古い理論的命題―利潤率の傾向的低下を資本主義没落の動因とする立場―の残る第3篇と、後で執筆され、マルクスがこの立場を乗り越えた第4篇を分冊上も分けました。第48章「三位一体的定式」ではマルクスの草稿通り、未来社会を論じた部分を冒頭に置きました。
山口氏は700人を超える人名索引の充実ぶりも紹介し、新版の普及を呼びかけました。