9月26日(日本時間)、ニューヨークで開かれた日米首脳会談で、安倍首相がかねて高言していた日米TAG(物品貿易協定)協定ならぬ、日米FTA協定についての共同声明に署名しました。
安倍首相は「ウィンウィン」などという空言を弄していましたが。実態はそんなものではありません。
植草一秀氏は、160年前の鎖国時代に結ばされた「日米修好通商条約」以来の不平等条約であると述べました。
日米修好通商条約は無知で無力であった日本が米国にから強引に結ばされた不平等条約で、それを対等なものに近づけるために以後日本(明治政府)は大変な努力を払いました。
日米修好通商条約は無知で無力であった日本が米国にから強引に結ばされた不平等条約で、それを対等なものに近づけるために以後日本(明治政府)は大変な努力を払いました。
また元外交官の天木直人氏は、今度の日米貿易協定は令和の日米安保条約であると述べました。
旧安保条約は1951年に日米サンフランシスコ条約を締結した際に、(同日)委細構わず(=有無を言わせず)署名させられたもので、それによって日本は実質的に米国の占領下状態が固定されました。
要するに両氏は、今回の協定はそれほどに酷いものであると述べているのです。
二人のブログを紹介します。
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米国にすべてを奪われた日米FTA協定合意案
植草一秀の「知られざる真実」2019年9月27日
安倍首相とトランプ米大統領が9月25日午後(現地時間)、米国のニューヨークで開かれた首脳会談で、日米FTA協定についての共同声明に署名した。
合意文書の署名はできなかった。合意文書の署名は10月上旬に先送りされる予定だ。
安倍内閣は10月4日招集の臨時国会に日米FTA協定案を提出予定。臨時国会での承認を得る方針だ。
安倍首相は「両国の消費者あるいは生産者、勤労者全ての国民に利益をもたらす、両国にとってウィンウィンの合意となった」と話したが、「ウィンウィン」という言葉の意味を知らないようだ。
牛肉などの米国産農産物への関税はTPP水準に引き下げられる。
しかし、日本が米国に輸出する自動車などの関税撤廃は見送られた。
そもそも、安倍内閣はTPP交渉への参加を米国に認めてもらうために、法外な譲歩を示した。TPP参加で日本が唯一得ることができるメリットが自動車輸出の関税撤廃だった。
現在、普通自動車には2・5%、売れ筋のSUV等の大型車には25%の関税がかけられている。この関税を撤廃させることがなければ、日本は海外生産者に日本市場を開放するだけになる。
米国にとって自動車産業が重要なのと同様に、日本にとっては農林水産業が重要だ。
日本の主権者の利益を考える対外交渉をするなら、仮に農産物輸入の関税を引き下げるなら、自動車輸出の関税を引き下げることを要求するのが当然のことだ。
米国が自動車関税を「聖域」として温存するなら、日本は農産品重要5品目の関税を「聖域」として守って当然だ。
ところが、TPP交渉に参加することを認めてもらう際に、普通自動車については14年間、SUVについては29年間、関税率を一切引き下げないことを日本政府が受け入れた。
TPP交渉が売国交渉であることは、この点を見れば一目瞭然だ。
「ハゲタカのハゲタカによるハゲタカのための条約」がTPPの正体だった。
安倍内閣はハゲタカの利益を極大化するためにTPP交渉への参加を強行した。
2012年12月の総選挙の際に、「ウソつかない!TPP断固反対!ブレない!日本を耕す自民党!!」と大書きしたポスターを貼りめぐらせて選挙を戦った安倍自民党が主権者との約束を踏みにじって国益放棄の売国TPPに突き進んでいった。
それでも、このときの決定は、普通自動車は25年目に、SUV等は30年目に、関税を撤廃することとされた。
また、TPP協議で、自動車部品については、8割以上の品目で即時に関税が撤廃されることになった。
売国協定ではあるが、遠い将来には日本から米国への自動車輸出に対する関税が撤廃されることが確定した。その後、米国はTPPから離脱した。
安倍首相は、米国を含むTPPの最終合意を完全に確定するために早期批准が必要だと訴えて、2016年末に国会でのTPP批准を強行した。
米国でトランプ政権が発足すれば、米国がTPPから離脱する可能性が限りなく高かった。
「安倍首相はTPP最終合意の見直しは行わない。米国が離脱したら、米国をTPPに回帰させる。」と国会で繰り返し明言した。
実際に、米国はTPPから離脱した。すると、安倍内閣は米国のTPPへの回帰を求めず、TPP最終合意の改変に突き進んだ。何もかもがこのありさまなのだ。
そのTPP改変を強引に推し進めたのが安倍内閣である。
牛肉のセーフガード発動の基準は、米国を含む数量で定められていたから、米国が離脱した以上、米国相当分を圧縮する必要があった。
各国が自国の損失を回避するために細目の変更を行ったなかで、日本だけが細目の見直しを行わずにTPP改変を強行した。
今回の日米FTAでは、自動車関税の撤廃が消えた。
安倍内閣は制裁関税発動の可能性が言葉の細工で限定されように見せかけられることをもってウィンウィンと強弁しているのかも知れないが、実態は“Winner-takes-all”(勝者の総取り)でしかない。
その制裁関税についてすら、米国のライトハイザー通商代表は9月25日、「現時点では大統領も232条で日本に何かすることはまったく意図していない」と説明し、将来にわたり発動しないとは確約していないのだ。
日米FTAは1858年の日米修好通商条約以来の不平等条約である。
(以下は有料ブログのため非公開)
日米貿易協定は令和の日米安保条約である
天木直人のブログ 2019-09-27
一夜明けて日米貿易協定の合意に至る解説記事を読み比べ、つくづく思った。
日米貿易協定は令和の日米安保条約であると。合意に至るまでのプロセスが何もわからないまま署名させらた。そしてその内容は明らかに不平等だ。
それでも初めに合意ありきだった。決裂は許されなかったのだ。
こう考えた時、まさしく日米貿易協定はあの日米安保条約とそっくりであることがわかる。
実際のところ、日本が米国と初めて締結する二国間自由貿易協定だ。そして、トランプにとっても、議会の承認を得る必要がないという意味で、北米(メキシコ・カナダ)や韓国との自由貿易協定に先行する、はじめての、選挙民向けに自慢できる、自由貿易協定になる。
中国との貿易交渉がうまくいかない中で、対照的な勝利だ。文字通りトランプにとってのウィンだ。
それでは、日本にとってのウィンは何か。日本経済の根幹は農業と自動車である。
そして農業の中心は米(コメ)だ。農家の票を失いたくないから、いかなる政権も米作だけは最後まで守ろうとする。
ところが、米国米の主要生産地はカリフォルニア州であり、トランプの関心は米作にはなかった。トランプの関心は米国牛の日本への輸出だ。
米国牛で譲歩することは、米に比べればたやすい。譲歩ははやばやと決まってた。
それに比べ自動車・自動車部品の追加関税・数量規制は打撃が大きい。これさえ回避できれば安倍首相のいうところの日本側のウィンだ。しかし、これが難航した。
日米貿易協定の本文の中でそれを書き込むことはもちろん米国は応じない。交渉が長引いた最大の理由はそこにあった。
しかしトランプ大統領は早く貿易協定をまとめて成果を選挙民に示したい。日本側もトランプの要求がもっと激しくならないうちにまとめたい。そこで両者の利害が一致したのが「交渉継続」という現状維持だ。
関税を下げさせられなかっのだからウィンではない。
それではあまりにも成果がないということで、追加関税や数量規制は行わないという確認事項を共同声明に明記し、それを仰々しく署名した。最悪の事態を回避しただけなのに、あたかも成果の如く宣伝した。しかもそれは気休めだ。同床異夢だ。
トランプは、対日赤字や国内産業保護を理由に、いつでも追加関税や数量規制を持ち出すことができる。
しかし、少なくとも貿易協定の合意した時点では最悪の事態は回避できた。それが日本側のウィンであり、それで大成功なのだ。
きょうの朝日によると、正式な日米貿易協定は10月上旬に署名されるという。その後に国会に提出されるのだ。その時点ではじめて日米貿易協定の全貌が明らかになる。
野党はどこがウィン・ウィンなのか、譲歩し過ぎだ、と追及すると報じられている。
しかし、安倍政権は聞く耳を持たない。トランプの都合に合わせて、来年1月1日に発効させなくてはいけないから12月までに国会承認を行うつもりだ。野党もメディアもそれを知っている。
そして、どんなに不都合な日米貿易協定であっても、それを反故にすることは野党には出来ない。だから野党は本気で反対する気はない。日米関係をぶち壊すようでは政権は取れないからだ。
またひとつ、日米貿易協定という不平等な、そして日米経済関係を左右する条約が日米間に成立したということである(了)