第2次安倍内閣が発足した2012年以降、特定秘密保護法を皮切りに、戦争法(新安保法)、共謀罪法などの一連の反動立法が矢継ぎ早に成立しました。どの法案も、国会審議では野党の質問に答えられず、法案の正当性も必要性も確認されないまま、いずれも与党による強行採決で成立しました。労働基準法・労働法の改悪もそうでした。
関係閣僚の答弁はどれもお粗末でしたが、特に安倍首相の答弁は酷く、延々と的外れな答弁を繰り返し質問時間を空費させる戦法に終始しました。恥も外聞もないその態度は「的外れだという自覚もないのでは?」と思わせました。本人の中で混然としていたというのが実態なのでしょう。
首相自身が関わった「モリカケ問題」への対応も実に酷いものでした。安倍首相はひたすら白を切り通し、官僚はそれと口裏を合わせただけでなく、関係する全ての書類を隠蔽・改ざん・捏造して辻褄を合わせることまでしました。まさに空前のデタラメ・「無法政治」が行われたわけで、これ以上のモラルハザードはありません。
性犯罪の捜査に対する官邸の介入もありました。(「息をするようにウソを吐く」といわれている首相の虚言壁についてはここでは措くことにします)
政治の劣化に伴ってメディアも大いに劣化し、いまや「社会の木鐸」は完全な死語となりました。
社会も徹底的に退廃しました。日本郵便の「かんぽ生命」不正販売、会社トップの不正報酬の横行、児童の虐待死、あおり運転、その他数々の暴力沙汰、等々、かつては殆どなかったことでした。
コラムニストの小田嶋隆氏は、「2012年を境に日本社会は変容した。社会の構造的な劣化がいよいよ覆い隠せなくなって一気に表面化した」安倍政治で行われたものは「モラルぶっ壊し政治。改ざん、隠蔽。平気でごまかし、嘘をつく。『総理のご意向』の忖度強要で官僚機構のモラルは崩れ、今や機能不全」に陥っているとしています。
政治評論家の森田実氏は、「競争第一、弱肉強食の『新自由主義』がはびこりだしてから、この国はおかしくなってしまった。新自由主義に潜むのは『今だけカネだけ自分だけ』の考え。コスト重視で賃金を減らし、大衆からの収奪しか考えていません。『貧すれば鈍する』で、生活が苦しくなれば精神もすさんでいく。加えて戦争を知らない政治家ばかりとなり、隣国に対する過去の反省や責任も放り出しています」と述べています。
日刊ゲンダイの記事「劣化が止まらない日本 安倍政権6年半の“なれの果て”」を紹介します
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巻頭特集
劣化が止まらない日本 安倍政権6年半の「なれの果て」
日刊ゲンダイ 2019/09/15
上から下まで総腐敗
いつから、日本はこんな国になってしまったのか。
時代が令和に変わって以降、日本社会の理性とモラルを疑うような事件が相次いでいる。
例えば、詐欺的手法が次々と明るみに出た日本郵便の「かんぽ生命」不正販売。ターゲットは主に地方の高齢者で、詐欺的手法を担ったのは、高齢者に身近な郵便局員たちだった。
「郵便局」という地方で圧倒的な信頼を持つ肩書を悪用し、営業成績維持のため、組織ぐるみで数字をカサ上げ。契約を取りやすい独居老人を「ゆるキャラ」「半ぼけ」「甘い客」と陰で呼び、ひとりに数十件も契約させるなど、特殊詐欺グループも真っ青の悪質さ。
日本郵便はかんぽ販売のノルマを廃止するというが、問題の本質は「過剰なノルマ」だけでは片づけられない。底流にあるのは、理性とモラルを喪失した日本社会の劣化ではないのか。
報酬不正で日産を追われた西川広人社長も同類だ。検察とタッグを組んだ報酬不正事件でゴーン前会長を追い出しながら、自らも業績連動型報酬の権利行使日をズラし、4000万円超を不正に受け取る犯罪的チョロマカシ。こんなトップが企業統治改革の旗を振っていたとは、冗談にも程がある。
日産のほかにも、神戸製鋼、東芝、三菱マテリアル……と日本を代表する大企業が、ドミノ倒しのように「不正」や「改ざん」に手を染める。最近も日立製作所が外国人実習生に計画外作業を指示して、業務改善命令をくらったばかり。同社の中西宏明会長は経団連のトップだ。企業の模範となるべき立場すら守れない倫理観の逸脱。「公正」「正直」「勤勉」という日本人の美徳は、とうに死語と化している。
ここ数年、児童の虐待死のニュースは後を絶たず、「最低限の責任」すら果たせない親が増えている。ちょっとしたことでキレる大人も増え、厳罰化が求められるほど、あおり運転が社会問題化。鉄道各社が啓発ポスターを掲出せざるを得ないのも、駅員への暴力沙汰が数多く発生している証拠だ。
言うまでもない常識がもはや通用しないほど、この国は堕落してしまったのである。
美徳破壊の政権が生み落とした卑怯な社会
「日本社会の構造的な劣化が、いよいよ覆い隠せなくなって一気に表面化した印象です」と言うのはコラムニストの小田嶋隆氏だ。こう続ける。
「私は2012年を境に日本社会は変容したと感じています。リーマン・ショックからの長引く不況と、3・11の一撃を経たタイミングで誕生したのが、第2次安倍内閣でした。粛々と日本を立て直すことを期待したのに、結果はモラルぶっ壊し政治。改ざん、隠蔽は当たり前で、平気でごまかし、嘘をつく。『総理のご意向』の忖度強要で官僚機構のモラルは崩れ、今や機能不全に陥っています。
強行採決の連発で民主的手続きを無視し、集団的自衛権容認の解釈改憲で憲法をタテマエ化。この春から予算委員会の開催すら拒み続けているのです。日本社会の寛容性が失われていく中、率先して『公正』『正直』『勤勉』という美徳を破壊。こんな政治が許されるなら、正直者はバカを見るだけとなり、卑怯な社会に拍車がかかるのは当然の帰結です」
落ちるところまで落ちた政界劣化の象徴が、「日本人の知性の底が抜けてしまった」と文筆家の古谷経衡氏が喝破したN国の出現だ。同党所属の丸山穂高議員は竹島を巡り「戦争で取り返すしかないんじゃないですか?」と自身のツイッターに投稿。昭和の時代なら、こんな暴言を吐いた時点で即刻、議員の職を失ったものだ。そうならないのが、政治の劣化とメディアの堕落を物語る。
今やメディアは「関係悪化の全責任は韓国にある」とケンカ腰の政権をいさめるどころか、一緒になって朝から晩まで嫌韓扇情一色。日本の内閣改造の“お友だち”人事よりも、韓国法相の疑惑のタマネギ男の追及に血道を上げているのだから、権力の監視役を期待するだけムダである。
■韓国叩きで留飲を下げる世の中でいいのか
前出の小田嶋隆氏はこう言った。
「不安なのは国民の嫌韓感情をあおって、安倍政権が維新の会を巻き込み9条改憲に突き進みそうなことです。改造内閣のメンバーを見ても、最側近の萩生田光一氏をはじめ、安倍首相の親衛隊のような“ネトウヨ”大臣ばかり。日本社会のモラル喪失を逆に利用して、この国をガタガタにした張本人である首相が『社会がほころんでいるからこそ、改憲でこの国を変える必要がある』『“お花畑”の憲法では今の日本は治められない』などと言いだしかねません」
民衆の不安や危機感につけ入るのが、権力者の常套手段。6年半を過ぎたアベ政治も常にそうだ。そんな腐臭漂う政治が社会全体に伝播し、上から下まで総腐敗の惨状を招いているのが、安倍政権6年半の「なれの果て」である。政治評論家の森田実氏はこう言う。
「競争第一、弱肉強食の『新自由主義』がはびこりだしてから、この国はおかしくなってしまった。新自由主義に潜むのは『今だけカネだけ自分だけ』の考え。この発想に国の指導層が完全に染まっています。かつては政治家も経営者も官僚も『国民の生活を豊かにする』との気概に満ちていましたが、今や見る影もない。コスト重視で賃金を減らし、大衆からの収奪しか考えていません。『貧すれば鈍する』で、生活が苦しくなれば精神もすさんでいく。日本社会の荒廃は『今だけカネだけ自分だけ』主義が招いた必然なのです。加えて戦争を知らない政治家ばかりとなり、隣国に対する過去の反省や責任も放り出しています。はたして嫌韓扇情に留飲を下げる世の中でいいのか。腐敗した社会への批判精神に国民が目覚めなければ劣化は止まりません」
劣情国家の行く末を危ぶむ気持ちがあれば、批判の声を上げ、うねりに変えていくしかない。