2019年9月17日火曜日

いま振りかえる 植民地支配 歴史と実態(4完)

 「いま振りかえる 植民地支配 歴史と実態(4)」最終回です。
 植民地問題にどう対応するかについて世界は2001年に「ダーバン宣言」を出し、人権の観点から「被害者を救済」する考え方を確立しています。
 安倍首相の「国家中心主義」はそれから大いに外れています。安倍政権は世界の潮流に沿って、過去の植民地支配の責任について真摯に反省し、軌道を修正すべきです。
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いま振りかえる 植民地支配 歴史と実態(4)
世界の流れは被害者の人権救済
 しんぶん赤旗 2019年9月16日
 これまでは植民地支配の歴史と実態を見てきましたが、世界の流れはどうなっているでしょうか。(日隈広志)
 
植民地支配
不法性・不当性を追及
 安倍首相は、日本軍「慰安婦」問題で「性奴隷」と言われる残酷な実態があったことを認めようとせず、「徴用工」問題でも「解決済み」を繰り返すばかりで被害の救済への努力を拒否しています。
 しかし世界に目を向ければ、「被害者の救済」を主眼として、裁判などで植民地支配下での強制労働や政治弾圧といった行為を不正義と認め、被害者への謝罪と補償・賠償を行う動きが生まれています。植民地支配そのものの不法性・不当性について追及が始まっています。
 
加害国家の反省が重要
ドイツなど今も謝罪
 「今日まで、あの恐怖を忘れたことは一度もない」―。8月19日に亡くなったジャン・オハーンさんは1992年に欧州人として初めて日本軍「慰安婦」の体験を語りました。冒頭のように述べて性奴隷の実態を世界に告発し続けました。安倍首相は「解決済み」だと繰り返しますが、被害者にとっては「終わった」問題ではありません。
 
 木畑洋一東大名誉教授(国際関係史)は、植民地支配の責任を含め、国家が過去の加害の事実を反省する重要性を指摘します。
 第2次大戦の開戦から80年の欧州では、ナチス・ヒトラーがポーランド侵攻を開始した今月1日に同国の首都ワルシャワなどで記念式典が開催されました。出席したドイツのシュタインマイヤー大統領は「ドイツの暴虐によるポーランドの犠牲者に深くこうべをたれる。許しを請う」と謝罪。ポーランドのドゥダ大統領は「真実に向き合い、犠牲者や生存者と相対する」ためのドイツ大統領の訪問は重要だと語りました。
 米国でも88年、レーガン大統領が太平洋戦争中の日系米国人の強制収容について謝罪。「市民の自由法」(日系米国人補償法)の署名に際し「日系米国人の市民としての基本的自由と憲法で保障された権利を侵害したことに対して、連邦議会は国を代表して謝罪する」と表明しました。
 木畑氏は加害の歴史を反省してこそ、「将来の安全保障も含めた国の歴史の“重み”に責任を持つことになる」と語ります。
 
ダーバン宣言の到達点
過去にさかのぼり断罪
 植民地支配の責任に対しては、“過去にさかのぼって非難されるべきだ”との認識こそ国際政治の到達点です。これを示したのは、2001年の南アフリカ・ダーバンでの国連主催「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容に反対する世界会議」の宣言(「ダーバン宣言」)でした。旧植民地宗主国の英仏なども合意しました。
 植民地の歴史は古代ギリシャ・ローマにさかのぼり、15世紀の大航海時代以後の植民地支配はアジア・アフリカ・アメリカの諸民族に対する大規模な暴力として行われました。政治、経済にとどまらず、文化の破壊や人種差別などその被害は現在も続く問題です。
 ダーバン宣言は、植民地支配下の奴隷制が人道に対する罪だと断罪し、現在の人種差別、人種主義の最大の要因だと認めました。
 
 米国では今年、黒人奴隷が英植民地から初めて連れてこられてから400年となります。奴隷の子孫への補償を求める声が高まっており、6月には下院司法委員会で過去の奴隷制に対する補償の是非をめぐる初の公聴会が開かれました。
 ベルギーでは今年4月、被害者からの訴えに対し、ミシェル首相が初めて19世紀後半から約1世紀続いたアフリカの植民地支配下での人種隔離政策について「基本的人権を侵害した」と認め、謝罪しました。
 
 植民地支配を問う動きは第2次大戦直後から始まります。民族自決と独立、国民主権を勝ち取ってきたアジア・アフリカ・ラテンアメリカの諸国民のたたかいが契機となりました。
 木畑氏は「『帝国』が解体し、さらに独立した国々は1990年代に『民主化』が進展した。その中で韓国の元日本軍『慰安婦』による証言など、被害者が直接声を上げる環境がつくられた。ダーバン宣言はそうした一連の動きの集約点だ」と説明します。
 
キーワードは人権
支配全体の責任に迫る
 植民地支配の責任を問う動きを見る際のキーワードが人権です。ダーバン宣言と同時期に国際人権法では「被害者の救済」の考え方が確立しました。
 
 植民地支配の被害者が声を上げ始めたことを受け、90年代には戦争犯罪や重大な人権侵害に対して、女性の権利や国際的な刑事司法制度を発展させる動きが強まりました。2005年には国連総会が被害者救済のための「基本原則とガイドライン」を採択。個別の裁判を通じた被害者への賠償・補償など救済の方法が確立し、「被害者の救済」が植民地はじめ女性への暴力、拷問など国際的な人権侵害の解決のための中心課題となっています。
 こうした動きについて、前田朗東京造形大教授(国際法)は、旧宗主国が補償額の拡大などを恐れて被害者の要求をつぶすなどダーバン宣言に反する中でも、「『被害者の救済』の立場で解決に当たらざるを得なくなっている」と意義を説明します。さらに植民地支配下の個別の人権侵害を国際法で「植民地犯罪」と規定すべきで、その断罪を通じて「植民地支配全体の責任に迫っていくことが可能だ」と指摘します。
 
安倍政権の国家中心主義
世界の潮流みない議論
 「被害者救済」の視点が欠落し、新たな世界の潮流に逆行しているのが安倍政権です。
 阿部浩己神奈川大教授(国際法)は5日、日本記者クラブでの講演で「国際的な規範的潮流が、国家中心から人間中心に、過去の不正義を是正する方向に転換している」と述べ、安倍首相が1965年の日韓請求権協定を盾に韓国政府を「国際法の常識に反する」などと発言するのは従来の国家中心主義の考え方だと批判しました。過去につくられた条約であっても現在の人権重視の原則や規範に基づいて解釈するのが現代の解釈の仕方であり、「国際法の常識」だとして「(請求権協定で)人権に反する解釈があってはならない」と強調しました。
 
 阿部氏は昨年10月の韓国大法院(最高裁)判決について、「被害を受けてきた中小国や人間の側にたって国際秩序をつくり直す世界の潮流の表れ」だと指摘しました。
 被害者の人権救済の立場でダーバン宣言を生かし、植民地支配そのものの不法性・不当性を問う潮流が生まれています。
 
 朝鮮半島の人々は独立直後から賠償・補償の請求をはじめ日本の過去の植民地支配の不当性・不法性を訴えてきました。現在の世界の潮流の先駆者です。安倍政権は世界の潮流にそって、過去の植民地支配の責任について真摯(しんし)に反省すべきです。