安全保障関連法案が成立すると真っ先にテロなどを受ける可能性が高まる海外在住の日本人の「国外からの反対の声を届けるプラットホーム」:オーバーシーズOVERSEAsを結成した発起人の武井由起子弁護士が、法学館憲法研究所の 「今週の一言」に文章を発表していますので紹介します。
法学館憲法研究所は伊藤真弁護士が主宰しているもので、「今週の一言」のコーナーでは毎週色々な方たちが意見を発表しています。
(関係記事)
8月29日 海外在住者が「オーバーシーズ」結成 安保法案反対の
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海外在住者を危険にさらす安保法案
武井由起子弁護士※ 2015年8月31日
法学館憲法研究所 「今週の一言」より
※OVERSEAs(オーバーシーズ)発起人
私は、そもそもは自称「ノンポリ」弁護士で、いわゆる人権・護憲活動などは殆どやったことがなかったのですが、原発事故後の政府対応などを見て、これを鵜呑みにしていたら子どもを守れない、絆などと言って子どもの命をないがしろにする国は間もなく戦争をすると思って、スイッチが入りました。
特に、出征した祖父や空襲に遭った父母から戦争の悲惨さを聞かされて育ったため、憲法の基本的知識を市民の方に理解して頂き、政府の暴走の結果として戦争になることを防ぎたいと、2年ほど前から、明日の自由を守る若手弁護士会に所属し、年間50回ぐらい憲法カフェを行うようになりました。
ここ最近、中国との関係についての質問が増えてきました。「中国と戦争になるのではないか?日本はどうしたらいいのか?」といったようなことです。
弁護士になる前に、総合商社に勤務して中国駐在などをした経験から、日本は資源の少ない国で、中国は最大貿易相手国の一つ、戦争なんかできるのか等とお話しました。実際に、中国は日本の輸入衣料品のシェアは7割を占め、通信機その他多くのものを輸入しており、アメリカ、EUに次ぐ投資先でもあり、中国にとっても、その関係は決して小さいものではないのです。
そんな話を皆さん興味深く聞いて下さり、平和や安全保障を考えるには海外事情についての知識が不可欠だと感じていました。
そして、今年の夏、アメリカ・カリフォルニア州の都市バークレーとトーランスで憲法カフェといった集まりをしたのですが、その際、現地の日本の方々からお伺いしたことは大変興味深いものでした。
たとえば、「アメリカの艦船に日本人を乗せるわけがない。なぜ誤った事実が前提として議論がされているのか」といった疑問や、シリコンバレーのIT技術者からの「むしろ日本は弱いからこそ安全なのだ」という意見。それは「これからの戦争は、国対国ではなくて、テロリストやサイバーが相手。その場合、強いところ、目立つところが狙われる。強い国の武器は、それがそのままその国を攻撃するツールとなる」と。そして、皆さん異口同音に、集団的自衛権を行使し、アメリカと軍事行動をする国となったら、狙われるのは在外邦人たる自分たちだとおっしゃいました。
私も、実際、中近東に出張などしたとき、日本人は平和の国の人々と意外なほど評価されており、アメリカ人が国籍を悟られないように注意しているのとは全く違うことを実感していましたので、アメリカと同じことをする国と見なされることでの在外者や出張者のリスク増大は痛いほどわかります。
しかし、実際、安保法制における議論では、そのような海外に関する知見や実情が置き去りにされ、むしろ、在外邦人を守るため等という主張までなされています。そこで私は、国内の人たちは海外在住者の声に接して考える必要があるし、実際にリスクを負うことになるそのような方々を蚊帳の外にするのではなく意見を言って頂けるようなプラットフォームが必要だと考えました。
しかし、私は、憲法カフェなどは熱心にやっていますが、何らかの組織に属するわけでもなく、単なる一弁護士です。必要性はわかるけれど、自分に何ができるだろう、そんな自問自答から、行動に至る背中を押してくれたのは、見守り弁護団の一員として見守っていたSEALDsの若い学生さんたちの頑張りでした。そんな学生さんたちへのリスペクト(敬意)を表すべく、その活動をOVERSEAs(オーバーシーズ)と名付けようと考えました。
そして、お盆の頃、おそるおそるフェイスブックでそんなアイディアを披露したところ、すぐ賛同して集まってくれた数人の同志たち。1回や2回しか会ったことがなかったり、その方々同士は会ったこともないという具合ですが、その翌週にはフェイスブックで非公開のグループが立ち上がり、多くの世界各地の方々の知見や実情にてらしたメッセージが数多く寄せられ、参加者が参加者を呼び、あっという間に約400人にもなりました。その方々から、8月30日の抗議行動に世界中で連帯したいと言われて、28日に緊急記者会見をすることになりました。それを決めたのが27日の午後、会見は翌朝9時30分、その当日にはインターネットでの署名&メッセージを寄せて頂くサイトと、フェイスブックの公開コミュニティという誰にでも見られるグループの立ち上げを一気にやるという、まさに突貫工事でした。
マスコミの方にとっては非常識ともいえる早朝の時間帯、ショートノーティス(短期間)での会見にもかかわらず、APなど海外メディアを始め、多くのマスコミの方々がいらして下さいました。
発起人5人のうち3人が記者会見に臨みましたが、アメリカから帰国して程ない中溝ゆきさんの、9・11における悲劇からの連帯が戦争に直結した、その愚を日本は繰り返すのかと、そして、アメリカ留学中に湾岸戦争が起きたという山秋真さんの、日本の人たちともどかしさを共有したくても当時は手紙という手段しかなかったが今は違うと、それぞれ発言頂きました。
その二人の叫びにも似た問題提起に押されるように、私も、この法案は、憲法違反はさることながら、イラク戦争以来、軍事行動に抑制的になっているという世界情勢にも反するし、後方支援で参加する自衛隊員はジュネーブ条約など戦時国際法の戦闘員にならず国際法の保護も受けられない等、国際法との接続関係を全く無視しており、世界の平和にも資さない、「ガラパゴス法案」だと申し上げました。
そして、前国連人権高等弁務官事務所パレスチナ副代表の髙橋宗瑠さんのメッセージを紹介させて頂きました。「私は5年間中東の紛争地域に滞在して、平和国家であることがいかに日本国民の財産かを実感しました。アメリカやヨーロッパは武力で中東を荒らし回ったり、武器を売って紛争を掻き立ててばかり、しかし日本はそのような悪いことをしない、平和を愛する国だと現地の人に何度も言われました。それを、日本が戦争をする国になって、アメリカに従うようにして中東に軍事介入することになれば、どれだけ現地の人の反応が違ってくることか。平和国家という最高の財産を自ら捨てるのは、愚の極致であり、現地の日本人を危険にさらすことにもつながります。」と。
その様子は各紙でかなり大きく報じられたため、公開コミュニティは、1日で約1200人もの方から「いいね!」という賛意が示され、署名&メッセージも2日間で約500もが寄せられました。そして、今、30日の抗議行動に連帯した世界各地の行動の写真が続々と送られてきています。
私たちが生み出した小さなプラットフォームは、世界各地の多くの方々の賛同を得て、瞬く間に大きなものとなっていきました。そのことに私たちを含め、多くの方々が元気づけられています。
世界各地で、真の意味での積極的平和主義を実践している方々の連帯を得て、安保法制を廃案させ、日本のみならず世界の平和の一助とならんことを心より祈り、そして、行動していきます。