11日、「日本平和学会」の学者らが参議院議員会館で記者会見し、安保関連法案に反対する声明を出しました。
同学会は、市民の議論を促すための「安保法制100の論点」を作成。「安倍政権の積極的平和主義とは何か」「自衛隊員へのインパクトは」といった100項目をホームページ上で公表しています。
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安全保障関連法案に反対する日本平和学会理事会有志による声明
私たちは、平和(peace)と安全(security)について、思想、制度、実態、社会運動等の側面から学際的な検討と研究を行ってきました。その目的は、戦争やテロなどの直接的暴力、飢餓・貧困・差別・搾取などの構造的暴力、それらを容認・肯定する文化的暴力の克服であり、現実を見据えながら武力行使によらない問題解決の条件や方策を探ることです。
しかし、現在の日本は「新しい戦前」ともいうべき戦後最大の危機に直面しています。現在参議院で審議中の安全保障関連法案の本質は、定義もあいまいな「存立危機事態」の下、時の政権の意向によって自衛隊に国内外で武力行使させることを可能にする「戦争法案」です。これまで多くの憲法学者や歴代の内閣法制局長官、元最高裁判事などが指摘しているように、内容的にも手続き的にも違憲であることは明らかです。
この安保法案には次のような問題があります。
1.これまでの専守防衛を放棄して海外での武力行使を行うことを可能にする。
2.日米軍事一体化を世界的規模で拡大・強化し、米国主導の戦闘行為に自衛隊が補完部隊として加担する道を開こうとする。
3.自衛隊の財政・権限拡大と秘密保護を特徴とする日本社会の軍事化を一層進める。
4.武器輸出の解禁やODAの軍事活用などを通じて日本を世界の軍事化に貢献する国に変貌させる。
このような内容の法案が成立すれば、自衛隊が米軍等の「武器等防護」や「駆けつけ警護」などを理由として世界中で戦争・戦闘に参加し、殺し殺され、その報復として日本国内におけるテロを誘発する事態も予想されます。
また、この法案の成立を目指す動きは、これまでも内外の識者が指摘していたような、日米軍事協力の実態もあらためて露呈させました。そもそも法案の内容自体が2012年夏、日本に集団的自衛権行使を可能とする解釈改憲を要請した「第3次アーミテージレポート」を下敷きにしたものです。安倍政権は最高裁「砂川判決」を集団的自衛権の根拠としていますが、そもそも同裁判は米軍駐留の違憲性が争点になったものであり、それ以前に米軍駐留を「違憲」とした伊達判決が米国との秘密裏の協議によって覆されていたという指摘もあります。また、この法案の成立を前提に新ガイドライン(日米軍事協力の指針)を実施するための詳細な計画を自衛隊統合幕僚監部が進めていることや、それを先取りした米軍と自衛隊との本格的な訓練が既成事実として行われていること、さらには強引な議事運営や沖縄での民意を無視して辺野古新基地建設が強行されようとしていることなども、この文脈から理解することができます。
しかしこの法案が成立すれば、国際的な緊張関係を高め、とりわけ東アジアの安全保障環境を根幹から揺るがす重大な事態を引き起こしかねません。さらに、「脱暴力」を一貫して求めてきた国際社会の基本的な潮流への根源的な挑戦ともなり、近隣諸国において民主化と軍事力によらない問題の解決を切望してきた市民にとっての障害となります。それゆえ、この法案への懸念はひとり日本の中だけでなく、国境を越えて、グローバルな次元で表明されるものでもあります。現政権が掲げる「積極的平和主義」は、何よりも「平和主義」概念を誤用しており、イラク戦争への加担などこれまでの政策を総括せず、日本の戦争責任を顧みず、人類が多年にわたり営んできた平和の思想・運動を冒涜するものです。私たちが学問的に定義する本来の「積極的平和(positive peace)」とは、これとは逆に、暴力手段によらず、戦争の原因となる構造的な暴力を漸減する事に他なりません。
さらに、この法案の推進がしばしば「壊憲クーデター」とも呼ばれるように、憲法や国会の存在、主権者である国民の意思を無視し、何よりもデモクラシーそのものの危機を招いている事についても、私たちは深く憂慮します。すでに日本の警察国家化・監視社会化は急速に進んでおり、ヘイトスピーチや排外主義的ナショナリズムや集団同調圧力も高まっています。大学やメディアにおける「統制」も進行しています。国際的な戦争への準備は、必ずや国内社会の包括的な軍事化をももたらします。
このように立憲デモクラシーを破壊し、日本を平和国家から戦争国家へとトータルにつくり変えようとする安全保障関連法案に、私たちは断固として反対します。
2015年9月4日
(呼びかけ人・賛同人の名簿は省略します)