沖縄の翁長知事はようやく辺野古新基地の埋立承認の撤回・取消を決断したようですが、タイミングとしてあまりにも遅いものでした。
植草一秀氏がブログに知事を辛辣に批判する記事を載せました。国が工事に着手できる段取りに協力したあとで埋め立て承認を取り消しても、事実上本体工事を止めることはできないというもので、以下のように主張しています。
「翁長知事は知事就任後に速やかに埋立承認撤回・取消しを行って国との「事前協議」を拒否すれば、国は本体工事に着手できなかった(埋め立て承認書に事前協議が必要と明記)のに、翁長知事はその決定的なカードを使おうとせず(=埋立承認撤回・取消をせず)国による事前協議書を受け取った。
国が本体工事に着手したあとで埋立承認を取り消しても工事の進行は止められない。」
植草氏は、知事選の当初から翁長氏は「辺野古に基地を造らせない」ことを公約に掲げる以上「埋立承認の撤回・取消」を公約として明示すべきだと主張しました。
しかし翁長氏は立候補の会見のときにも、記者から聞かれたのに対して、「腹八分腹六分のオール沖縄体制だから、埋立承認の撤回・取消は公約化できない」と答えていました。
翁長氏は知事になった後に埋立承認の撤回・取消しの法的な可否について諮問委員会に諮りました。それが長期間の検討を経て7月になってから「撤回・取消は可能」との回答が出たあとも、知事はそれを「再度検討」するとしてなぜかそのまま放置しました。
知事は国との折衝では常に理論的に相手を圧倒して来ましたが、そうしたパフォーマンスの一方で、事実上は基地の建設を拒否しないというのが本心だとすれば、知事のこれまでの行動(9月になってからの承認取り消しを含めて)はすべて納得が行くものです。
知事は植草氏の批判にどう答えるのでしょうか。
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本体工事着手条件献上後の承認取消は茶番
植草一秀の「知られざる真実」 2015年9月12日
8月10日ブログ記事「埋立承認取り消さず国と協議に談合の気配充満」
7月31日付ブログ記事「真の公約は「辺野古に基地を造らせる」だった?」
に記述したように、「辺野古に基地を造らせない」公約を実現するうえで、最重要の焦点は、国による基地建設を現実的に阻止することである。
昨年11月の沖縄知事選で最大の論点になったのは、仲井真前知事による埋立承認の撤回・取消である。
菅義偉官房長官が昨年9月10日の記者会見で明言したように、国による辺野古米軍基地建設の根拠は仲井真知事による埋立承認である。
菅官房長官は、埋立承認を得ている以上、基地問題は過去のものだと述べた。
したがって、基地建設を阻止するには、埋立承認の撤回および取消が必要不可欠である。
知事選に際して、「辺野古に基地を造らせない」ことを公約に掲げるなら、「埋立承認の撤回・取消」を公約として明示する必要があった。
私は、この点を明確にしたうえで、基地建設反対候補者を一人に絞り込むことが必要であると訴え続けた。
しかし、翁長雄志氏は、この点を最後まで明確にしなかった。
「腹八分腹六分のオール沖縄体制だから、埋立承認の撤回・取消を公約化できない」
とした。
この姿勢が意味するところは、翁長氏支持陣営のなかに、埋立承認撤回・取消に反対する勢力が存在することを示唆していた。
反対する理由は、辺野古基地建設を実質容認して、見返りに、沖縄振興策を獲得することの優先順位が高いという点にあるのだと推察される。
つまり、埋立承認撤回・取消を直ちに実行せずに、辺野古基地建設進捗を容認してしまうべきだとの主張を持つ勢力が翁長氏支持陣営に存在するのだと推察される。
上記ブログ記事およびメルマガ記事に記述したことは、翁長氏が国による辺野古基地建設をサポートするかたちで、埋立承認取消に動くだろうという洞察である。
最大のポイントは、国による本体工事着手を阻止するのかどうかである。
翁長知事は、国による本体工事着手を阻止する決定的なカードを握っていた。
それは、知事就任後、速やかに埋立承認撤回・取消を実行することである。
知事がこの行動を取ると、国は本体工事に着手できない。
それ以前のボーリング調査にも着手できなかった可能性がある。
しかし、翁長知事は、埋立承認撤回・取消をこの9ヵ月間実行しなかった。何よりも重要なことは、本体工事着手前の国と沖縄県による事前協議である。
埋立承認文書に、国と県による本体工事前の事前協議が必要プロセスとして明記されている。
つまり、国は県との事前協議なしに本体工事に着手できない。
したがって、この事前協議の前に沖縄県知事が埋立承認撤回・取消を実行すれば、事前協議は実現せず、したがって、国は本体工事に入ることができなくなる。
そのタイムリミットはこの7月だった。
しかし、翁長知事は国による事前協議書を受け取った。
受け取ったことに依り、事前協議が行われたという外形が確保されることになり、国はこれを根拠に本体工事に着手できることになる。
国が本体工事に着手したあとで翁長知事が埋立承認を取り消しても、工事は進むことになる。
工事が進んだ場合、沖縄県と国が法廷闘争を行っても、基地建設の既成事実が積み上げられてしまうので、裁判所は「訴えに利益なし」の判断を示す可能性が極めて高くなる。
国による辺野古米軍基地建設を実質容認するための行動は、「本体工事着手の条件が整うまでは埋立承認を取り消さないこと」なのだ。
逆に言うと、本体工事着手の条件が整ってしまえば、埋立承認取消を実行しても基地建設の大きな妨げにはならないことになる。
埋立承認取消を実行することは、知事が「辺野古に基地を造らせない」公約実現に向けて、「あらゆる手段を活用した」という「アリバイ」を提供するものである。
私は、翁長知事が、本体工事着手の条件を国に献上したうえで埋立承認取消に進むと予測してきたが、現在の流れはその通りのものである。
この場合、埋立承認取り消しは「辺野古に基地を造らせない」公約に沿うものとは言えない。
逆に「辺野古に基地を造らせる」ことをサポートする行動ということになる。
なぜなら、埋立承認取消は、いまよりもはるかに早い段階で実行することが可能な選択肢であったのであり、それを実行していれば、国による本体工事着手阻止は確実に実現できたからである。(補注:「着手阻止」の「阻止」が脱落しておりましたので書き加えました)
この理解が誤りであることを念願するが、その判定を行うためのチェックポイントは、
1.国が本体工事に着手するか否か
2.最終的に「辺野古に基地を造らせない」公約が実現するか否か
である。現時点での最終判断は時期尚早だが、上記2点が決定的に重要であることを明記しておく。
(以下は有料ブログのため非公開)