翁長沖縄県知事は21日、スイスで開かれている国連人権理事会で演説し、アメリカ軍普天間基地の移設計画について、沖縄に米軍基地が集中する実態を紹介し「県民への過重な基地負担の継続と名護市辺野古の新基地建設は人権侵害に当たる」などと訴えました。発言時間はNGO「市民外交センター」から提供され、2分間の英語のスピーチでした。
そのあと日本政府側(在ジュネーブ日本政府代表部)から反論がありましたが、「日本政府は、沖縄の基地負担軽減に最大限取り組んでいる。辺野古への移設は抑止力の維持と普天間の危険性を除去する唯一の解決策だ」などという型どおりのものでした。
22日には国連人権理事会の先住民族の権利に関する分科会で講演することを計画していましたが、スケジュールの関係で演説は島ぐるみ会議のメンバーが代行し、知事は記者会見で海外メディアへの発信をして、帰国の途に着きました。
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翁長雄志知事が国連で演説
「沖縄の人々は、人権をないがしろにされている」 (日本語訳全文)
The Huffington Post 2015年09月22日
沖縄県の翁長雄志知事(64)は9月21日、スイスで開かれている国連人権理事会で約2分にわたって英語で演説し、アメリカ軍普天間基地の移設計画について、沖縄に米軍基地が集中する実態を紹介し「沖縄の人々は、自己決定権や人権をないがしろにされている」などと訴えた。
翁長知事の国連演説は、国連人権理事会の場で発言機会を持つNGO「市民外交センター」が、持ち時間を提供して実現。国連での演説の意義について、同NGOの上村英明代表は琉球新報に、「沖縄の基地問題は安全保障、平和の問題ではなく、人権問題だということを国際社会にアピールする機会となる」と説明した。
以下に、翁長知事による国連での演説の、日本語訳全文を掲載する。
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ありがとうございます、議長。私は、日本の沖縄県の知事、翁長雄志です。私は世界中の皆さんに、辺野古への関心を持っていただきたいと思います。そこでは、沖縄の人々の自己決定権が、ないがしろにされています。
第2次大戦のあと、アメリカ軍は私たちの土地を力によって接収し、そして、沖縄にアメリカ軍基地を作りました。私たちが自ら望んで、土地を提供したことは一切ありません。
沖縄は、日本の国土の0.6%の面積しかありません。しかしながら、在日アメリカ軍専用施設の73.8%が、沖縄に存在しています。
70年間で、アメリカ軍基地に関連する多くの事件・事故、環境問題が沖縄では起こってきました。私たちは自己決定権や人権を、ないがしろにされています。
自国民の自由、平等、人権、民主主義すら守れない国が、どうして世界の国々とそれらの価値観を、共有することなどできるでしょうか。
今、日本政府は、美しい海を埋め立てて、辺野古に新しい基地を建設しようと強行しています。彼らは、昨年沖縄で行われた選挙で示された民意を、無視しているのです。私は、あらゆる手段、合法的な手段を使って、新しい基地の建設を止める覚悟です。
今日はこのようなスピーチの機会が頂けたことを感謝します。ありがとうございました。
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なお、この日の国連人権理事会では、翁長知事の演説のあと、日本政府が答弁する機会もあった。日本政府側は翁長知事に反論。「日本政府は、沖縄の基地負担軽減に最大限取り組んでいる。普天間基地の辺野古への移設は、アメリカ軍の抑止力の維持と、危険性の除去を実現する、唯一の解決策だ。日本政府は、おととし、仲井真前知事から埋め立ての承認を得て、関係法令に基づき移設を進めている。沖縄県には、引き続き説明をしながら理解を得ていきたい」と述べた。
「世界は辺野古注視を」 知事、新基地阻止訴え 国連で会見
琉球新報 2015年9月23日
【ジュネーブ22日=島袋良太】21日に国連人権理事会で演説し、県民への過重な基地負担の継続と名護市辺野古の新基地建設は人権侵害に当たると訴えた翁長雄志知事は22日、国連訪問日程を終え、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で記者会見した。翁長知事は「小さな沖縄が日米両政府の間で自己決定権のために闘うのは大変困難かもしれない。国連で私どもの状況を伝え、世界の人がこのことを一緒に考えてほしいと訴えた。政府は辺野古の工事を再開した。米国と日本の民主主義を皆さんの目で確認してほしい」と述べ、今後も国内外の世論にも働き掛けて新基地建設を阻止する考えを示すとともに、沖縄の状況を注視するよう求めた。
翁長知事は人権の観点から新基地建設問題を国連で取り上げたことについて「米軍統治時代は少女暴行や小学校へのジェット機墜落、ひき逃げ死亡事故などがあっても、犯人が米軍人ならば無罪になる時代を過ごした。復帰後もダイオキシンなどの環境汚染があっても私たちの調査権が及ばない。米軍機の飛行も制限できず、人権がないがしろにされている」と述べ、沖縄の歩んだ歴史が背景にあると説明した。
演説で訴えた県民の自己決定権については日米の間で翻弄され、「自分たちの運命を自分たちで決めることができずに来た」と説明。今回の演説について「こうして私が世界に語ったことは、沖縄県民にとって勇気と自信と誇りになっただろう」と総括した。
翁長知事は日程が順調に進めば、22日も国連人権理事会の先住民族の権利に関する分科会で講演することを計画していた。発言待機のために時間を費やしたこともあり、海外メディアへの発信を優先するとして記者会見し、その後、帰国の途に着いた。同日の人権理事会での知事の発言枠は、島ぐるみ会議のメンバーが代わって演説した。
「人権と関係ないというのは本当に残念」 知事、政府に反論
琉球新報 2015年9月23日
【ジュネーブ=島袋良太】翁長知事は22日午後(日本時間同日夜)、国連欧州本部で記者会見し、知事の国連人権理事会での演説について日本政府が「軍事施設の問題を人権理事会で取り扱うのはなじまない」などと批判したことについて、県民は米軍基地から派生する事件事故、環境汚染や騒音などに苦しんできたとした上で、「人権と関係ないというのは本当に残念だ」と反論した。
知事の演説について、日本政府は会議に出席していた在ジュネーブ日本政府代表部の嘉治美佐子大使が「日本政府は米政府と協力して沖縄の負担軽減に最大限努力している」とした上で「3月に51ヘクタール(キャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区)を返還した」などと主張。
また「沖縄の経済振興にも努力している。沖縄側とこれらの問題に関するハイレベル対話の枠組み設置でも合意した」と述べた。
嘉治氏は「辺野古移設は米軍駐留による抑止力を維持しつつ、人口密度の高い場所に普天間があるリスクを取り除く唯一の解決策だ」と重ねて政府見解を示した上で、(1)1999年に名護市と知事の合意を得た(2)2013年には仲井真弘多前知事が埋め立てを承認した―と述べた。
また環境評価手続きでも環境や住民生活への問題は生じないと結論付けたとした。
会議後、嘉治氏は記者団に知事の演説について、人権理事会での取り扱いはなじまない、との見方を示していた。