2015年9月17日木曜日

最高裁元判事が手厳しく批判 安保法案中央公聴会

 国会が絶対にやっていけないことは違憲な法律を制定することです。そんなものを閣法として提出してくる内閣の非はもとより明らかですが、国会はそれを阻まなければなりません。それが選良の良識というものです。
 17日夜開く予定だった参院特別委員会は、国会周辺に押し寄せた3万5千人の怒りのなかで、一先ずは17日の朝に延期されました。

 ところで15国会で行われた安保法制にかんする中央公聴会では、注目のSEALDs中心メンバー奥田愛基氏公述人として登場し、冒頭、居眠りしていた議員を注意した後「法案が成立すれば全国各地でこれまで以上に声が上がるだろう。連日、国会前は人であふれかえる。次の選挙にも、もちろん影響を与えるだろう」と強調しました
 
 LITERAの記者 水井多賀子氏は公聴会にはもうひとり強烈な安保法制批判をした人物がいたとして、元最高裁判事の濱田邦夫弁護士の主張を取り上げました。
 濱田氏は公述で、内閣法制局を皮肉たっぷりに「いまは亡き……と言うとちょっと大袈だが」と前置きしつつ、横畠長官の所業を司法に汚点を残すまことに残念な行為と非難し、安保法制を、法としての問題だけではなく、言論の自由や報道の自由、学問の自由をも脅かす日本の民主社会の基盤が崩れていく重大な脅威だと評しました。
 
 以下に紹介します。
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最高裁元判事が国会で安保法制に毒舌全開!
「安倍首相は詭弁」「いまはなき内閣法制局」「なめたらいかんぜよ」
LITERA 2015年9月16日
 昨日、国会で開かれた安保法制にかんする中央公聴会。とくにSEALDs中心メンバーの奥田愛基氏の公述に大きな注目が集まったが、じつはもうひとり、強烈な安保法制批判を繰り出した人物がいた。それは、元最高裁判事の濱田邦夫弁護士だ。
 まず、濱田氏は公述で、内閣法制局を皮肉たっぷりにこう表現した。
「いまは亡き……と言うとちょっと大袈裟ですけども(笑)」
 
 いわば、元最高裁判事からの内閣法制局に対する「お前はもう死んでいる」宣告。──この発言に野党議員からは笑いが起こったが、このほかにも濱田氏は"名言"を連発した。
 たとえば、「集団的自衛権の行使を認めるこの立法は合憲の範囲内ですか?」という蓮舫議員からの質問には、たった一言、「違憲です」と返答。安保法制の妥当性を問われると、「正当性はないと思います」と言い、「安倍総理の手法は国民の感情に訴えたつもりでありましたけれども、現在の国民感情というものは圧倒的に反対」とバッサリ。
 
 また、新3要件が満たされれば事実上、武力行使ができるようになる法案にもかかわらず「いささかも専守防衛は変わっていない」と安倍首相が言い張ることについては、「詭弁だと思います」と一刀両断。さらには、議員たちにこんな厳しい言葉を投げつけた。
「私は、政治家のみなさまには、知性と、品性と、そして理性を尊重していただきたいし、少なくともそれがあるような見せかけでもですね、これはやっていただきたいと」
 
 つまり、知性や品性や理性がないならないで、せめてあるように振る舞ってよ!と苦言を呈しているのだ。与党はもちろん、それまで濱田氏の発言に拍手を送り、我が意を得たり!と言わんばかりに爆笑していた野党議員たちも、この発言にはさすがに黙りこくっていた。
 しかし、濱田氏はなにも説教を言いに国会へ来たわけでは決してない。元最高裁判事として、安保法制の問題を追及しにやってきたのである。当然、その舌鋒は鋭い。
 
 たとえば、安倍晋三首相が憲法9条の範囲内だと主張している点には、「憲法9条の範囲内ではないんじゃないかというのが、私の意見でございます」と発言。「本来は憲法第9条の改正手続きを経るべきものを内閣の閣議決定で急に変えるということはですね、法解釈の安定性という意味において非常に問題がある」と異議を唱えた。
 
 とくに、安倍首相が集団的自衛権の合憲の根拠として上げる砂川判決については、「砂川判決の具体的な事案としては、米国の軍隊の存在が憲法に違反するかということが中心的」とし、「個別的であろうが集団的であろうが、そういう自衛隊そのもの、元は警察予備隊と言っていたそういう存在について争われた事案ではないという意味において、これを(合憲の)理由とすることは非常に問題がある」と断言。
 
 さらに、同じく安倍首相が根拠とする砂川判決の昭和47年政府見解についても、当時の資料をもとに、「関与した吉國(一郎・内閣法制局)長官とかですね、真田(秀夫・内閣法制局)次長、総務主官、それから参事官ですね、そういった方々が国会でも証言しているように、このときには海外派兵というかですね、そういった集団的自衛権というものそのものは、政府としては認められない、と(している)」と言い、"昭和47年政府見解に限定的な集団的自衛権が含まれている"とする安倍首相の主張を、このように言明した。
「それは(集団的自衛権が含まれていると)読みたいという人がそう読んでる、というだけの話で、裁判所に行って通る話かと言うと、これはあくまで一私人の推測になりますが、そりゃ通らないでしょ(笑)」
 
 濱田氏は公述中や質問に回答する際、ときおり笑いを浮かべていたが、それはきっと「なぜ、こんな当たり前のことがまかり通っているのか」という呆れから生まれていたのだろう。実際、濱田氏は「とても法律専門家の検証に耐えられない」と述べ、安保法制を合憲だとする学者や政治家の見解に対し、「『最高裁では絶対違憲の判決が出ない』というふうな楽観論は、根拠がないんではないかと思っております」と言い切っている。
 なかでも、濱田氏の呆れは、「いまは亡き」内閣法制局に強く向けられていた。
 いままでは、内閣法制局が存在することで日本の憲法解釈は安定してきた、と濱田氏は言う。事実、内閣法制局は「法の番人」と呼ばれ、これまでも総理大臣であろうと手出しができない「聖域」だった。しかし、安倍首相は第一次内閣時、宮崎礼壹内閣法制局長官によって解釈改憲を阻まれたことから、第二次政権では解釈改憲に前向きな元フランス大使の小松一郎氏を、外務省出身で内閣法制局の勤務経験がないにもかかわらず異例の抜擢。小松氏が体調不良になると、後任として自分の言いなりとなる横畠裕介氏を昇格させている。
 
 こうした安倍首相の傍若無人な人事を、濱田氏は「機能が失われた状況」と表現。「内閣の言うとおりのことを言う人を時の長官にするというような人事自体がですね、国民の信頼を著しく損なっていると思います」と厳しく批判し、「今回の法制は、聞くところによると、この伝統ある内閣法制局の合憲性のチェックというものが、ほとんどなされていないというふうに伺っておりますが、これは将来、司法判断にいろいろな法案が任されるというような事態にもなるんではないかという感じがします」と危惧を表明。そして、横畠内閣法制局長官についても、「たいへん偉い先生ですが、おやりになったことは司法に汚点を残す、まことに残念な行為だったと思います」と非難した。
 
 先日も、元最高裁裁判長だった山口繁氏が「安保法制は違憲」と批判し、大きな注目を集めたばかり。最高裁裁判長も判事も、OBは揃って「違憲」と言っているわけだ。だが、そんな声も、安倍首相には届かない。砂川事件の最高裁判決を合憲の根拠にしているというのに、元最高裁裁判長が違憲と主張すると、今度は「いまや一私人になられている方について、いちいちコメントするのは差し控える」と取り合おうともしなかった。結局、自分に都合の悪い話には聞く耳ももたず、国民が納得のいく反論もせず、ただ逃げるだけだ。
 
 濱田氏は、安倍首相のそんな言葉を踏まえ、私は一私人。現職じゃない人間が口を出すことではないとした上で、公述人として国会で語ることにした理由を、こう話した。
「OBとしては、あまりにもひどい状況で、黙っていられないと。(中略)本来は黙っていようと思ったんだけれども、どうにもこれでは日本の社会全体がダメになってしまうということで、立ち上がっているわけです」
「安倍政権に国民が望んでいるのは経済的な問題の解決。それで総選挙も勝ったわけですし、いまも内閣を支持する一定の割合の国民がいるというのは経済をなんとかしてくれということであって、戦争してくれと言っているわけではないと思います」
 そして、元最高裁判事として、「最高裁では絶対に違憲判決が出ない」と楽観視している者たちに、濱田氏は再度、このように啖呵を切ったのだ。
「いまの現役の裁判官はたいへん優秀な方です。その司法部を、なめたらいかんぜよ」
 
 ──濱田氏は安保法制を、法としての問題だけではなく、言論の自由や報道の自由、学問の自由をも脅かす日本の民主社会の基盤が崩れていく重大な脅威だと評した。そう、ほんとうの脅威は中国や韓国ではない、この目の前の政権なのだ。
 
 元最高裁判事が国会で議員たちに直訴したこと。それはこんな言葉だった。
「ぜひ、みなさま方の良識、良心にしたがって、この審議の否決を決めていただきたいと思います」    (水井多賀子)