竹中平蔵氏は菅首相のブレインではないかと俄かに注目されています。菅首相が誕生して早々の18日に二人はホテルで早朝の会食をしています。その竹中氏がBS-TBSの報道1930に出演してベーシックインカム論を提案しました。
ベーシックインカム論は竹中氏の持論だそうですが、その内容は一律で月7万円を支給して、各種年金制度、社会保険制度を廃止するというものです。そうなれば国の社会保障費は大幅に軽減するのでこれほどうまい話はありません。しかし高齢者や生活保護を受けている人たちが一体月7万円で生きていけるのでしょうか。
先ずは実際に自分で試して見てから主張するべきではないでしょうか。
藤田孝典氏が取り上げました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
竹中平蔵氏が提案する「月7万円」のベーシックインカム論がヤバすぎる
藤田孝典 YAHOOニュース 2020/9/24
NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教授
竹中平蔵氏のベーシックインカム論
竹中平蔵氏がBS-TBSの報道1930に出演して、ベーシックインカム論を提案した。その内容があまりにも酷く、SNSなどで波紋、批判を呼んでいる。
ベーシックインカムとは、簡潔にいえば、すべての個人に無条件で一定額を継続して給付するという政策である。 |
竹中氏は以前より持論としてベーシックインカム構想に触れている。その提案が菅首相との会食後のタイミングだったからこそ、注目されたのだろう。
竹中氏は「所得制限付きベーシックインカム」という独特の説明をし、マイナンバーと銀行口座をひも付けて所得を把握することを前提に、国民全員に毎月7万円の支給を提案している。その上で所得が一定以上の人は後で返すようにするというのだ。
また、ベーシックインカム導入によって、生活保護が不要になり、公的年金制度も不要になるため、ベーシックインカムの財源にできるという。
竹中ベーシックインカムはここがヤバい
まずベーシックインカム導入と引き換えに生活保護、公的年金などの廃止、財源移譲がセットになっている。生活保護は「最低生活保障+自立助長」の制度である。お金を渡すだけではなく、福祉的なケアや生活支援をセットでおこなう。
生活保護を廃止できる、と安易に考えているのであれば、福祉的なケア、生活扶助以外の医療扶助、住宅扶助、教育扶助などは支給しなくていいのだろうか。とてもではないが、月7万円の金額では現行の生活保護を廃止できるほどの水準ではない。単なる福祉削減の提案になってしまっている。
さらに、公的年金を廃止する際には、厚生年金も廃止するのだろうか。厚生年金は月7万円以上支給されている人も多く、その年金で高齢者施設、介護施設などに入所している人たちも大勢いる。一律で月7万円支給して、各種年金制度、社会保険制度を廃止するなら文字通り、路頭に迷う人々が出てくるだろう。
そもそも支給されている年金の大幅な不利益変更など認められるわけがない。
そして、竹中氏はベーシックインカムには所得制限を設け、所得が一定以上の人は後で返すようにするという。
前述の志賀信夫氏によれば「ベーシックインカムとは、簡潔にいえば、すべての個人に無条件で一定額を継続して給付するという政策」である。
支給に所得制限が付いている時点で、すべての個人に無条件で支給することにはならず、ベーシックインカムの要件を欠く議論になっている。
それから、そもそも「月7万円」で基本所得、ベーシックインカムと言えるだろうか。
志賀信夫氏も「最低生活に必要な額が想定されている場合もあれば、そうでない場合もあり、論者によって様々である。」と言及している通り、支給金額は議論の余地がある。
しかしながら、生活保護も公的年金も廃止されて「月7万円」渡されても困る人は多いのではないか。
さらに、健康保険制度も解体されようものなら、たまったものではない。国民年金での満額支給が7万円程度なので、この金額で十分だと言えるならば、高齢者の壮絶な貧困現場を見たらいい。
単身高齢男性のみの世帯では36.4%、単身高齢女性のみの世帯では、56.2%の凄まじい相対的貧困率を記録している(総務省2016)。つまり、国民年金程度の支給金額では貧困に苦しむ人々を生むのであり、医療や介護需要が高まった際には生活保護が必要になる。しかし、その際に生活保護は廃止されているそうだ。想像しただけで恐ろしい。
いずれにしても、竹中平蔵氏のベーシックインカム論は雑すぎる。菅首相と関係性も近く、社会的影響力があるのだから、大混乱を巻き起こさないためにも、もう少し緻密な構想を練ってから披露してほしいものだ。
藤田孝典
NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教授
社会福祉士。生活困窮者支援ソーシャルワーカー。専門は現代日本の貧困問題と生活支援。聖学院大学客員准教授。北海道医療大学臨床教授。四国学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。元・厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(生活困窮者自立支援法)。著書に『棄民世代』(SB新書2020)『中高年ひきこもり』(扶桑社 2019)『貧困クライシス』(毎日新聞出版2017)『貧困世代』(講談社 2016)『下流老人』(朝日新聞出版 2015)。共著に『闘わなければ社会は壊れる』(岩波書店2019)『知りたい!ソーシャルワーカーの仕事』(岩波書店 2015)など多数。