安倍前首相は在任中、内閣情報官と殆ど毎日会っていました。中には1日に複数回も。安倍氏以前では首相が情報官と会うのは週1(~2)回程度と言われているので、安倍氏が如何に「情報」に強い関心を持っていたかが分かります。首相がどんな情報を得ていたかは分かりようもありませんが、彼らの情報が官僚の統制や政敵への牽制、更にはメディアの統制に役立ったであろうことは容易に想像されます。
菅内閣でも情報関連のスタッフ北村滋氏は国家安全保障局(NSS)局長に、また杉田和博氏は官房副長官にそれぞれ再任されました。従来通りの布陣になるわけですが、今度は安倍政権時代に影の首相と言われた今井尚哉氏が抜けた分、権力が強まるかも知れません(官邸官僚の政策遂行のトップには例の和泉洋人首相補佐官がなります)。
Business Journalが、「菅“公安・警察”政権が誕生、霞ヶ関に緊張走る…筋金入りの警察官僚たちが政府中枢占める」とする記事を出しました。「官界に緊張が走る」というのはその通りなのでしょう。いずれにしても官邸ポリスが官僚統制の実権を握るのは陰鬱な話で、好ましいことではありません。
+ 併せて植草一秀氏の「夜明け前の暗闇菅秘密警察国家」を紹介します。
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菅“公安・警察”政権が誕生、霞ヶ関に緊張走る…筋金入りの警察官僚たちが政府中枢占める
Business Journal 2020.09.16
警察官僚たちが我が世の春を迎えている。16日に発足した菅義偉政権。その顔ぶれに、霞ヶ関の官僚たちには奇妙な緊張感が漂っている。旧通商産業省(現経済産業省)出身で安倍晋三前首相の「側近中の側近」として中央省庁を支配していた今井尚哉首相補佐官が内閣官房参与に退き、安堵した次の瞬間、「情報取集の鬼」と名高い公安畑の警察官僚らが政府中枢を固めたからだ。
■「菅首相は口が重く規律を重んじる人間が好き」
まず官僚たちのトップである官房副長官には杉田和博氏が再任された。杉田氏は警察庁警備局長、内閣情報官、内閣危機管理監を歴任した“インテリジェンス”のスペシャリストだ。2012年末の第2次安倍政権発足から現職に就き、17年からは中央省庁の幹部人事を一元管理する内閣人事局長も兼任して、中央官庁官僚の造反とマスコミの動向に目を光らせてきた。総務省関係者は次のように話す。
「杉田副長官の地獄耳は半端ではありません。どこに情報源を持っているのかわかりませんが、すべての中央省庁の動向ににらみを利かせています。今井首相補佐官がいなくなって、実質的に中央省庁の人事権は警察庁関係者で握られたと見ていいと思います」
また、事実上の日本最大の防諜機関である国家安全保障局(NSS)の局長には北村滋氏が再任された。杉田氏と同じ警察庁出身で、他国のスパイ工作などに対抗する警察庁外事情報部長などを経て、民主党政権の11年12月に内閣情報官に就任。第2次安倍政権発足後も情報官を務め、昨年9月にNSS局長に就任した。外務省関係者は今回の人事を次のように見る。
「北村さんは米中央情報局(CIA)とも非常に近い人物です。とにかく軽々に名前を出さないほうがいいと言われています。菅首相はまじめで口が堅く、規律を重んじる人物をとにかく好むと聞きます。杉田さんと北村さんは理想の官僚といえるでしょう」
■武田総務相、平沢復興相と杉田副長官の警察官僚コネクション
新閣僚である武田良太総務相(自民党衆議院議員、小選挙区福岡11区、志帥会=二階派)と平沢勝栄復興相(同、東京17区、同)の二人もまた、現役の警察官僚たちと近い人物として知られる。
武田氏の前任は国家公安委員会委員長として全国の公安委員会の実質的な責任者だった。平沢氏はたたき上げの警察官僚として知られる。1968年に警察庁に入庁後は、警察庁警備局外事課、福岡県警察本部警備部外事課長、警察庁皇宮警察本部護衛部護衛二課長、同警備局公安第三課兼外事課長補佐を経て在英日本大使館一等書記官。刑事局保安部保安課長、警視庁防犯部長、警察庁長官官房審議官、防衛庁長官官房防衛審議官などを歴任した。
経産省関係者は次のように話す。
「平沢さんも武田さんも、警察庁の公安部門、公安調査庁の関係者と強固なパイプを構築しています。おおむね入閣は二階俊博自民党幹事長の差配によるものだと思いますが、杉田官房副長官との連携はかなり怖いものがあります。公安部門の官僚はとにかく個人情報の収集と管理に長けています。何かあれば徹底的に干される可能性があります。
これまで中央省庁の主導権争いは財務、外務の2大勢力に今井尚哉補佐官の人脈を中心とした経産省が挑む構図でした。一方で、警察庁はこれまで確固たる存在感を示しながらも、国政にダイレクトに介入してくることはありませんでした。しかし、一連の人事は少しきな臭いです」
満を持して始まった菅政権は「官邸によるトップダウン」を踏襲する方針を示している。今後、政府中枢と中央省庁のパワーバランスはどうなっていくのだろうか。(文=編集部)
+ 夜明け前の暗闇菅秘密警察国家
植草一秀の「知られざる真実」 2020年9月17日
「夜明け前が一番暗い」という。「朝の来ない夜はない」ともいう。日本は夜明け前の真っ暗闇に移行したようだ。新しい内閣が発足したが高揚感がまったくない。あるのは冷たい暗闇だけ。
伊藤詩織さんに対する準強姦容疑で逮捕状が発付されたにもかかわらず、逮捕状の執行直前に警視庁刑事部長が逮捕状を握り潰した。この人物が当時の警視庁刑事部長だった中村格氏。中村氏はその直前、菅義偉官房長官の秘書官を務めていた。伊藤さんの刑事告訴を受けて捜査を行った警視庁高輪署の署員は裁判所による逮捕状発付を受けて2015年6月8日、成田空港で山口氏を逮捕するために待機した。
ところが、中村格刑事部長が逮捕状の執行直前に逮捕状の執行停止を決裁した。準強姦容疑で逮捕状が発付されたのはジャーナリストの山口敬之氏。山口氏は安倍晋三首相に取り入る著書を2016年6月と2017年1月に刊行した。刑事司法当局による犯罪もみ消しであると表現できる。その指揮を執ったのが菅義偉氏であると推察される。これが事実なら「真っ暗闇」だ。
安倍内閣が長期化した第一の理由は刑事司法の不当支配。刑事司法不当支配の司令塔が菅義偉氏であったと見られている。安倍内閣の刑事事件事案はことごとくもみ消されてきた。
森友、加計、桜は、すべて刑事事件として立件するべきもの。重大犯罪がもみ消されてきた。甘利明氏、下村博文氏の事案も刑事事件として立件するべきものだった。刑事司法を不当支配することで政権の重大犯罪が闇に葬られてきた。その重大犯罪もみ消しに尽力してきたと見られているのが黒川弘務元東京高検検事長だ。
黒川氏と直接深いつながりを有したのが菅義偉氏であると見られている。黒川氏は2011年8月から2020年5月までの約10年間にわたって検察・法務行政の中枢に位置した。検察首脳会議に出席して政権の意向を刑事事件捜査に反映させてきたと見られている。
安倍内閣は黒川氏の定年を延長し、黒川氏を検事総長に引き上げようとしたが失敗した。刑事司法不当支配を維持するための目論見だったと考えられる。「刑事司法不当支配」の司令塔として行動してきた中心が菅義偉氏であると考えられている。
安倍内閣が長期化した第二の要因はマスメディアの不当支配である。マスメディアの不当支配においても菅義偉氏が司令塔の役割を担ってきたと考えられる。NHKの最高意思決定機関は経営委員会。経営委員会がNHK会長を任命する。副会長と理事は会長が経営委員会の同意を得て任命する。経営委員会の委員は内閣総理大臣が任命する。つまり、内閣総理大臣が経営委員会の人事権を濫用するとNHKを支配できてしまう。安倍首相はこの手法でNHKを私物化した。その私物化の際に、NHK内部の事情に通じ、NHK人事を通じてNHK支配の司令塔になったのが菅義偉氏であると見られる。
メディア支配の両輪はNHK支配と民間メディア支配。民間メディアはスポンサーである大資本に支配される。放送法の所管官庁は総務省で、総務省の許認可権限を濫用することによって民間メディアは不当支配の下に置かれてしまう。その民間メディア支配の司令塔を担ってきたのも菅義偉氏であると見られるのだ。
菅氏はさらに重要なもうひとつの役割を担ってきた。公明党との橋渡しだ。自民党は単独で政権を維持できない。公明党の力が必要不可欠。その公明党との橋渡しを担ってきたのが菅氏と二階俊博氏だ。日本は完全な暗闇に包まれたが、逆説的に言えば、夜明けが間近に迫っているということになる。