2020年9月6日日曜日

次期首相は「安倍路線の継承」だけでは済まされない(舛添 要一氏)

 舛添要一氏のコロナ禍対策関連の論文を紹介します。JBpress版の第4回目の紹介になります。
 舛添氏の指摘は、元厚労相の経験に基づいて、何時まで経っても政府が的確なコロナ対策を打てない根源的な原因が厚労省(の医系技官と感染研メンバーを中心とする分科会)にあることを見抜いた上なので説得力があります。
 詳細は今回の記事及び過去の一連の記事の通りです。
 
 次期首相になると見込まれている菅氏がコロナ禍対策についてどんな問題意識を持っているのか不明ですが、もしも安倍氏と同様程度のものであるのなら話になりません。
 少なくともこれまで全く用を為さなかった加藤厚労相を更迭し有能な人材を登用することが必須ですが、それすらも実現するのやら・・・ というところです。

 菅氏には「安倍路線の継承」だけでは済まされないことを良くよく認識して欲しいものです。
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次期首相は「安倍路線の継承」だけでは済まされない
 舛添 要一 JBpress 2020/09/05
国際政治学者   
 自民党総裁選は、9月8日告示、14日投開票で決まった。石破茂、岸田文雄、菅義偉の3人が立候補した。
 今回は緊急事態だとして、通常の党員・党友は参加せずに、自民党国会議員394票、47都道府県に割り当てられた各3票(141票)の535票の取り合いで総裁を選出する。多くの都道府県連では、党員による予備選を行い、それぞれが持つ3票を誰に投じるか決定する模様だ。もっとも選挙もまだ始まっていないのに、主要な派閥が雪崩を打つかのように菅支持を表明し、すでにレースは決着したかのような様相を呈している。
 細田派が98人、麻生派が54人、竹下派が54人、二階派が47人、石原派が11人、いずれも菅を支持し、無派閥議員の多数もこれに加わる。その結果、地方票141票を全て失っても、菅が過半数を制すると見られている。石破は自派の19人、岸田は自派の47人の支持を確保しているのみである。
 もう少し票が分散していれば、地方票の動向を見極めて、投票先を変更する議員も出てくるだろうが、ここまで議員票が一人の候補に集中すれば、地方票のいかんに関わらず番狂わせは起こりにくい。選挙は水物なので、まだ何が起こるか分からないが、菅内閣総理大臣の誕生を念頭に置いて、次期首相の課題について論じてみたい。

安倍政権が生んだ「格差拡大」は是正しなければならない課題
 第一は、安倍政権の政策を「継承する」という点である。この点では、菅は、石破や岸田と大きく異なる。石破は「納得と共感」をスローガンに最近の安倍政権を厳しく批判してきたし、岸田もまた「分断から協調へ」というスローガンを掲げ、格差の是正などを訴えている。これは、アメリカ社会を分断させたトランプ政権を批判するバイデン民主党候補の立場に似ている。
 たとえば、アベノミクスが景気を回復させたのは評価できるが、それを継承する場合、「格差の拡大」というマイナス点の是正を試みる必要がある。具体的に、どのような政策によって、その是正が可能なのか、明確な対応策が必要である。
 中央と地方の格差については、菅は「ふるさと納税」というアイデアを出してきた。しかし、それはあくまでも弥縫策であり、抜本的な解決策ではないし、弊害もまた指摘されている。

コロナ対策も「継承」では困る
 新型コロナウイルス対策は、喫緊かつ最大の政策課題である。PCR検査の不徹底など、安倍政権の対応は褒められたものではなく、それが第二波の到来となった。安倍退陣の直接の原因は持病の潰瘍性大腸炎の悪化であるが、その背景には政府のコロナ対策への国民の厳しい評価がある。
 屋台骨として政権を支えてきた菅官房長官にもその責任はあり、単なる政策の継承では困るのである。日本の官僚機構に対して改革のメスを入れるというのは、菅の一貫した立場であり、それを厚労省や感染研の改革に適用してもらいたい。少なくとも、PCR検査が容易かつ迅速に実行できる体制を整えなければならない。それができないまま、第三波、第四波を迎えるようなことがあれば、政権への支持は急速にしぼんでしまうであろう。
 新型コロナウイルスのワクチン接種の優先順位をどうするか、また、費用は誰がもつのかなどの問題について既に議論が始まっている。政府は、コロナ患者に接する医療従事者や高齢者と基礎疾患のある者を優先順位の上位に置き、彼らの接種費用は無料とし、経費は予備費を充てる方針である。
 また、副反応による健康被害(副作用)について訴訟が生じた場合、製薬会社が払う賠償金を政府が肩代わりする方針である。また、副作用によって死亡したり障害者になったりしたときの、医療費や障害年金を給付すことも検討しているという。
 この方針は是としても、実は、コロナ対策については、それ以前に実行すべき課題が山積している。それは、本欄で私が何度も繰り返し主張してきた通りである。
(参考記事:なぜこの期に及んでもPCR検査は増えないのか 

 とくに、感染症法を抜本的に改正し、陽性の無症状者が感染を拡大させるという今回のウイルスの特性に応じた対応が可能になるようにすることが肝要である。厚労省は、法改正ではなく「通知」の形で軌道修正し、抜本改正を避けようとしているが、それは間違っている。
 感染防止と経済を両立させるためにも、たとえば、営業を「自粛」させるのではなく、「強制」できるようにし、その分、補償をするという仕組みを法に書き込む必要がある。この点については、総裁選の過程で、各候補の見解が述べられるであろうから、さらに議論が進むことを期待したい。
 要するに、国民の関心の最も高い新型コロナウイルス対策については、安倍政権の単なる継続では、問題が多すぎるということである。

忖度行政を引き起こすことになった内閣人事局
 その関連で、第二に、霞が関の官僚機構の改革の方向が問題である。霞が関の省庁の縄張り争いについて、かねてから「省あって国なし、局あって省なし」と言われるような状況であった。その弊害は、実際に大臣として一つの省の舵取りをするとよく分かる。
 そこで、この縦割り行政を改革し、一省庁のためではなく、国家全体のために働く官僚を養成することを考えたのである。つまり、各省の幹部人事については、内閣総理大臣を中心とする内閣が一括して行い、政治主導の行政運営を行えるように制度を変えようという方向の議論になったのである。
 こうして、第一次安倍政権のときに、「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」が設置され、次の福田康夫内閣に「内閣人事庁」構想として提案された。この提案は「内閣人事局」として法案の成立まで行ったが、次の麻生太郎内閣で設置が見送られた。その後、政権交代があり、構想は頓挫したままであったが、政権に復帰した安倍第二次内閣が、2014年5月30日に内閣人事局を正式に設置したのである。
 私は、第一次安倍、福田、麻生内閣で厚労大臣のポストにあったので、この方向での改革には賛成であった。しかし、内閣人事局の発足から6年余りが経過した今、振り返ってみると、プラスよりもマイナスのほうが大きくなっている。制度自体に問題があるのではなく、運用に歪みがあったのであり、今やその弊害が噴出している
 それは、忖度行政であり、自民党内における安倍一強体制である。人事権が官邸に移るということは、皆出世したいので、幹部官僚は官邸のご機嫌を伺うようになる。それが、森友、加計、「桜を見る会」に見られるような忖度行政につながったのである。
 そして、それはアメリカのスポイルズ・システム(猟官制度)に近づいてくる。建国以来、アメリカでは政権交代があると、主要官庁の幹部のみならず、町の郵便局長まで交代させられるという流れであった。これがスポイルズ・システムである。
 アメリカのような大統領制ではともかく、日本のような議院内閣制でこのシステムを作動させるのは害のほうが多い。官僚機構というのは、政権が変わっても、きちんと省として守らねばならないものがある。それが近代官僚制であり、常備軍と並んで近代国家の礎である。

政権復帰直後、「民主党政権に協力した」として幹部官僚を次々飛ばした安倍政権
 私が厚労大臣だったとき(2007〜2009年)、優秀な官僚を抜擢して厚労省の大改革を断行した。2009年夏の総選挙で政権が民主党に移り、その後2012年12月の総選挙で自民党が政権に復帰した。民主党政権下でも、私が抜擢した優秀な幹部官僚は大活躍したが、その後を継いだ安倍政権は「民主党政権に協力した」という理由で、彼らを左遷してしまった。その結果、厚労省は幹部に人材が欠け、今回の新型コロナウイルス対策でまともな対応が取れないのである。
 しかし、官僚は国民が選んだ政権に従うのが義務であり、私が大臣時代に活躍した役人たちは、民主党政権下でも職責を果たしたのである。少なくとも医療政策、感染症対策については、民主党政権は舛添大臣の政策を継承したのである。それだけに、この人事は許しがたいものであった。
 安倍政権下での内閣人事局の運営は、忖度官僚を生み、世界に誇ってきた日本の官僚制の土台を腐らせてしまった

 官僚機構のみならず、自民党の運営にも官邸への権力集中が大きな影響を及ぼしている。好例が、河井克行夫妻の公職選挙法違反疑惑である。人事とカネを握ることによって、党内支配を貫徹させる。立候補する候補者に選挙運動資金として通常は1500万円を支給する党が、河井陣営には10倍の1億5000万円を渡している。
 参議院の広島選挙区には、自民党から現職の溝手顕正議員が立候補したが、彼は安倍を不愉快にさせたことがある。この人物が落選し、河井案里候補が当選することを願っての10倍支給というのなら、私情から出た差別ではないかという疑問が呈されても不思議ではない。これでは、自民党議員もまた官邸の意向を忖度し、総理総裁の茶坊主となるのは当然である。
 しかも、各官庁から派遣される首相の秘書官の在任期間が長すぎた。首相であれ、大臣であれ、秘書官は2年くらいで交代させるのが普通であり、首相や大臣の好き嫌いや好みが考慮されるわけではない。
 ところが、安倍政権の下では、それとは逆のことが行われていた。その結果、選挙で選ばれたわけでもない官僚が異常な権力を持ち、世間の常識も通じなくなってしまったのである。アベノマスク、アベノコラボ、Go To Travelキャンペーンと、失敗例が目の前にたくさんある。
 結局、この人事がコロナ対策の失敗を生み、安倍退陣を早めたのだから皮肉である。その官邸で役人を仕切ってきたのが菅官房長官である。官邸官僚を一掃し、新しい陣容にしないまま継承するのならば、目の前にあるのは政権の失敗である。

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