2020年9月8日火曜日

アベノミクスの終幕 重くのしかかる負の遺産

 安倍政権は史上最大の在任期間を達成しましたが、残したのは負の遺産だけでした。その概要は別掲の記事で述べられている通りです。

 安倍首相はアベノミクスを目玉政策にして来ましたが、それがもたらしたものは結局大企業の史上空前の内部留保と「官製株価」、そしてそれに伴う投資家や富裕層の大儲けだけで、眼目とした「デフレ脱却」は7年掛けても実現できませんでした。
 大企業が大儲けをしても当初宣伝したトリクルダウンは起きず、国民の生活は貧しくなる一方でした。過去20年間で各国の労働者の実質賃金は驚くほど上昇しましたが、唯一日本だけは8%も下落しました(内6%が安倍政権下)。

 さすがに安倍首相も末期の段階ではアベノミクスに言及しなくなりましたが、触れなければ済むと言う問題ではありません。
 その野放図な大盤振る舞いによって国の借金は200兆円も増え、日銀が肩代わりした国債の総額は500兆円に達しました。
 年金資金を株式投資に回したことや日銀のETF投資を大幅に増やしたことによって、いまは株価は高レベルを維持していますが、先行は不安の一語に尽きます。そもそも巨額のETF投資がいつまでも続けられる筈はなく、縮小されれば株価は維持できません。

 何よりも年金資金の投資分については巨額な損失が出る前に回収しなければならないのですが、それには「株を売る」しかないので株価の大暴落を引き起こします。そのことは当初から分かっていたことなのに、安倍首相は「出口論」の見つからない政策に敢えて踏み切ったのでした。
 アベノミクスが如何に無責任なものであるかを如実に示しています。

 8月31日、毎日新聞と北海道新聞がアベノミクスの終焉についての社説を出していますので紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
社説 アベノミクスの終幕 重くのしかかる負の遺産
毎日新聞 2020年8月31日
 華々しく登場したが、大きな成果は残せず舞台を去る。安倍晋三首相の最大の目玉政策、アベノミクスは、実を結ばずに散る「あだ花」のように終わる。
 滑り出しは上々だった。2012年末の第2次安倍政権発足と同時に景気回復が始まり、1万円程度だった日経平均株価は5カ月で1万5000円台に急上昇した。
 デフレ脱却を掲げた首相は大胆な金融緩和と積極的な財政出動を打ち出して、株式市場の期待を高めた。ニューヨークで投資家に「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買い)」と誇らしげに呼びかけたのもこのころだ。
 訪日観光客も急増した。政府によるビザの要件緩和に加え、日銀の異次元緩和で円安が進み、割安な旅行先と人気を集めた。「爆買い」は景気の追い風となった。
 だが勢いは続かなかった。成長率は年平均1%程度と低いまま、今から2年近く前に後退局面に入った。政府が触れ回った「戦後最長の景気回復」も幻に終わった。

巨額の借金で株高演出
 誤算の最大の要因は、賃金が伸び悩んだことだ。円安に伴い、大企業は輸出で潤った。だが国民には十分還元されず、景気の柱である消費は低調だった。
 格差問題も深刻化した。首相は雇用改善を強調したが、賃金が低い非正規労働者が大半だった。一方、株高の恩恵を受けたのは富裕層などに限られた。景気回復と言われても、多くの国民にとって実感が乏しかったのは当然だろう。
 それでも首相は「政権安定の生命線」と位置づけた株価対策に力を注いだ。借金である国債を増やしてでも、財政の大盤振る舞いを繰り返した。日銀も国債を買い支えた。株価は2万円台に乗せたが、景気の実態とかけ離れた官製相場」にほかならなかった。

 金融緩和と財政出動だけでは景気を刺激しても一時的で終わるのが通例だ。民間主導の成長にバトンタッチできなければ、本格的な回復は望めない。アベノミクスも金融、財政に続く第三の矢として成長戦略の強化を目指した。
 首相は選挙のたびに成長戦略と称して「地方創生」「1億総活躍社会」「人生100年時代」などと耳目を引く看板を掲げた。
 本来なら、いずれも政権が全力を挙げて取り組むべき重要なテーマである。しかし、首相は看板を頻繁に取り換えた末、どれも中途半端に終わらせてしまった
 成果が乏しいまま、財政・金融政策のアクセルを踏み続けた結果、残ったのは借金の山である
 国と地方の借金残高は今年3月末で1100兆円を超え政権発足時から200兆円近くも膨らんだ。20年度に財政を立て直す目標もあったが、首相は5年も延期した。膨大な「負の遺産」は将来世代に重い負担としてのしかかる。
 500兆円もの国債を持つ日銀の信用も揺らぎかねない。国債の金利が上昇すると、巨額の損失を抱えるからだ。円が急落するなど経済が混乱する恐れがある
 首相は消費増税を2回実施した。とはいえ先送りを繰り返したうえ、手厚い景気対策も行い、逆に借金を増やした。景気への配慮は必要だが、国民に痛みを求める以上、無駄な歳出を削り、財政立て直しの道筋を示すべきだった。

展望なき政策の転換を
 安倍政権の根源的な問題は、高齢化や人口減少といった日本社会の大きな構造変化を踏まえた長期展望を欠いていたことだ。
 高齢化に伴い、社会保障費は増え続けている。しかも政府は、15年に1億2000万人台だった日本の人口が65年には8000万人台にまで減ると予測している。働き手が少なくなれば、1人あたりの負担はますます重くなる。
 ところが、首相は将来の厳しい姿に向き合おうとしなかった。政府の人口予測も直視せず、「50年後も1億人維持」というスローガンを掲げ続けた。
 高齢化と人口減少を乗り切る財政を構築するには、幅広い世代の負担増が避けて通れない。首相は問題を棚上げしたまま、政権の幕引きを図ろうとしている。
 日本経済は今、新型コロナウイルスの感染拡大で危機に直面している。安倍政権はコロナ対策として巨額の財政出動に踏み切り、借金はさらに積み上がった。
 国民生活を守る支出は惜しむべきではない。だからといって、将来のつけを増やすだけの無責任な膨張は許されない。次期政権は長期展望をきちんと示すべきだ。


検証・アベノミクス 好調を演出し傷口広げた
北海道新聞 2020/08/31
 経済政策「アベノミクス」を掲げて再登板した安倍晋三首相は、目指す経済の好循環が一向に実現せず「道半ば」と繰り返してきた。
 長く続く円高とデフレ不況の中で発足して7年8カ月。安倍政権は円安による企業業績の改善や株高などを成果として誇ってきた。
 ただデフレ脱却はおぼつかなく、よりどころとした「成果」も新型コロナ禍で吹き飛んだ。眼前にあるのは格差拡大や将来不安、非正規雇用の増加などの諸課題だ。
 「道半ば」どころか、とうに行き詰まっていたと言っていい。安倍政権は日本経済に何を残したのか、冷静に問い直す必要がある。

■格差の拡大さらに
 アベノミクスの柱は、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」だった。
 だが実態は、第1の矢である金融緩和一辺倒ではなかったか。
 確かに、異次元と称する日銀の大規模緩和は円安をもたらし、輸出型大企業の業績を好転させた。雇用関連の指標が改善し、日経平均株価は2万円台に上がった。
 なのに政権の想定に反し、大企業や株を持つ富裕層から富がしたたり落ちるトリクルダウンは起きず、実質賃金は低迷したままだ。
 恩恵が大企業などに偏った結果、所得や地域の格差は拡大した。
 弊害はそれだけではない。
 日銀は国債の大量購入を通じて資金供給を続けた結果、発行済み国債の半分近くを保有する。
 国の借金を穴埋めするために日銀が紙幣を量産しているかのような状態は異常で危うい。将来、金利が急騰したり日銀の財務が悪化したりするリスクもはらんでおり、早期に正常化を図る必要がある。
 株価を下支えするために日銀が大量に買い入れた上場投資信託(ETF)も同様だ。市場で売る以外の「出口」はないが、株価への悪影響が避けられない
 第2の矢の財政出動は国の借金を空前の規模に膨らませ第3の矢の成長戦略も効果が乏しい。

 「女性活躍」「地方創生」「働き方改革」…。耳目を引く看板を次々と掛け替え、いわゆる「やってる感」を演出してきただけだと言われても仕方ない。
 環太平洋連携協定(TPP)など巨大通商協定を成長戦略に位置づけ、農産物の貿易自由化を推し進めたことも忘れてはならない。
 「攻めの農政」をうたいながら、自動車など工業品の輸出増と引き換えに農業に犠牲を強い、食料自給率を高めるための腰を据えた取り組みは置き去りにされた。

■定石外した消費増税
 安倍首相は消費税率を2014年に5%から8%へ、昨年には10%へと引き上げた。
 増税のたびに消費が大きく落ち込み、経済は冷え込んだ。実施を決めたのは民主党政権だが、増税時期やその前後の景気対策が適切だったのか、検証が必要だ。
 政府は先月、政権発足と同時に始まった景気拡大が、2年前に終わっていたと認定した。コロナ禍の影響が顕在化するまで「回復」をアピールし続けたことになる。
 景気後退局面での10%への引き上げは、景気拡大期に実施して悪影響を最小限に抑えるという増税の定石を外していたと言える。
 国民には経済のプラス面ばかりを強調して安心させ、重い負担を強いる増税を強行する―。安倍政権の経済政策は、不誠実なその場しのぎの連続だった。
 背景には、経済面の実績を金看板に据える政権の特質がある。10%への増税を2度先送りし、「国民に信を問う」などと国政選挙の争点に利用した。経済政策のゆがみの要因になった可能性がある。
 増税後も針路は定まらない。
 使途の一部を幼児教育無償化などに変更したものの、少子化に歯止めをかける有効策や、高齢化で費用が膨らみ続ける社会保障の将来像を示すことはなかった。
 困難な課題にしっかりした道筋をつけることこそが、長期政権の使命だったはずだ。

■地に足ついた政策を
 経済の傷口が広がったところにコロナ禍が襲った。後継首相がまず取り組むのは感染収束と、歴史的に落ち込む経済の立て直しだ。
 同時に、少子高齢化と人口減が加速する中でも安心して暮らし続けられる持続可能な社会づくりを進めなければならない。
 非正規が増えて雇用が不安定なままでは安心にはつながらない。
 農業や介護の担い手を増やし、外国人客に過度に依存する観光を見直すなど内需主導で地域経済の足腰を強めることも欠かせまい。
 必要なのは心地よいスローガンではなく、地に足がついた政策だ。
 コロナ収束後は、効果より弊害の方が大きくなった金融緩和の手じまいも検討せねばなるまい。市場を混乱させずに出口へどう導けるのか、難題が重くのしかかる