安倍内閣がようやく終焉します。
「天下は麻の如くに乱れる」というのは戦国時代を表す言葉ですが、それが終わってから数百年が過ぎているのに、あたかも再来したかのような7年8ヵ月でした。
憲法を無視し、政治は勿論のこと国会のあり方をゆがめ、官僚のあり方をゆがめ、世論を無視しただけでなく、無法・違法な政治的行為は数え切れず、結果として世の中のモラルを著しく退廃させました。
(一方、安倍首相が病気を理由に退陣するのは、河井夫妻の買収容疑に関連して自分が訴追されることに怯えているからという説があります。彼がそんな違法の認識を持っていること自体にまず驚かされます。)
日刊ゲンダイの連載記事(週1)「日本外交と政治の正体(孫崎 享氏)」に「第2次安倍内閣の終焉 日本は国家破滅の道から戻れるのか」が載りましたので紹介します。
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日本外交と政治の正体
第2次安倍内閣の終焉 日本は国家破滅の道から戻れるのか
孫崎 享 日刊ゲンダイ 2020/09/04
7年8カ月にも及んだ第2次安倍内閣も終焉を迎える。
この長き間で何が達成できたのだろうか。
経済を活性化させるとして打ち出したアベノミクスは失速。新型コロナウイルスの感染が拡大する以前から、すでにゼロ成長に突入し、新型コロナ後のGDP(国民総生産)は安倍政権の発足時にまで落ち込んだ。
外交では米国のトランプ大統領との個人的友好関係は築いたものの、日本にもたらした利益はない。北方領土問題も拉致問題も進展はみられず、振り返れば何の前進もない。
安倍政権という存在を考える時、思い出すのは福田康夫元首相の言葉だ。福田元首相は2017年8月のインタビューでこう言っていた。
「各省庁の幹部は皆、官邸(の顔色)を見て仕事をしている。恥ずかしく、国家の破滅に近づいている」
この状況は官界のみならず、自民党議員、マスコミ、学界などにも拡散された現象である。日本という国を動かそうと何らかの形で関与している人々からは「あるべき姿を追求しようとする姿勢」は失われ、もはや対処不能となってしまった。
安倍首相の後、日本政治は新しい時代に入る。はたして我が国は、福田元首相が語っていた「国家の破滅に近づいている」状況から脱することができるのであろうか。
我が国の基本は「民主主義」と「自由主義」である。国民の意思ができるだけ反映される――という国を目指しているはずである。
読売新聞が8月7~9日に実施した全国世論調査によると、安倍内閣の不支持率は54%となり、12年12月の第2次安倍内閣の発足以降で最高となった。<次の首相には、誰がふさわしいと思いますか>との問いに対し、石破氏が24%、小泉氏が16%、河野氏が13%、菅氏が4%、岸田氏が4%だったという。
この選択が正しいかは別として、今の自民党にこの世論調査を十分踏まえた上で後継者を選ぼうという意思があるのかといえば、ないだろう。自民党内の空気は「安倍内閣継承」である。つまり国民の54%が不支持としている体制を優先しようというのである。
考えてみると、安倍政権は世論を無視して生きながらえてきた不思議な政権である。13年12月の特定秘密保護法は賛成24%に対し、反対は60%だった。15年9月の安全保障関連法でも賛成34%に対し、反対は53%。17年6月の共謀罪でも賛成42%に対し、反対は44%だった。
繰り返すが、我が国の基本は「民主主義」と「自由主義」である。それを無視する政権を持つ国は破滅が待つだけである。
孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。