安倍晋三氏は7年半の長期政治のなか、最大の目玉だったアベノミクスは何の成果も上げず、国(と地方)の借金残高を200兆円近くも膨らませ、日銀の国債残高を370兆円膨らませた挙句、大企業と富裕層を富ませ国民を貧しくしました。あらゆる反動立法を行い、憲法違反の戦争法制も作り上げ、米国にこれなら憲法改正(改悪)は不要とまで言わせました。戦後築かれてきた民主主義を破壊し、国と社会のモラルを破壊しました。
そんな何一つ取り柄はなく害悪の集積であった内閣がなくなれば、安倍晋三氏などは一顧だにされなくなり、なによりも国と社会の再興を目指すだろうと誰しもが考えた筈でした。ところが事実は違いました。先ず安倍氏が退陣を表明した途端に支持率が大幅にアップしました。要するに安倍氏排撃の動きなど何も起こらずに、何と安倍氏による院政の体制が進みつつあるということです。一体何が起こり、日本はどうなったのでしょうか。どうも日本の社会はマスコミの思うがままに動かされるという要素がありそうです。
世に倦む日々氏が、そうした動きに率直に戸惑いを表明しつつこのところの社会の動きを洞察しています。曰く「今度の政治は『勝ち馬に乗る』というような自然な流れではなく、もっと不気味で寒気のする権力闘争の真相があり、戦略的に設計されたマヌーバー(⇒機動作戦)があり、目標と工程が綿密に管理された謀略の刻一刻だったはずだ。ギラギラした露出狂の独裁権力が、歌舞伎の『引抜』のような一瞬の間合いで、おどろおどろしい院政体制へと編成替えした政治だった」としています。
以下に紹介します。
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石破茂へのリンチと安倍晋三の神格化 - 院政への政変工作と安倍マスコミの恩返し
世に倦む日々 2020-09-16
総裁選の過程で行われた石破茂へのリンチ攻撃は、獰猛で凄惨で苛烈だった。巨大ないじめショーだった。14日の午後だったか、TBSの井上貴博が石破茂にインタビューする場面があったが、「ご自身の政治生命が終わるという声もありますが」などと、菅陣営に立った立場で追い打ちをかける言葉を乱暴に発し、石破茂にとどめを刺す打撃を容赦なく加えていた。地方の自民党支持者で石破茂を応援した者、党員投票で石破茂に入れた者に対して見せしめを行っている。石破茂の政治生命を絶つべく、マスコミが総がかりで動いている。2010年の参院選前後の小沢系議員に対する掃討排除劇を彷彿させるような、見ていて息苦しくなる迫害と虐待が行われ、石破茂の人格と名誉を傷つけていた。見ながら、判官贔屓の日本人の心性がどこかで発動して、石破茂を排撃するマスコミを批判する声が上がるかと思ったが、それはなく、水に落ちた犬が棒で袋叩きされるままだった。今の日本社会の映し鏡なのだろうと直観する。
これまで、石破茂は、マスコミの世論調査で、次の総理として期待する政治家の支持率トップを走っていた存在であり、日本の政治世界で決して異端の悪役ではなかった。 むしろ善玉だった。マスコミは、森友事件や桜を見る会の問題が起きたときは、真っ先に石破茂のコメントを撮って流し、与党の中からも批判の声が上がっていますと積極表象の配役で報道していた。自分たちの言いたい安倍政権批判を石破茂に言わせ、世論の喚起を促していた。石破茂はマスコミの注文に応え、的確で辛辣な安倍批判のメッセージを発していたのだ。石破茂はマスコミにとって貴重な政界の資産であり、ある意味で頼りの綱の言論の公共財だったと言える。自民党内でただ一人、歯に衣を着せず果敢に安倍批判の舌鋒をふるう石破茂は、自民党の中に健全なバランス機能があることを証明する唯一の存在でもあった。ゆえに石破茂はマスコミに重宝され、世間の正論を代弁する役割を担わされ、必然的に世論での人気と期待を高めていた。その石破茂を、一夜で罪人のようにして取り囲み、無慈悲なリンチで失墜させ、平気で無価値化させるマスコミの行動に絶句する。
総裁選の政治は異様な政治であり、マスコミが表面で報じているような単純な正体ではない。一瞬で世の中が変わり、まさに価値観が転換した。世論調査の数字の急変は、キツネにつままれるような現実だが、その統計を否定する根拠をわれわれは持たず、歯噛みして認めるしかない。一瞬で、安倍晋三は現人神のような絶対的価値の体現者に化けた。病気で辞任するとなった途端、そんな同情票がどこから降って湧くのか不思議だが、支持率が2倍になり、菅義偉の後継を支持する世論が圧倒的という状況に転じた。正義の士だった石破茂は邪悪で穢らわしい賊徒とされ、価値剥奪され、罵倒と侮辱を浴びせられて嘲笑される悪人となった。総裁選過程での安倍晋三の神格化は異常で、71歳の菅義偉が65歳の安倍晋三に示す態度は、戦前日本の昭和天皇への崇拝と信仰そのものだ。あの帰依が本心からのものかどうか、こちらは見当のつけようもないが、後藤謙次などが「祝典」を演出し、常識化させ、この政治を当然のものにして固めている。少し前までは、アベノマスクとコラボ動画でマスコミに揶揄されていた安倍晋三が、この国の最高権威のシンボルになった。
菅内閣は、まさしく第三次安倍内閣である。ここまで極端で過激な院政内閣になるとは、私は予想もしていなかった。唖然とする。新官房長官は、最初は菅義偉の意中は森山裕か梶山弘志だろうと報じられていた。だが、途中で雲行きが変わり、加藤勝信と萩生田光一の名前が浮上し、加藤勝信に決定する。明らかに安倍晋三の思惑が直裁に影響した人事であり、安倍晋三の推選が菅義異に伝えられ、菅義偉がそれに服して従っている。麻生太郎の副総理・財務相の再任は、当初は、副総理で閣内に止まっても財務相は外れるだろうという見方だった。菅義偉の意向が側近を通じてマスコミにリークされ、すなわち観測気球が上げられて反応が窺われていた。財務相を外されたら、麻生太郎は失脚も同然で、森友問題で真相を内部告発されて身を破滅させかねない。二人は仲が悪い。おそらく、麻生太郎が安倍晋三のところに駆け込んで泣きつき、安倍晋三が介入して当初案をひっくり返したのだろう。組閣の人事内容は、安倍晋三の手による、安倍晋三のお仲間内閣の延長としか言いようがない。官房長官職が首相職になり、首相職が新設の上首相職となった。院政である。
私は、安倍晋三が退陣したら、誰が次の総理総裁になっても、院政体制への移行は無理だろうと想定していた。安倍独裁の権力モデルは、総理の職権を安倍晋三本人が握って、その権能を官邸官僚を動かして恣(ほしいまま)に奮い、テレビを使ってポピュリズムを起動させ操縦することによって、はじめて機能し実効性が担保される。また、安倍晋三がトップだから選挙に連戦連勝できる。と、そう分析していたからである。安倍晋三という疑似カリスマが官邸から離れたら、この特異な権力構造は瓦解するしかなく、元の平板で凡庸な自民党政権に戻るものと楽観していた。しかし、全く予想外なことに、この朽ち果てるべき疑似カリスマは、退陣で元首相の只の人に降りるのではなく、「上首相」という権威的象徴に上昇する道へ進み、相変わらず、同じ部下たちが「まつりごとたてまつる」構造を維持する展開となった。丸山真男的に言えば、正統のローカス(⇒位置)を新設した。安倍政治がそのまま続く。手品を見ているような気がする。あれほど安倍晋三のコロナ対策の失敗を笑っていたマスコミが、突然、安倍晋三を神のように拝跪し絶賛し始め、菅政権への神聖な継承を賛美し奉祝している。
この政治を見て、何を感じ想像すべきだろう。やはり、裏があり狙いがあると考えざるを得ない。謀略の契機がある。安倍晋三は、病気辞任の破局に遭遇しつつ、逆にこれ幸いと、禍を福となす権謀術数をめぐらし、四選を諦める代わりに院政を構築する策に出たのに違いない。狙いは石破茂潰しであり、来年の総裁選を待たず、石破茂の政治生命を奪う挙に出たのだ。石破茂が党内で生命力を張って、地方自民党員の支持を集めているという環境がある以上、桜を見る会の刑事告発が受理・捜査へと及んだとき、自らの失脚 - 最悪は夫婦とも逮捕 - に及ぶ危機を回避できない。石破茂が二度と総裁選に出てくることがないよう足場を完全破壊すれば、政治の流動性を止め、検察の捜査を未然に阻止することができる。森友事件も同じである。今回、菅陣営は徹底していて、地方票も議員票もすべて読み切っていた。計画どおりに数を固め、岸田文雄に票を流して2位にし、マスコミに石破茂を叩かせた。間髪を置かず石破派に手を突っ込んで切り崩し、石破茂を孤立させ、石破派の解散を誘導している。14日夜のBS日テレの番組で、鴨下一郎が早くもそれを口にしたのには驚いた。手回しがよすぎる。
このクーデターとも言える電光石火の石破潰しと院政構築の政治が成功した理由は何だろうか。それは、安倍晋三の兵団の一糸乱れぬ作戦行動とご奉公である。9月に入って以降、テレビや新聞などのマスコミ報道(特に毎日)も、現代ビジネスなどヤフートップの画面下に連なって掲示されるネットのマスコミも、毎日毎日、執拗に石破茂へのネガティブキャンペーンを張り続けた。これでもかとネガキャン情報を溢れさせた。ネガキャンの記事には、ルックスの悪い石破茂の顔写真をアップで貼り付けていて、イメージを落とす作戦意図があることは瞭然だった。私は、いわゆる安倍マスコミの軍団が総結集して戦闘に及んだ図を想像する。感謝と忠誠を誓う安倍晋三への恩返し。安倍晋三のイデオロギーに共鳴し、安倍晋三の7年半の独裁治世に協力加担し、その結果、出世し、成功し、地位と報酬を得た者たちは多い。ただの無能な右翼で終わるところを、安倍晋三のおかげで組織の中で栄達を拾い、役職と年収と権勢を手にした者は多い。7年半で勝ち組になった者たち。その安倍恩顧の者たちが、ここぞと一斉蜂起した図ではないか。かかる者たちは、石破茂にグレートリセットされたら困るのであり、現在の立場を失ってしまうのだ。
そうした動機が窺える。今度の政治は「勝ち馬に乗る」というような自然な流れではなかった。そのような表現で実態を捉えることはできない。もっと不気味で寒気のする権力闘争の真相があり、戦略的に設計されたマヌーバーがあり、目標と工程が綿密に管理された謀略の刻一刻だったはずだ。ギラギラした露出狂の独裁権力が、歌舞伎の「引抜」のような一瞬の間合いで、おどろおどろしい院政体制へと編成替えした政治だった。