ある種の人にとって組織の人事権を握れることは至福の万能感を持つことにつながるようです。密かにそれを持つのは自由ですが、その権力を遺憾なく発揮するために「政策に反対するのであれば異動してもらう」と高言するというのは余りにも軽薄です。「選挙で選ばれた政治家は官僚に優先する」というのはある局面においては真理でしょうが、万能の原理などではありません。「ふるさと納税制度」とその返礼システムを仮に「良し」としても、返礼品の限度額を納税額の何割に抑えるべきかは、税法の主旨と税体系との整合性からどこまで許容されるかという技術的な問題であり、単なる思い付きや政治的判断で決めていいものではありません。
菅官房長官(当時)は、添付された資料に目を通すこともなく官僚の進言を「水をかけるな」の一言で却下しただけでなく、事務次官候補の1人と目されていたその官僚を次の定期異動で左遷したのでした。余りにも理不尽で、それが14年に導入された内閣人事局の趣旨に合致したものとは到底思えません。
官僚は、末端に至るまで天下り先が完備されているなど長い間に確立された特権を有しています。庶民に比べて遥かに高額な年金のレベルなどは全体のバランス上是正されるべきでしょう。コロナ禍において厚労省の医系技官グループがPCR検査拡充の障害になっていることも大きな問題です。それらは官僚の自浄作用に期待できない以上政治が介入して行われる必要があります。要するに政治家が官僚に要求すべきことは個人の恣意ではなくて、そうした世論の反映をこそ迫るべきです。
AERAが「菅氏が自ら築いた『権力システム』の正体とは~」という記事を出しました。
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菅氏が自ら築いた「権力システム」の正体とは 情報取集と人事権を一手に握る「剛腕」と「傲慢」
AERA dot. 2020.9.19(AERA 2020年9月28日号)
「令和おじさん」への親しみと手堅い仕事ぶりへの期待の中、菅義偉政権が船出した。一方で官房長官時代の言動からは強権的な面も目立つ。新首相の実像は。AERA 2020年9月28日号の記事を紹介する。
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「政策に反対するのであれば、異動してもらう」 9月13日の民放の番組で菅義偉氏は、省庁の幹部人事を握る内閣人事局の見直すべき点を問われてこう答えた。政府に異論を唱える官僚は左遷も辞さず、というわけだ。立教大学特任教授の平嶋彰英さん(62)は身をもって体験した官僚の一人だ。2014年の夏以降、当時総務省自治税務局長だった平嶋さんは、菅氏のもとを頻繁に訪れた。菅氏の肝いりで08年に始まった「ふるさと納税」についてだ。返礼品はどんどん豪華になる。寄付すればするほど見返りが大きくなり、金持ちばかりが得をする。税制として適切でないと感じた。その年の12月。平嶋さんは、通知と法律で自治体に返礼品の自粛を求める案を切り出したが、「水をかけるな」と叱られた。当時、菅氏は逆に控除額の上限の倍増などを指示していた。「政府の政策なのかどうかも判然としないものだった」と振り返る平嶋さんだが、いずれにせよ菅氏に自身の意見は通らなかった。異動を覚悟した。
これは翌年の初夏のころ、高市早苗総務相とのやり取りだ。「ふるさと納税で菅さんと何がありましたか?」「去年、菅さんのところに行って怒られて。あの時の件です」「用事を見つけて行ったらどうですか。会っているとそのうち気がほぐれるものだから」。・・・ 行かなかったためか、間もなく自治大学校長へ転出した。「とにかく『軍門に下らない官僚』という例外は許しません。徹底しないとなめられると思っているのでしょう。それでは人は付いてこないと思います」(平嶋氏)
■評価と処遇自身に集中
各省庁の幹部人事は、第2次安倍政権下で14年に発足した内閣人事局が判断するようになった。政治家の意向に官僚が従ったり、忖度したりする仕組みが出来上がった。官房長官は、人事を承認する権限を持つ人事検討会議の中心だ。「令和おじさん」や「パンケーキ好き」の演出にメディアも乗せられた今回の総裁選。菅氏の実像は、国民の目に映るものとは違うようだ。現役の総務官僚も次のように話す。「間違いなく剛腕で、一緒に仕事をした人からは『大変な人』という声が聞こえてきます」
慶応義塾大学の曽根泰教名誉教授(政治学)は、民主党政権以前から官僚が所属する省庁のためではなく、国全体のために働けるような人事制度の改革が必要だと訴えていた。「その意味で内閣人事局には効果がありましたが、欠けていた視点もありました。誰が官僚を評価するのかということです」
結果的にこの間、菅氏の人事への影響力が増大した。文部科学省のある元幹部も「何度も人事案をひっくり返された。どこの省庁も同じです」と証言する。菅氏がなぜこの国のトップに上り詰めたのか。曽根名誉教授はこう説明する。「菅さんという政治家は、人事を中心に、あらゆる情報を集約するのにとてもたけた人です。元々あったものではなく、菅さん本人がこのシステムを作り上げたのだと思います」 (編集部・小田健司)