2020年9月25日金曜日

海外メディアが報じた菅新政権への厳しい評価

 菅新内閣の支持率は何と62%(NHK)で 内閣発足時としては小泉、鳩山内閣に次ぐ第3位でした。菅氏はこれまで官房長官の範囲を超えた政治的発言は殆どしないで、総裁選でも安倍政権を継承すると語っただけなので本当に不思議な話です。いわゆるご祝儀相場で初めて表舞台に登場したのだからという温情があったのでしょうが、それ以上に記者たちが官房長官時代にすっかり威迫/篭絡されていたことが関係していると思われます。 
 その点海外メディアは菅氏を「報道規制を進めた張本人」というシビアな目で見ています。死命を制された日本の記者にその自覚がないのはなんとも情けないことですが、もしも菅氏のいう「安倍内閣を継承する」が保身上の発言でなくて本心から改憲や対米従属を一層促進するというのであれば恐ろしいことです。そもそも温情主義は国民が政権に対して持つものではなく、施政者が国民に対して持つべきものです。日本のメディアも海外メディアの正確な判断力・観察力を持って欲しいものです。ハーバー・ビジネス・オンラインの記事を紹介します。
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「聞く耳持たずで有言不実」海外メディアが報じた菅新政権への厳しすぎる評価
                   ハーバー・ビジネス・オンライン 2020/09/23
 歴代最長となった安倍政権を引き継いだ菅義偉総理大臣。日本国内では「苦労人」か、はたまた「金持ちの道楽息子」かと議論がなされているが、海外ではどのように報じられているのだろう?

報道規制を進めた張本人 
 まず注目したいのは、安倍政権の「レガシー」を継ぐ首相として、さっそく「国境なき記者団」(RSF)から釘を刺されている点だ。(参照:RSF) 
 RSFは「先日指名された菅義偉首相に対し、2012年には22位でありながら、現在は『報道の自由度ランキング』で180か国中66位の位置にいる日本が、再び報道の自由の模範になるよう要請」している。この発表は予想どおりというか、これまで幾度となく記者会見で記者の質問に答えない、質問を制限していることからも、容易に想像できる反応だ。
「しばしば安倍の右腕と称される菅は、ジャーナリストに対する憎悪やメディアへ介入しようとする環境が生まれたことに対して責任を負っている。2019年の記者会見の際、菅は『あなたに答える必要はありません』と、繰り返し『東京新聞』の記者の質問に答えることを拒否し、ジャーナリストたちの抗議を巻き起こした。また、菅はコロナウイルスによるパンデミック下での政府の記者会見の制限にも関わっている」 
 歴代最長政権下では、「教育への公的支出」は38か国中37位、「相対的貧困率」はG7で2番目などなど、さまざまな記録が打ち立てられてきたが、これらは「前政権が残した負の遺産」ではなく、菅首相が積極的に後押ししてきたものとして見られている。

「日本は基本的に報道の自由やメディアの多元主義が尊重されているが、しばしば伝統や経済的影響が、ジャーナリストたちが民主主義の番犬として完璧に機能することを阻んでいる。ソーシャルメディアでは、極端な国家主義者たちが福島の原子力災害や沖縄の在日米軍基地など国にとって“恥ずかしい”とみなされる内容を追うジャーナリストたちに嫌がらせをしている こういった状況を生み出した張本人と目される菅新首相は、はたして汚名返上できるのだろうか。

さっそく指摘されたチグハグさ 
 続いては「AP通信」。菅首相が外交や経済政策などを安倍政権から引き継ぎ、デジタル化を推し進めることを紹介したうえで、次のように報じている。(参照:AP通信)
「彼(菅首相)は規則改革を徹底し、既得権益を打ち倒すと述べた。しかし、新たな党内人事では、主要なポストに各派閥から均等に人員を配置しており、これは総裁選での助力に報いる動きであると見られている」日本国内では実際に「やったこと」よりも、「言ったこと」ばかりが右から左に報道されがちだが、海外メディアからは就任したそばから、そのチグハグさが指摘されている
 また、日本でも注目されている外交についても、懐疑的なトーンがにじみ出ている。「国内での政治手腕と比べ、菅はほとんど外遊をしておらず、その外交力は未知数だが、概ね安倍政権の優先事項を踏襲するのではないかと考えられている」

お先真っ暗な「女性躍進」
 菅新政権を5つのポイントにまとめて報じたのは「ブルームバーグ」だ。各ポイントは次のとおり。(参照:Bloomberg)

 1・「アベノミクス」は続く  2・「ウーマノミクス」は失速  3・官僚よ用心しろ  4・外交はお預け  5・台湾コネクション

 「アベノミクス」の継承と外交手腕については説明するまでもないだろう。「ウーマノミクス」については、安倍政権が掲げた女性を主要ポストの30%に就ける、「SHINE⇒輝かせる」させるという謳い文句とは裏腹に、その数値が10%にまで低下したことが報じられている。さらに閣僚の平均年齢が約61歳で、うち3人は70代。その一人が菅首相自身であることも指摘されている。
 官僚との関係については、菅首相がたびたび官僚主義を打破すると発言してきたことと併せ、河野太郎氏が行政改革・規制改革担当相、平井卓也氏がデジタル改革担当相に就任したことが取り上げられている。そして、台湾コネクションについては、菅首相が安倍前首相の弟、岸信夫氏を防衛大臣に就けたことが紹介されている。岸氏が台湾と密接な関係にあり、これが中国への牽制であるとの見方だ。

ミスを待ち構える若手議員たち
 最後はアメリカ「CNN」とイギリス「BBC」の英米2大メディア。CNNは菅首相が「前日本首脳の右腕」であるため、総理大臣就任は驚くべきことではないとしている。(参照:CNN、BBC)「8月、日本は世界的パンデミックの影響で記録的なGDPの下降が報じられ、2020年4〜6月期、経済は7.8%縮小した。東京ではいまだに延期された2020年夏季五輪を2021年に開催する予定だが、そのころまでに世界的なパンデミックが収まっているかには疑問がつきまとう。また、日本は巨額の公債や高齢化といった長期的な経済、社会的問題に直面している。安倍が社会に呼びかけた職場での男女平等とは反対に、評論家は彼の政権時に十分な進捗はなかったと語る」
 一方、BBCは「菅義偉:予想外の日本国新首相の台頭」という見出しで、上智大学の中野晃一教授のコメントを引用しつつ、次のように報じている。
「『彼はどの派閥にも属していません。彼が権力に登りつめたのは安倍氏のお気に入りだったからです。緊急時には彼の背後にいる党の重鎮たちが奔走するでしょう。しかし、ひとたび危機が去り、重鎮たちが求めているものが手に入らないとわかれば、間違いなく権力争いが起きるはずです』(中略) 多くの“王位を狙う若き者たち”は菅氏がミスを犯すのを待っている。そして、多くの問題が悪しき方向に向かいかねない。安倍首相が辞任を発表する前、主にコロナ対策への不満から支持率は30%まで落ち込んだ」

 就任してからまだ何も行なっていないにも関わらず、高い支持率を集めている菅新政権だが、相変わらずコロナウイルスは猛威を振るい続け、経済は低調なままだ。たいした要因もないまま上下を繰り返す支持率については、おそらく本人もそれほど気にしていないだろうが、記事中でも紹介した数値(もしかしたら国内では破棄・改ざんすればすむのかもしれないが)、そして国民が肌で感じる生活苦は誤魔化しの効かないものだ。
 唯一変えられるとすれば、それは菅首相の「行動」にかかっている。海外メディアに指摘されるような「聞く耳持たず」な姿勢ではなく、総理大臣の職に恥じないような活躍を期待したい。<取材・文・訳/林 泰人>

  【林泰人】ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン