東京新聞の緊急検証 <一強の果てに 安倍政権の7年8カ月> の第8弾は、「道徳の教科化、歴史教科書の検定で『教育に介入』」です。
義務教育制度の改悪は第一次安倍内閣のときに手がけられ、06年に愛国心や郷土愛などを書き込んだ改正教育基本法を成立させました。
とりわけ熱心だったのが「道徳教育」の復活で、第一次内閣では叶わなかったものの第二次内閣で「道徳の教科化」を実現しました。そうした懐古趣味的復活が、道徳とは最も無縁な人物によって実行されたのはまことに皮肉というしかありません。安倍政権は大学入試制度の改革も行おうとしたのですが、内容のあまりのデタラメさに世論が猛反発し結局挫折したのはまだ記憶に新しいところです。本編をもってこのシリーズは終了です。
折しもしんぶん赤旗に「教育公的支出 日本は下位 OECD加盟国GDP比 下から2番目 ~ 」とする記事が載りましたので併せて紹介します。こうした貧弱さを改めることこそが政治に求められています。
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<安倍政権 緊急検証連載><一強の果てに 安倍政権の7年8カ月(8)> 道徳の教科化、歴史教科書の検定で「教育に介入」 現場と溝
東京新聞 2020年9月10日
◆「押し付けに抵抗感」
2018年4月、小学校で「道徳の時間」が「特別の教科」に格上げされた。いじめ問題への対応が発端だったが、「特定の価値観の押し付けにつながらないか、抵抗感があった」。都内公立小学校の女性教諭(60)は振り返る。
「教育の目的は、志ある国民を育て、品格ある国家をつくること」。安倍晋三首相は著書「美しい国へ」(13年「新しい国へ」に改訂)で誇りを持てる国にする意欲を強調。第1次政権では06年に愛国心や郷土愛などを書き込んだ改正教育基本法を成立させた。
道徳の教科化は一次政権で果たせなかったものの、2次政権発足直後の13年1月、安倍首相の私的諮問機関「教育再生実行会議」が発足。保守系の論客も参加し、道徳の教科化、教育委員会改革などを次々と提言した。安倍首相は「強い日本を取り戻していくため、教育再生は不可欠」と力を込め、「盟友」の下村博文文部科学相(当時)らとともにトップダウンで教育政策を実現していった。
◆教科書会社を萎縮させる恐れ
安倍政権では、社会科教科書の検定基準を改定。南京事件などを念頭に、特定の事柄を強調しすぎず、通説的な見解がない場合はそのことを明示し、政府見解や最高裁判例に基づいた記述をすることを求めた。
ただ「通説的見解」など基準は不明確で、教科書会社を萎縮させるなどとして、日弁連が「過度の教育介入で子どもの学習権を侵害する恐れがある」と指摘。「子どもと教科書全国ネット21」の鈴木敏夫事務局長は「安倍政権は教育に介入し『自虐的だ』とする歴史の内容を教科書に書かないように改めた。政府にとって都合のいいようにゆがめた」と批判する。
◆大学入試改革は看板倒れ
幼児教育無償化や高等教育の修学支援など格差解消も目指した安倍政権。一方で、大学入試改革は看板倒れになり、来年から始まる大学入学共通テストでの英語民間試験の活用、国語と数学の記述式問題の導入は見送られ、受験生から「混乱に巻き込まれた」と恨み節が上がった。新型コロナウイルス対策では、学校や保護者の準備が整わないまま、突然の全国一斉休校を要請し、混乱を招いた。
道徳の教科化後、各学校は国の検定教科書を使い、通知表で児童がいかに成長したかを記録する記述式の評価をするようになったが、点数化やほかの児童と比べることはしていない。
女性教諭は「評価は難しい。教科書には責任や自己犠牲などの色合いが濃いと感じられる読み物もある。いじめ自殺がきっかけで教科化されたが、いじめはそんなに単純な問題ではない」と、政治の教育現場への安易な介入に警鐘を鳴らした。(土門哲雄)=おわり
教育公的支出 日本は下位 OECD加盟国GDP比 下から2番目 2017年
しんぶん赤旗 2020年9月10日
経済協力開発機構(OECD)は8日、2017年の加盟各国などの国内総生産(GDP)に占める小学校から大学に相当する教育の公的支出の割合を公表しました。日本は2・9%で、OECD平均の4・1%を大きく下回り、比較可能な38カ国のうち下から2番目でした。
公的支出割合が高かったのはノルウェー6・4%、コスタリカ5・6%、アイスランド5・5%の順。最低はアイルランドの2・8%でした。
公立の初等教育(小学校相当)の1クラスあたりの平均児童数は、OECD平均の21人に対し、日本は27人でした。同じく前期中等教育(中学校相当)の1クラスあたりの生徒数は、OECD平均の23人に対し、日本は32人といっそう差が開く結果となりました。初等・前期中等とも加盟国中で2番目に多い値となっています。
OECDは、新型コロナウイルス感染症の予防対策として、ほとんどの加盟国が1~2メートルの人と人との距離の確保を学校再開の条件にしていると指摘。1クラスあたりの人数が少ない国では距離の確保が比較的容易なのに対し、日本はOECD平均を上回っているとしています。
OECDはまた、日本の国公立大学の授業料(学士課程)について、「データが入手可能な国々の中で最も高い」と分析しています。貸与型奨学金などによって、日本の学生の卒業時の平均負債額は2万7489ドル(約290万円)に上るとしています。