菅氏の答弁スタイルを問題視する記事がAERAに載りました。官房長官時代の会見で出てくる「指摘は当たらない」「問題ありません」などの、理由を示さない結論だけの定型句はもう聞き飽きました。それをなぜ記者たちは追及しないのでしょうか。それどころか彼らは菅氏を「令和おじさん」などと違和感しかない言葉で持ち上げたり、「鉄壁のガード」などと評しました。実に不思議な人たちです。
ただ1人敢然と闘った東京新聞の望月衣塑子記者は、菅氏から「あなたに答える必要はありません」と徹底的に無視されたり、司会者を通じて毎回質問を切り上げるよう急かされたり、ついには質問を1点に限定されるなどの、執拗な意地悪を受けました。菅氏が如何に陰湿な人間であるかを示すものです。
望月氏は、菅氏が問答無用の拒絶型答弁をする理由について「弱みを見せたら終わりだという考え。責任を認めてしまったら弱みに付け込まれるという警戒心」が相当強いと分析しています。また「ご飯論法」を言い出した上西充子法政大学教授は、菅氏の答弁を「ご飯論法」以前のもので、「答えたくないことに対してはノーアンサー」で通す「門前払い答弁」だとしています。
政権との癒着を生み出す記者クラブ制度は世界の中で日本にしかありません。そんな馴れ合いの中で7年あまりも続いてきたこれらの異様な答弁スタイルは、さすがに今後は通用しません。首相として本来あるべき答弁スタイルを菅氏が果たして実現できるのか注目されます。
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意見も回答も拒絶する菅流「門前払い答弁」に懸念の声 望月氏も「記者を馬鹿にしている」と批判
渡辺豪 AER dot. 2020.9.20(AERA 2020年9月28日号)
「令和おじさん」や「パンケーキ好き」の演出もあり6割を超える高い支持率でスタートした菅内閣。しかし菅氏の実像は、国民の目に映るものとは違うようだ。菅氏の答弁スタイルに懸念の声を上げる人たちがいる。AERA 2020年9月28日号の記事を紹介する。
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「あなたに答える必要はありません」。2019年2月26日の会見で菅義偉官房長官(当時)はこう言い放った。相手は東京新聞の望月衣塑子記者。望月さんが「会見は政府のためでも、メディアのためでもなく、国民の知る権利に応えるためにあるものだと思いますが、この会見を一体何のための場だと思っているのか」と質問したことへの回答だ。
望月さんはこう振り返る。「菅さんの回答は記者を馬鹿にしたものだし、私のように政府を追及して質問を重ねる記者はこういう仕打ちに遭うんだということを示す、見せしめのような意図も感じました」。望月さんが最も印象に残っているのは18年12月26日の会見とその後の顛末だという。辺野古の埋め立て工事に投入される土砂に関する望月さんの質問に、菅氏が「答えた」のは以下の3フレーズだった。「法令に基づきしっかり行っております」「そんなことはありません」「いま答えた通りです」
■弱みを見せたら終わり
2日後、思わぬ方向に事態が進む。首相官邸の報道室長が、官邸を取材する記者が所属する「内閣記者会」宛てに望月さんの質問を「事実誤認がある」などと問題視し、「問題意識の共有」を求める文書を示したのだ。「私を会見場から排除したいという菅さんの強権ぶりが、ものすごく反映されていたと思います」(望月さん)。望月さんに限らず、政権にとって都合の悪い質問は取り合おうとしない菅氏。その理由について望月さんはこう指摘する。「弱みを見せたら終わりだという考えが、菅さんの中には相当強くあると感じています。モリカケや桜を見る会の疑惑も『問題はない』と言い続けるしかない。責任を認めてしまった瞬間、弱みに付け込まれるという警戒心が強いからあんな答弁になるのでは」
一方、法政大学の上西充子教授は菅氏の情報発信の特徴をこう指摘する。「言いたいことは言う、それでいて相手の指摘は受け止めない」。9月2日の出馬表明の会見でもその片鱗は見えたという。「アベノミクスの反省点は」との質問に、答えたのは成果のみ。「基地問題で向き合った沖縄への態度には(地方)分権に対する情熱がどこまであったのか」との質問に対しても、辺野古新基地に一切言及しなかった。「菅さんは答えたくないことに対してはノーアンサー。説明をしようという姿勢すら見られない。『ご飯論法』とも違います」(上西さん)。「朝ごはんを食べましたか?」という質問に、「(パンは食べたけど)ご飯は食べていない」と意図的に論点をずらしてごまかす安倍政権の答弁の特徴を、「ご飯論法」として発信した一人が上西さんだ。
「ご飯論法は一見誠実に答えているようで、実は相手をだましながら都合の悪いことには言及しない巧妙さが味噌。でも菅さんの場合、『ああまた、望月がぁ』みたいな不快感が顔に出るし、実際ちらっと事務方に目をやって、『簡潔にお願いしまーす』とか言わせて質問を妨害させる。露骨ですよね」
■質問遮断し共感求める
「菅流」の答弁を上西さんは、「門前払い答弁」と指摘する。「ばしっとドアを閉じてしまう感じ。そうやって相手の質問をシャットアウトしながら、こんなに頑張っているんだという自分の思いは一生懸命話し、共感してもらおうとする」。そうした菅氏の会見対応を、内閣をガードする危機管理の面から「鉄壁」と評する声もあったが、上西さんはそれに違和感を示す。「頼もしいという意味で、私たち有権者が『鉄壁』と言うのはおかしいと思います。政治の説明責任を果たす最高責任者となる菅さんがこういう姿勢を続けるのであれば深刻です」
菅政権では国民と双方向のコミュニケーションが成立しないのか。「問題意識を持つ人たちがいても、その意見が世論に広がらない限りは、自分を支持してくれる人たちさえ押さえていれば政権は揺るがない、という安倍政権下の『開き直りのおごり』が継続されるのを懸念しています」(上西さん)。 (編集部・渡辺豪)