2020年9月3日木曜日

安倍首相が在任中に「敵基地攻撃能力保有」を方向付けよと

 安倍首相は病魔に耐えながら残る2週間ほどの在任期間を過ごすのかと思ったのですが、どうもそうではなく「在任中に敵基地攻撃能力保有の方向性を示す意向を固め、与党幹部に伝えていたいうことです。とても大病持ちとは思えない意気軒高さです。
「敵基地攻撃」は国際法にも憲法にも反する先制攻撃で、専守防衛から逸脱するだけでなくそれを行えば相手国から致命的な大反撃を受けるのが必定なので、抜くことは出来ない刀でありいわば「亡国の構想」とでも言うべきものです。
 そんな暴論を何故この期に及んで言い出したのでしょうか。
 LITERAは、「持病の悪化」を理由に辞意を表明した結果、国民の同情が集まり支持率が急増したことにすっかり気をよくし、改憲を自身の手で果たせなかったことの代わりに、敵基地攻撃能力の保有を「レガシー」にしようとしていると見ています。
 それにしてもよりによって「敵基地攻撃能力保有」とは ・・・ あまりにも的外れです。

 そもそも敵基地攻撃能力の保有は首相のかねてからの持論で、既に小泉政権の官房副長官だった2003年に、「検討すべきだ」と主張していた(東京新聞)ということです。ただ驚く他はありません。それではその後20年近く経つ間に、その論理をキチンと整理・再検討し論争に耐えるものにしてきたのでしょうか。
 とてもそうは思えず、識者たちが「あり得ない主張」と否定するのに対して、反駁できる論理を持っているとはとても思えません。
「コケの一念(苔の一念・虚仮の一念)」という言葉がありますが、それは「正しい目標を立てて辛抱強く一途に取り組めば成就する」ということで、単に誰かに吹き込まれたものをひたすら墨守するということとは大違いです。

 LITERAと東京新聞の記事を紹介します。
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安倍首相が在任中に「敵基地攻撃能力保有」ぶちあげへ
「病気で政治判断を誤る」と辞任を発表したくせに憲法違反の政策を強行
LITERA 2020.09.02
 安倍首相が最後の最後に暴挙に出た。持病の潰瘍性大腸炎の再発を理由に辞意表明したはずの安倍首相だが、〈在任中に敵基地攻撃能力保有の方向性を示す意向を固め、与党幹部に伝えていた〉と共同通信が報じたからだ。
 敵のミサイル発射拠点を破壊する「敵基地攻撃」は、国際法にも憲法にも反する先制攻撃にほかならず、第二次世界大戦の反省から日本が原則としてきた専守防衛から逸脱するものであり、到底容認できない。
 だいたい、安倍首相は辞任理由について「病気と治療を抱え、体力が万全でないというなか、大切な政治判断を誤る、結果を出せないことがあってはならない」と言っていたではないか。ところが、「政治判断を誤る」恐れがあると自覚している人物が、任期中に憲法違反の政策を打ち出そうというのである。何から何まで滅茶苦茶だ。
 しかも、敵基地攻撃能力保有の方向性を示すより前に安倍首相がやらなくてはならないのは、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」配備計画の「停止」についての国民への説明だ。

 そもそも「敵基地攻撃能力の保有」論が急浮上してきたのは、河野太郎防衛相が6月15日に安全性とコストを問題にイージス・アショア配備計画の「停止」を発表したのがきっかけだった。この発表は国会閉会の直前、しかも安倍首相が出席した15日の参院決算委員会後の夕方におこなわれた。つまり、安倍首相が国会で集中砲火を浴びることを避けたというわけだ。
 言うまでもなく、イージス・アショア導入を決めた責任者は安倍首相だ。本サイトでも何度も追及してきたように、もともとイージス・アショアはトランプのセールスに対し、安倍首相がホイホイと応じた“貢物”。購入決定の同時期、すでに日本政府は同性能のイージス艦8隻体制を進めており、イージス・アショアの配備は不要なのではないかと指摘されつづけ、米国のシンクタンクが“日本配備の目的は米国の防衛コスト節約”であると暴露し(詳細は横田一氏連載を参照→ https://lite-ra.com/2019/07/post-4831.html)、昨年には候補地の調査結果に誤ったデータが盛り込まれていることなど選定の杜撰すぎる実態が明らかになって、参院選では配備反対を訴える候補者が当選し民意があらためて示されても、なおも安倍政権は方針を変えようとしなかった。しかも、安全面での問題性が隠しきれないところまできても、安倍首相は配備計画の「停止」をギリギリまで拒否していたのである(詳しくは既報参照→ https://lite-ra.com/2020/06/post-5481.html)。

 こうした問題を野党から追及されたくないために、配備計画の「停止」発表を自分の国会出席後にやらせるというだけでも姑息にも程があるが、さらに安倍首相はこの配備計画の「停止」を逆に利用し、従来から主張してきた敵基地攻撃能力の必要性を訴える機会にすり替えてしまったのだ。
 実際、6月18日におこなった国会閉会にともなう総理会見において、イージス・アショアの配備計画中止について「我が国の防衛に空白を生むことはあってはならない」などと言い出し、敵基地攻撃能力の保有にかんして「抑止力とは何かということを私たちはしっかりと突き詰めて、時間はないが考えていかなければいけない」「政府においても新たな議論をしていきたい」と発言。この発言を契機として、政府や安倍自民党から敵基地攻撃能力の保有の議論を求める声が噴出しはじめたのである。
 そして、本来ならば国会においてイージス・アショア導入決定の責任者として国民に説明をおこなうべき立場であるにもかかわらず、安倍首相はその責任を放棄する一方で、このコロナ禍に、違憲の政策を最後の最後に進めようとしているのだ。

国民の同情を買って「支持率急上昇」に気をよくして調子に乗る安倍首相
 この、あからさまな安倍首相の暴走の背景には、辞意表明以降に内閣支持率が急上昇した件が影響しているだろう。共同通信社が8月29・30日に実施した世論調査では、1週間前の調査より内閣支持率が20.9ポイントも増加して56.9%を叩き出し、同日に日本経済新聞が実施した調査でも7月より12ポイント増の55%となった。
 そもそも、安倍首相が退陣を決めたのは、新型コロナ対策で国民からの厳しい批判に晒され、国会を閉会しても内閣支持率が上昇せず、悲願の任期中の改憲や東京五輪開催にも暗雲が立ち込め、嫌気がさしたというのが本音だろう。実際、総理をつづけられないほどに持病が悪化しているならばすぐに首相臨時代理を立てて辞任し休養をとるはずだが、辞意表明会見でも「幸い、いま新しい薬が効いておりますので(次の総理が決まるまで)しっかりと務めていきたい」「私の体調のほうはですね、基本的には、その間(次期総裁が決めるまで)は絶対に大丈夫」と自ら太鼓判を押していた。

 そして、国民からの同情を買おうと「持病の悪化」を理由に辞意を表明したら、案の定、支持率が急増。これにすっかり気をよくし、改憲を自身の手で果たせなかったことの代わりに、憲法を骨抜きにする、敵基地攻撃能力の保有を「レガシー」にしようとしているのだろう。ようするに、国民が感傷的なポーズにすっかり乗せられて同情を寄せた結果、最後の最後にある意味、改憲よりもタチが悪いこの政策転換という暴走を許してしまったのである。
 しかも、すでに安倍応援団からは「第三次政権」への期待の声があがっているが、内閣支持率の急増によって安倍首相がその気になっている可能性も捨てきれない。「二度あることは三度ある」というが、その悪夢の芽を生んでしまったとしたら、国民にも重大な責任があるだろう。(編集部)


<視点>安倍首相の信念ありきの敵基地攻撃能力の保有検討 
政治部・上野実輝彦 東京新聞 2020年8月28日
 安倍晋三首相が意欲を示す「敵基地攻撃能力」の保有に関する検討が近く、政府内で本格化する。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備撤回に伴い、新たな安全保障政策を策定することが名目だが、唐突感は否めない。現場の要望の積み上げではなく、首相の信念が出発点になっているからだ。
 政府や自民党の議論で前提となっているのが、ミサイル技術を向上させる北朝鮮への対策の必要性だ。北朝鮮は不規則な軌道で低空飛行する新型ミサイルの開発を加速。日本の従来の防衛システムでは迎撃が難しく、発射実験の際は自衛隊のレーダーで航跡を捉えられなかったとされる。
 ただ、専門家の多くは北朝鮮が実際に日本を攻撃する可能性は高くないと分析する。仮に日本を攻撃して米国の反撃を招けば、自国の存亡にかかわるからだ。日本の安保にとっての脅威はむしろ、不透明な軍拡と東シナ海などへ海洋進出を図る中国だろう。
 だが、中国に対抗しうる敵基地攻撃能力を備えるには、膨大な予算と歳月が必要。国防費を過去20年間で10倍に増やしてきた中国に、軍拡競争で挑めば、地域の不安定化につながる。求められるのは軍縮に向けた対話と外交努力で、敵基地攻撃能力の保有は現実的とは言えない。

 にもかかわらず、なぜ唐突に議論を始め、性急に結論を出そうとするのか。敵基地攻撃能力の保有は首相の持論で、官房副長官だった2003年から検討すべきだと主張してきた。自らの信念の実現が優先され、現場の意見は反映されていないのが要因だ。
(中 略)
 その半面、判断を誤り国や国民の利益を損なう危険性とは常に隣り合わせとなる。
 そうならないためには情報を開示し、国会などで議論を交わし、国民や国際社会の理解を深めていくことが必要だ。首相には多様な声に耳を傾ける姿勢が決定的に欠けている。敵基地攻撃能力の保有を検討するなら、必要性や実現可能性、問題点を丁寧に説明することから始めるべきだ。