2020年12月19日土曜日

19- 「官邸の報道支配に驚く」政権批判しない誓約書をと ファクラー氏インタビュー

 しんぶん赤旗日曜版の12月20日号に、ニューヨーク・タイムズ元東京支局長マーティン・ファクラー氏のインタビュー記事が載りました。
 ファクラー氏が支局長就任のあいさつに首相官邸(麻生政権)に行ったとき、「官邸からの取材協力が欲しければ、前任者の記事を批判し、『自分は違う報道をする』旨を文書で提出するように」と言われたそうで、「誓約書」を出さなかったところ、支局長の間、首相にインタビューする機会は一度もなかったということです。
 日本のメディア幹部や記者クラブの記者らは、「桜を見る会」問題が明るみに出されたときにも、安倍首相(当時)と連日のように会食していました。「追及する側と追及される側が顔を突き合わせて食事をする必要がどこにあるのでしょうか」と述べています
 日本はアクセスジャーナリズムに偏っていて、たしかに権力内部から情報を得ることも必要ではあるものの、バランスが大事でもっと政府のウソを暴くような調査報道に力を入れるべきであるとしています。

 そして日本のメディアは太平洋戦争で戦争に協力した反省を立脚点にして戦後再スタートした筈なのに、福島第1原発事故以降の報道姿勢などを見てもそうなっていないと批判しました。
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驚き 官邸の報道支配 「政権批判しない」求められた「誓約」
                        しんぶん赤旗日曜版 12月20日号
   ニューヨーク・タイムズ元東京支局長 マーティン・ファクラーさん
       Martln Fackler =1966年アメリカに生まれる。 91年、東京大学大学
       院留学。 96年再来日し、米国メディアの記者として活動2005年から
       ニューヨーク・タイムズ東京支局員、09年から15年まで同支局長。著書
       に『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』など

 米紙ニューヨーク・タイムズ元東京支局長のマーティン・ファクラーさんが、新著『吠えない犬 安倍政権7年8ヵ月とメディア・コントロール』を出しました。
 ファクラーさんに聞きました。    田中倫夫記者

首相へのインタビューできず

 -米国出身のファクラーさんは、日本での大学院留学などを経て2009年から、ニューヨーク・タイムズ東京支局長を務めました。就任早々驚くべきことに直面したそうですね。
 首相官邸(麻生太郎政権)に支局長就任のあいさつに行ったとき官邸の国際報道官(外務省からの出向)から、「前任者の(「慰安婦」などの)記事が政権に批判的にすぎる」「官邸からの取材協力が欲しければ、前任者の記事を批判し、『自分は違う報道をする』旨を文書で提出するように」と言われました。
 驚きました。以前、中国で取材中、天安門広場前で警官に捕まり、「自己批判」を迫られたことを思い出しました。それで「日本の官邸は中国と同じことを私に頼んでいるのですか」と聞いたら、報道官は「違います、違います」と慌てました。
 そんな「誓約書」を私は提出しませんでした。すると、私が支局長の間、首相にインタビューする機会は一度もありませんでした

 -それはひどい話です。支局長としては 大変だつたのではありませんか。
 他の海外メディアの支局は、何度も当時の安倍(晋三)首相の単独インタビューをしいました。私は本社ら「安倍首相の単独ンタビューをとってい」と言われたこと一度もありません。
 在ニューク日領事館が本社に、「東京のファクラー記者が日本政府に批判的な記事を書いた」と抗議したことがあります。私は本社から非難されるどころか、「プレッシャーに負けずによくやった」といわれました。

会食繰り返す

 -日本とはまったく違いますね。あなたは安倍政権のメデイアコントロールを批判し続けています。何が問題でしょうか。
 安倍氏の辞任表明会見(8月28日)でフリーランスの人から質問が出ました。「(官邸は)質問を事前に取りまとめていた。事前に質問を出した社にしか当てない。それは首相自身の指示なのか。仮に知らなかったとしても、問いと答えが目の前に置いてあるという状況に違和感を覚えなかったのか」。安倍氏はこの質問にまともに答えず、はぐらかしました。首相会見自体が、官邸によって操作されている、メディアコントロールの最たるものだと思います。
 安倍政権下で、政権に批判的だったテレビキャスター、コメンテーターが次々と第一線から引いていきました。その一方で、テレビや新聞の幹部が安倍首相と盛んに夜の会食を繰り返していました。19年11月、「桜を見る会」問題が、「赤旗」の報道と共産党の追及で明るみに出ました。その後も安倍氏は日のように、メディア幹部や記者クラブの記者らと会食していました。追及する側と追及される側が顔を突き合わせて食事をする必要がどこにあるのでしょうか

日本のメディアは「吠えない犬」

 -政権側の問題と同時に、メディア側の問題もきぴしく指摘していますね。
 日本はアクセスジャーナリズム(取材対象に気に入られて内部情報をもらうこと)に偏っています。たしかに、政府や権力内部から情報を得て、それを分析して伝えていくことも必要です。しかし、バランスが大事です。もっと政府のウソを暴くような調査報道に力を入れるべきでしょう。
 しかし、日本のメディアは、政府や権力が伝えたい情報、ストーリーをうのみにしていることが多い。アクセス権を奪われる、締め出されることに恐怖を感じています
 ジャーナリズムというのは本来、権力者にほえる「Watch Dog」(番犬)のはずです。しかし日本では権力者を守る「ポチ」になってしまっている。ここが一番不思議ですね。

 -日本でもかなり昔の話ですが、佐藤栄作元首相が退陣会見で「新聞は嫌い、話したくない」と言って、新聞記者全員が ボイコットしたことがありました。
 日本のメディアは太平洋戦争で戦争に協力するという大失敗をしたので、それを覚えている世代が元気なうちはまともだったと思います。その歴史を知らない世代が中心になると、「楽な」方向に行く。福島第1原発事故という「安全神話」の崩壊という大失敗から学ぶべきでしたが、そうなっていません
 アメリカのメディアには、ベトナム戦争、イラク戦争での失敗がまだ生々しく記憶されています。「イラクは大量破壊兵器を持っている」などの政府のウソを見抜けず、協力したことへの反省も強いです。
 「赤旗」の役割

 インターネットのSNS上では、真実とフェイク(ウソ)が隣り合わせです。日本やアメリカでは政府が平気でフェイクを流している。だからこそ、「番犬」の役割を巣たす健全なメディアが必要です。デマゴーグが横行する社会になってはいけない。そうしたことへ抵抗する役割を「しんぶん赤旗」にはお願いしたいです。