2020年12月30日水曜日

学術会議への攻撃 異論を排除する強権政治は許されない

 日本学術会議会員の任命拒否問題は、国会の論戦でも、そして千数百もの学術団体からの抗議声明によっても菅首相の論拠は総崩れになりましたが、国会が閉会したことによって逃げ切ったとでも考えたのか撤回する動きは全くありません。

 そもそもこの問題は菅首相が杉田官房副長官と図って「政府からの独立を維持してきた学術界を官僚と同様に支配しようと踏み込んできたもの(前川喜平氏)」であり、国家権力が公然と日本学術会議の聖域に踏み込むものです、
 しんぶん赤旗は、自民党が15日に発表した学術会議を政府から独立した法人に変えるする提言は、学術会議を「国の特別の機関」から切り離し、その地位を低め権限を弱めようとするものであり、今の専門別の分科会を廃止して、テーマ別のプロジェクトにもとづく委員会の設置まで提起したのは、時の政府の「政策」を推進するための「シンクタンク」へと変質させるものであると批判する「主張」を出しました。
 史上最悪だった安倍前政権は一連の反動立法を強行し遂には戦争法まで制定しました。それを引き継いだ菅政権が今度は憲法上の規定である(と同時にそれ以前の原理である)「学問の自由」を踏みにじろうとしています。絶対に許せません。

 併せて小林節・教授による「ここがおかしい 小林節が斬る」の二つの記事を紹介します。
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主張 学術会議への攻撃 異論排除する強権政治許すな
                       しんぶん赤旗 2020年12月27日
 日本学術会議への人事介入は、菅義偉政権の素顔―強権政治をあらわにした大問題です。これに対し千数百もの団体が抗議声明を上げ、国会論戦を通じ任命拒否の論拠は総崩れになりました。異論を強権で排斥するのは安倍晋三前政権からの特徴ですが、その矛先がついに科学者に向けられた重大事態をこのままにできません。

自民の危険な見直し提言
 学術会議法は、科学者を代表する機関である学術会議が「優れた研究又は業績」を審査して選考した会員候補を推薦するとしています。その任命を首相が拒否することは、同法が定める学術会議の独立性の破壊であり、憲法23条の「学問の自由」の侵害です。
 菅首相は、公務員の選定・罷免が主権者である国民固有の権利であることを定めた憲法第15条1項を、首相が公務員を恣意(しい)的に任命できるかのようにねじ曲げ、任命拒否を合理化する根拠にしています。首相による独裁国家への道を開く暴論です。
 理由を示さず権力が異論を排除することは、社会を萎縮させ、分断をもたらしかねません。
 「学問の自由」だけでなく、表現や言論、思想・良心という国民の精神的自由の侵害にもつながる国民的な大問題です。学会から映画人、自然保護団体、宗教者まで幅広い人々から抗議の声が出されています。かつてない動きです。
 政府・自民党は、任命を拒否する一方で、「学術会議のあり方の見直し」を求めています。問題をすりかえるばかりか、学術会議を変質させ、独立性を奪う狙いがあることは明らかです。
 自民党が15日に発表した提言は、学術会議を「国の特別の機関」から「政府から独立した法人」に変えるとしています。国から切り離し、学術会議の地位を低め、権限を弱めようとするものです
 提言は、学術会議に「政策のための科学」の機能強化を求め、今の専門別の分科会を廃止して、テーマ別のプロジェクトにもとづく委員会の設置まで提起しています。時の政府の「政策」を推進するための「シンクタンク」へと変質させるものです。

 人文・社会科学系の会員の比率を下げることも求めています。現在の人間と社会のあり方を相対化し、批判的に省察するという人文・社会科学の独自の役割を弱体化させることになります。
 科学が発展し、その成果を国民が享受するには、「学問の自由」と学術会議の独立性が不可欠です。それは、権力による学問への弾圧がくりかえされ、科学者が軍事研究に総動員された戦前・戦中の歴史の教訓です。

独立性を奪ってはならぬ
 学術会議の提言・報告は、今年だけで83件にのぼります。これまで新型コロナ等の感染症対策やジェンダー平等、東日本大震災の被災者救援と復興、気候変動、環境対策、原発、エネルギーなど社会が直面するさまざまな課題に科学的よりどころを与え、国民生活や権利の向上に貢献してきました。
 学術会議が独立性を失うなら、こうした役割を担えなくなります。学術会議への人事介入は、一部の科学者の問題ではなく、すべての国民にかかわる深刻な問題です。日本共産党は、党の存在意義をかけて、違憲・違法の任命拒否の撤回までたたかいぬく決意です。


ここがおかしい 小林節が斬る!
学術会議任命拒否問題 問われて答えられないなら首相失格
                         日刊ゲンダイ 2020/12/17
  小林節 慶応大名誉教授
 1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバ
ード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生
テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制
の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その
後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著
書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著)

 臨時国会で所信表明演説を行った日の夜、菅首相はNHKのニュース番組に出演した。そこで日本学術会議の任命拒否問題を問われて、「説明できることとできないことがある」などと目に怒りをみなぎらせて答えを拒否した。
 その直後に、内閣広報官がNHKに電話して「首相は怒っていた」旨を伝えたとのことである。
 さらに、最近、官房副長官が、取材に対して、「首相への出演依頼は『所信表明』についてだったのに、番組では、所信表明で触れていなかった『学術会議』問題への質問が多かった。これは『約束違反』である」旨の認識を示したとのことである。
 今年は米国で大統領選挙があったので、日本でも米国の政治家たちの演説や記者会見をテレビで見る機会が多かった。そこでは、責任ある政治家たちが、当然、原稿なしでその場に合わせて自分の意見を語り、突然の質問にも逃げずに臨機応変に答えていた。これが、言葉によって立つオピニオン・リーダーたる政治家の在り方であろう。

 今回、菅首相は、憲法23条(学問の自由)を根拠に、特別法により、一般職公務員とは違った自律機関とされている日本学術会議の人事に介入した。これは明白に違憲・違法な異常行動であるが、首相はあえて介入した。
 だから、それには政治家として確たる理由があったはずである。もしそうでなかったら、そもそも介入すべきではなかった。
 にもかかわらず、それほど重大な決定を首相として公然と行っておきながら、主権者国民の知る権利を代行しているNHKの番組内で、その「時の話題」を問われて「答えられない」と凄み、後に側近から「約束違反だ」と言わせて放置する。全く論外な話である。

 公人中の公人である首相が、現行の憲法と法律に明らかに矛盾する政治的決定を行った事実は動かしようがない。そして、その点を公然と問われて、答える内容を持ち合わせていないのなら、政治家失格である。また、きまりが悪くて答えられないのなら、それは悪事の自白のようなもので、これまた政治家失格である。
 この人は本当に首相の器なのであろうか?


ここがおかしい 小林節が斬る!
学術会議任命拒否問題 今度は準備してから嘘をつくのか?
                          日刊ゲンダイ 2020/12/18
 10月のNHK報道番組では、「問われない」約束だと思っていたせいか、学術会議会員の任命拒否について問われたら、怒って回答を拒否した菅首相であるが、12月4日の記者会見では、むしろ笑顔で明解に自説を開陳した。
 いわく、 ①内閣法制局の了解を得た政府の一貫した考え方は、必ずしも(同会議からの)推薦通り任命しなければならないわけではない。 ②日本に研究者は90万人いるが、学術会議に入れるのは会員210人と連携会員2000人だけで、彼らの推薦がなければ新しい人が入れない現実がある。既得権益、悪しき前例主義を打破したい。 ③そういう観点から自ら判断した。
 しかし、①かつての「戦争法」(平和安全法制?)騒動の際に、「憲法9条の下では海外派兵は禁じられている。つまり、改憲せずに海外派兵はできない」という歴代自民党政権の「一貫した」見解を守っていた法制局の長官を更迭して強引に解釈変更を行わせた安倍政権の官房長官が、今、法制局の「了解を得た」とは、驚かせないでほしい。しかも、学術会議の推薦を拒否できるという立場が「政府の一貫した考え方」だとは、真っ赤な嘘である。憲法23条(学問の自由)の下で、学術会議は、一般職の公務員とは別建ての特別法で人事の自律性が保障されている……というのが、政府の一貫した立場である。 ②既得権益と悪しき先例主義を言うならば、世襲議員、政党助成金、記者クラブ等、目の前に真性の悪しき既得権益があるではないか。しかも、以上は、問われているあの6人を拒否した理由を何も語っていない ③こんな判断しかできないのなら、政治家としての資質が問われて当然である。
 どんなに良い制度でも、長い歴史の中で、正しくない運用が行われて悪しき慣行ができ上がってしまうことはある。しかし、学術会議については、必要な改革はその自治に委ねるべきだというのが、人類の歴史的体験に学んだ憲法23条の趣旨である。
 そして、一番行ってはいけないことだとされているのが、政治権力による学術組織に対する人事介入である。この点だけは譲りようのない世界の常識である。