2020年12月24日木曜日

日本学術会議の問題は終わっていない/内閣支持率はすぐに3割も切る

 日刊ゲンダイに週1で連載されている立岩陽一郎氏によるコラム「ファクトチェック・ニッポン」が、12月のNHKの世論調査で日本学術会議問題がネグられていることを問題視しました。メディア全般にこの問題を取り上げる機運が薄まっているともしています。
 立岩氏は、共産党の田村智子参院議員が取り寄せた内閣府文書「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」が、A4判1000枚超に及ぶものであると紹介し、なぜ「会員を内閣総理大臣に推薦する」とした条文 6人を任命拒否したことを正当化する根拠にするための文書がこれほど膨大なものになるのかは明らかで、文面が次々に修正されているからです虚偽を取り繕うには実に多大な文言を要するという訳です。
 そして首相がこの問題は押し切れると見ているのは、日本学術会議が知識人のための組織で、知識人を叩くことは庶民から喝采を受けるという計算から来るのかもしれないとして、「独裁国家が最初に民衆の支持を得るために叩くのは知識人である」ことを忘れてはいけないと警告しています

 せめての「救い」として!?、日刊ゲンダイの記事「悪夢のXマス、暗い正月 この政権の支持率はすぐに3割も切るだろう」を併せて紹介します。
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ファクトチェック・ニッポン
NHKは日本学術会議の問題は既に終わったと考えているのか
                    立岩陽一郎 日刊ゲンダイ 2020/12/23
   立岩陽一郎 ジャーナリスト
    ジャーナリスト。1967年生まれ。91年、一橋大学卒業後、NHK入局。テ
    ヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て、2016年12月
    に退職。現在は調査報道を専門とする認定NPO運営「INFACT」編集長。
    フジテレビ「とくダネ!」、毎日放送「ちちんぷいぷい」出演中。

 NHKの12月の世論調査を見て驚いた。それは、内閣支持率が14ポイント下がって42%となり、支持しないが17ポイント上がって36%だったという内容ではない。調査によっては不支持が支持を上回っているものもある。

 私が驚いたのは、この調査項目の中に日本学術会議に関する総理の対応が含まれていなかったからだ。「桜を見る会」の安倍前総理の説明納得度は入れているのに、だ。NHKはこの問題は既に終わったと考えているのだろうか? もっとも、これはNHKだけではないのかもしれない。メディア全般にこの問題を取り上げる機運が薄まっている印象がある。
 しかしながら一部の記者は引き続きこの問題を取材し精力的に報じている。こうした中、共産党の田村智子参議院議員の要求に対して内閣府がある文書を開示した。「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」と書かれた文書など。17条とは、会員を「内閣総理大臣に推薦する」とした条文だ。つまり菅総理が推薦された6人を任命しなかったことを正当化するための文書だ。その文書を知り合いの新聞記者に見せてもらって驚いた。A4判の書面は1000枚超。積み上げると10センチを超える高さだ(写真)。なぜこれだけあるかというと、正当化するための文面が次々に修正されているからだ。

■後付けの理由を必死でひねり出す「優秀な官僚」
 例えば、18年10月19日の書面では、「内閣総理大臣は、日本学術会議からの推薦を十分に尊重する必要があるのであって、実質的な任命権は日本学術会議にあり」となっていて、「内閣総理大臣の任命権は形式的なものになることが期待されているといえる」と続いている。それが、同年10月25日には「内閣総理大臣の任命権が全く形式的なものであると解することは適当ではない」となり、「内閣総理大臣は日本学術会議から推薦された候補者を任命しないことができると解することが適当である」と変更されている。更に、そのために任命数を上回る候補者の推薦を求める点も盛り込まれていく。内閣府の官僚が上からの指示を受けて何度も文面を修正する状況が開示された文書から読み取れる
 こうした文書には既視感がある。無理やり検察庁法を改正して検察幹部の人事に政府が介入しようとした時の、政府の文書だ。そこから見えるのは、後付けの理由を必死でひねり出す「優秀な官僚」の姿だ。
 菅総理はこの問題は押し切れると見ているようだ。それは日本学術会議が知識人のための組織で、知識人を叩くことは庶民から喝采を受けるという計算から来るのかもしれない。仮にNHKが世論調査の項目から外したのが、それを踏まえてだとしたら極めて残念だ。
 しかし私たちは忘れてはいけない。独裁国家が最初に民衆の支持を得るために叩くのは知識人だ。私たちは今、そうした道へ向かっている。我々市民も、メディアもそれを強く認識しないといけない。2020年最後のコラムで残念ながらこう書かねばならない。この政権は危ない。
          ※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。
             tateiwa@infact.press


悪夢のXマス、暗い正月 この政権の支持率はすぐに3割も切るだろう
                       日刊ゲンダイ 2020年12月22日
                      (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 まさにつるべ落としである。
 菅内閣の支持率がまた暴落した。今度は先週末の19、20日に世論調査を実施した朝日新聞とANNだ。朝日は支持が前回11月の56%から今回39%となり、17ポイントの下落。不支持は20%から35%へと15ポイント上昇した。ANNも支持は38・4%で、前回比17・5ポイントの下落。不支持は39・6%で、前回比17・1ポイントの上昇。支持と不支持の逆転現象まで起きた。
 前週の11~13日に行われたNHKの世論調査で、内閣支持率が14ポイントもの大幅下落となり、慌てた菅首相は14日、突如「Go Toトラベル」の今月28日から来月11日までの全国一斉停止に踏み切った。だが、朝日とANNの数字を見る限り、「Go To停止」は政権浮揚に全く効果ナシだった。
 政権内部には「Go To停止」を「英断」なんて持ち上げる声もあったが、世論は冷ややか。「遅すぎた」「もっと早く判断する必要があった」が8割に上っている。大人数でステーキ会食に繰り出す「感覚のズレ」も、国民の怒りの火に油を注いだのは間違いない。
 世論の動向に詳しい明大教授の井田正道氏(計量政治学)はこう言う。
「これまでの高い支持率は、久々の叩き上げ首相へのふわっとしたご祝儀相場なので、何かあれば土台はもろい。学術会議問題や『桜を見る会』問題だけでは、支持率に大きな影響がなかったものの、国民生活に直結するコロナ対応のまずさによって、支持率急落の雪崩を打った形です。『Go Toキャンペーン』の対応のブレや判断の遅れを見て、世論は『信念を持った政策ではない』『頼りない』と落胆した。今はコロナ禍の危機的な時期で、国民は『メッセージ性』を求めている。菅首相はそうした国民の期待に応えられず、存在感を発揮できていません」

「年末年始だけは」の願いかなわず
 年末年始を挟んだ「Go To停止」に飲食店の営業時短。故郷への帰省すらはばかられる。今年は消費者も事業者も、悪夢のようなクリスマスと暗い正月を過ごさざるを得ない。これは誰の責任なのか。新型コロナ対策で何の効果的な手も打ってこなかった菅政権の「人災」に他ならない。
 アジアで最悪の感染状況なのに、「欧米に比べて感染者が少ない。死者が少ない」などと甘くみてきた。ただでさえアクセルとブレーキを同時に踏むなんて無理なのに、実際はGo Toだけのアクセル一本やり。連日連夜、官邸近くの高級ホテルで仲間内と会食するだけでは、感染拡大を恐れる庶民の気持ちなど分かるはずもない。
 で、重症者が急増し、全国で病床が逼迫するのを見て、立ち往生しているのが今の菅政権だ。
 昨夜(21日)、TBS系の「NEWS23」に出演(収録)した菅首相は、世論調査で内閣支持率が急落していることを問われ、「新型コロナ対策で結果を出すことが大事だ。やれることは全てやるという意識で、先頭に立って取り組む」と強調していた。
 だが、そんな口先アピールはもはや通用しない。9月16日の首相就任会見で、「今、取り組むべき最優先の課題は新型コロナウイルス対策です」と豪語していたのに、何もしなかった。コロナ対策そっちのけでやってきたのは、学者パージと安倍隠しだけだ。
 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「安倍政権以上に酷い政権であることを国民に分かりやすく示した3カ月だったと思います。就任早々、日本学術会議の新会員候補6人を任命拒否して、気に入らない人を排除し、強権を振りかざした。そして、排除した理由を説明しないだけでなく、説明する答弁能力もない。トップリーダーとしての能力や資質に疑問符が付きました。一方で、安倍政権から続く、森友問題や桜を見る会の問題については、再調査することなく、フタをする。桜問題に捜査のメスが入っても、当時、官房長官として安倍氏をかばってきたのに、説明責任を果たそうとしない。さらには、コロナ無策の結果、『勝負の3週間』を『敗北の3週間』にして、『書き入れ時の年末年始だけは』という国民の切なる願いを踏みにじった。この首相はダメだという失望が支持率急落に表れています」

メルケル首相と比べ泣けてくる「メッセージ力」のなさ
 この3カ月ではっきり分かったことは、菅政権は、今、何をすべきなのか、国民が何を求めているのかを全く感知していないことだ。政治センスはもちろんのこと、判断力、広報力、説明力と何から何までダメという珍しさ。石破元幹事長と岸田前政調会長と戦った自民党総裁選の際に「国家観がない」「ビジョンがない」と散々だったが、それは首相になっても一切見えず、携帯電話の料金値下げといった各論の政策に終始するだけ。政治家なのに言葉で説明し、説得する能力を持たず、国民に訴えかけるメッセージを出せない
 コロナ感染拡大を受け、いつも冷静沈着なメルケル独首相が「祖父母と過ごした最後のクリスマスでしたという事態にしないで」と、珍しく感情をあらわにして国民に訴えかけたことがニュースになった。そんなメルケルと、ステーキ会食の「ガースー」を対比して悲しくなった人は少なくないだろう。
「国民の命と生活を守る」が言葉だけで空回りし、Go To固陋で見えたように、自分たちの利権を守ることを優先しているから、国民の姿が目に入らないのだ。
 政治評論家の野上忠興氏がこう話す。
「8年近く安倍前首相をそばで支えてきたので、『自分だって首相をやれる』という甘い考えや変な自負心があったのでしょう。菅氏は官房長官のまま総理大臣をやろうとした。しかし、トップとナンバー2は違う。意識も考え方も変わらなければいけないのに、官房長官のままで、結局失敗し、国民にも『総理の器にあらず』を見抜かれてしまった。今後は、通常国会の行方や東京五輪が本当に開催できるのかどうか、そしてコロナの感染拡大が収束するのかどうか。そういった“変数”はあるものの、資質の問題が根本だけに、支持率がさらに下がることはあっても上がることはないでしょう」

来年度予算成立で「菅降ろし」
 すぐに支持率は3割を切って、「危険水域」に突入することになるだろう。年明けの通常国会もおそらく火だるまだ。
 支持率急落を受けて、自民党内も菅に対する不満が渦巻く。最近、政界で話題になっているのが「菅政権が12年前の麻生政権に似てきた」という見方だ。
 麻生政権も衆議院の残り任期1年というタイミングで発足。50%近い高い支持率もあり、早期の解散総選挙を検討したもののリーマン・ショックが起き、解散を見送った。その後は、経済危機の中で、連夜の高級クラブ通いが批判を浴び、漢字の誤読を連発するなどして支持率が急落。そして、党内で首相退陣を迫る「麻生降ろし」に発展。そのまま居座ったものの任期満了直前の追い込まれ解散となり自民党は大惨敗した。
 当時を知る麻生派関係者は「来年度予算案が成立したら『菅降ろし』が始まるかもしれない」と話している。
 来年度予算案との絡みでは、31年前の竹下内閣の総辞職の再来も囁かれる。リクルート事件で首相自身の疑惑も浮上し、支持率が急落。野党が審議に応じず、国会が空転し、総辞職と引き換えに予算案の成立を求めたのだった。
 そんな古い話が出てくるほど、身内の自民党内が菅政権の先行きを危ぶんでいるのである。
『菅首相で総選挙を戦うなんて冗談じゃない』というのが、今の自民党内の空気です。逆風がブンブン吹きまくっている。解散できないまま、来年9月の残り任期までのどこかで退陣することになるのか。『Go To停止』の判断が遅れたことが致命傷になりました。二階幹事長に気を使ったのでしょうが、『自分』というものがない首相の末路です。自分で自分の首を絞めたと言えます」(野上忠興氏=前出)

 すべてがトンチンカンで場当たりの「裸の王様」政権に今後の上がり目はない。